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竜崎くんは今日もかっこいい  作者: 紗羽


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9/21

 


 朝の始まりからとても充実していたから、今日一日とても素敵な一日になりそう。

 そう思いながら午前の授業を終えると、昨日と同じように竜崎くん、三橋くん、榛名くんの三人は売店へと歩いて行った。

 今日は美月もお弁当を持ってきたらしく、机はそのままに彼女は横向きに椅子に座ってお弁当を食べ始めた。


 彼女を呼び捨てするのはまだ少し恥ずかしいけど、美月と距離が近くなったのを感じて控えめながらも会話を楽しめるようになってきた。


 お弁当のおかずを口に運んで咀嚼している間は暫し沈黙になる。

 すると、誰かの囁き声が耳に入ってきた。



「……ねぇ、ちょっとあの子どう思う?」

「絶対調子乗ってるよね?」


「!」


 聞こえてきた声に息を呑んだ。

 チラッと廊下に視線を向けると、こちらを向いてヒソヒソと話している女子生徒たちの姿。

 教室内にもこちらを見ている人たちがいる。


 昨日から親しくしてくれている人気四人組のファンの子達なのだと一目見て分かった。


「だいたいあの子なんなの?」

「ほら、いつも教室で本読んでた地味な子よ」

「あぁ〜、いたっけそんな子」


 クスクスという嫌な笑い声が聞こえてくる。


「……っ」


 私は、ギュッと拳を握り締めた。


 この席になった時点で覚悟はしていた。

 ファンクラブの子達に目をつけられるって。


 浮かれていた気持ちが一気に沈んでいく。

 彼女達が言うように、私みたいな地味な奴が学園内で人気な四人と仲良くなるべきではないのだ。

 それを分かっていた筈なのに、優しく接してくれる美月やみんなに甘えてしまっていた。


 居心地悪そうに俯いた私の頭に、そっと何かが触れた。


「!」


 驚いて顔を上げると、美月が私の頭に手を乗せていた。

 その手がゆっくりと左右に動かされる。

 頭を撫でられているのだと分かって、私は戸惑いながらも美月を見つめた。


「気にしちゃダメよ?私達が結衣と仲良くしたいから一緒にいるんだから」

「……!」

「他人の言うことなんて気にしないで」


 ね? と美月は小首を傾げながら綺麗に微笑んだ。

 ファンクラブの子達のことを"他人"だと言ってのけた彼女に落ち込んでいた気持ちが少し緩和する。

 囁き声が大きくなるけれど、美月が笑いかけてくれる今だけは穏やかでいられる。

 私は小さく頷くと、またお弁当のおかずを口に運んだ。




 * * * *




「……。」


 美月は結衣の様子を見つめた後、机の上に置いていたスマホをそっと手に取った。

 トトトッ、と慣れたように文字を入力してメッセージを送る。


 すぐに既読が付いたのを確認してまたスマホを机の上に置いた。


 その間も廊下や教室から囁く声が次々と聞こえてくる。


 元々大人しく争い事を避けてきたであろう結衣にとっては、相当堪える状況であると思う。

 現に彼女は視線を彷徨わせながら、周りの声を気にしないようお弁当の中だけを見つめ続けている。



「(結衣の気持ち、凄くわかる……)」


 美月は顔を俯かせた。


 美月は、小等部の頃から三橋蒼真、竜崎雅人、榛名悠と仲良くしている。

 この三人のファンの殆どは女子生徒。

 だから人気な三人と一緒に行動している自分はよく目をつけられていた。

 それも年月が経てば落ち着いてくるのだが、この学園には編入してくる子も多い。

 だから、中等部に進級すると新しく入ってきて三人のファンになった子達から陰口を叩かれる。


 それが落ち着いてきたら今度は高等部……。



 今だって、自分に親しげに話しかけてくれる子達の殆どがきっと三人が目的だと思う。

 女子トイレで自分の陰口を聞いたことも何度もある。


 だから、本当の友達なんて、私には……きっといない。



 沈んでいく気持ちを振り解くように首を横に振ると、美月は急いでお弁当のご飯を口に無理矢理入れていった。

 カチャン、とプラスチックの音が聞こえて隣を見ると、結衣がお弁当を食べ終えて空になったお弁当箱を片付けているところだった。

 それを見て、美月は最後の一口を飲み込むと、バタバタとお弁当箱を片付けてすぐに立ち上がった。


「結衣、屋上に行きましょ!」


 そう言って、結衣に手を差し出す。

 すると、結衣は小さく微笑みながら頷いて、自分の手をそっと握ってくれた。


 結衣の手を引きながら痛いくらい静かな教室を歩いていく。

 教室の出入り口にはファンの子達。


「(声掛けられませんように……)」


 そう心の中で唱えながら歩いていくが、その願いは届かなかった。



「ちょっと待ちなさいよ」

「!」


 トンッと軽く肩を押されて無理矢理止められる。

 美月は、結衣を背中に庇うようにして目の前の女子生徒を見た。

 美月の肩を押した女子生徒の左右には子分のような女子生徒が二人立っている。


「何?」

「美月、その後ろの子……こっちに寄越してくれない? 色々話したいことがあるんだけど。」


 ビクッと結衣の体が小さく震えたのが繋いだ手から伝わってくる。

 目の前の女子生徒達にもそれが見えたのか、クスッと笑った。


「その子には部を弁えてもらわないといけないもの」

「地味で陰気な子が蒼真くんや竜崎くん、榛名くんと一緒にいたら汚れちゃうもの」


 アハハッ、という楽しげな笑い声が降ってきた。

 女子生徒三人の言葉に、結衣が俯いている。

 小さく震えているのが分かった。

 必死に女子生徒達から浴びせられる嫌味に耐えている。


「話だったら後で蒼真くん達が戻って来てからでもいいかな? 貴女達は蒼真くん達のファンなんでしょ?」


 そう言って美月が笑いかけると、目の前の女子生徒達はあからさまに嫌そうな顔をした。


 だいたいこう言うと引いてくれる。


 ファンの子達は蒼真や竜崎、榛名との接触を求めている子も多い。

 だから自分がこう言えば擦り寄って仲良くしてこようとしたり、三人に嫌味を言った事を知られたくなくて慌てて逃げて行ったりしてくれる。

 この言葉のお陰で、小等部から三人と仲良くしている自分に楯突く人も減ってきていて、四人組と言われることも少しずつ増えてきた。

 やっと自分の存在が認められてきた、そう思っていた。



 ……しかし、今日は違った。


 よっぽど結衣の存在が気に入らないのだろう、女子生徒達は互いに顔を見合って頷くと、美月と結衣を見下すように腕を組んで言った。


「前々から思ってたけど、美月、アンタのことも気に入らないのよね」

「蒼真くん竜崎くん榛名くんに金魚のフンみたいに付いてまわってさ」


「…………」


「自分がちょっと可愛いからって調子乗ってるんでしょ?」


 クスクスという笑い声が聞こえた。




 * * * *




「……!」


 女子生徒達の嫌味に耐えていた私は、俯いていた顔を上げた。

 標的が美月に変わってしまった。

 自分を庇ったせいで……っ。


 美月に背中に庇われながら、私は教室の中を見た。

 美月と仲良くしていた友達は、彼女が嫌がらせを受けているのに何故助けに来ないのかと気になったからだ。


 ……すると、いつも美月に話しかけていた子達は、今目の前に立ちはだかっている女子生徒達と同じ顔をしてこちらを見ていた。

 それだけでなく、楽しそうにクスクスと嫌な笑いをしている。



「……っ」


 それだけで全て理解してしまった。


 美月は、私の知らないところでずっとこの嫌がらせを受けていたのだ。


 繋いでいる手に力が込められる。

 美月の肩が小さく震えていた。



「アンタ、目障りだから消えてくれない?」


 アハハッ、という笑い声に合わせて教室内や様子を見に来た取り巻きからもクスクスと笑い声が聞こえてくる。



「――……っ」


 私はグッと歯を食いしばると、美月と女子生徒の間に割り込んだ。


「美月の事悪く言わないでっ!」

「!」


 私は三人に向かって叫んだ。


 自分でも驚くくらい大きな声が出た。

 周りの視線が一斉に自分の方へ向けられる。


「は?」

「何こいつ」


 冷たい目を三人から向けられて体が震える。

 なになに喧嘩?、と様子を見にくる人達がどんどん廊下に集まってきた。


 それでも私は、キッと女子生徒達を睨んだ。



「私の……私の友達を傷つけないでっ!」



「―――っ!」


 美月は結衣の言葉に息を呑んだ。

 自分を庇うように立って、震えている体で必死に戦ってくれる彼女に胸が熱くなった。


 争い事を避けて来たであろう、大人しく控えめな彼女が、

 友達だという私の為に……。


 こんな状況なのに嬉しさが込み上げてきた。



「何なのコイツ! ウザっ!」

「キモいんだけどっ!」


 取り巻き二人が口々に悪口を言いはじめる。

 しかし、それでも歯を食いしばってこちらを睨み続けている結衣に、真ん中に立っている女子生徒は苛立ったように舌打ちをすると、結衣の肩をドンッと突き飛ばした。


「っ!」


 その反動で結衣の体が教室の扉に当たり、大きな音が鳴る。


「ウチらに楯突いてくる奴には痛みで分からせてあげるっ!」


 女子生徒の手が思い切り振り上げられた。

 それが勢いよく結衣に向かって振り下ろされる。


「……っ」


 頬に当たる。

 痛みを受ける覚悟でギュッと目を閉じた。





 パシン、と乾いた音が響く。


 しかし、一向に頬に痛みが来る気配がない。




「私の友達に手をあげないでくれる?」


 優しい声が聞こえてきた。




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