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美月と結衣、そして榛名と竜崎。
それぞれの場所で遊んだり話をしたりした、その日の夜。
「……。」
竜崎は、自室のベッドに座って、ひたすらスマホを睨んでいた。
清水にどうアクションを起こすべきか悩んでいた竜崎に、『この土日の間に、とにかくなんでもいいから結衣にメッセージを送れ!』と榛名からのアドバイスという名の課題が出された。
日常的に会話ができるようになれば、彼女のことを知るきっかけにもなるだろう、という理由だ。
しかし、榛名の言う"なんでもいい"が分からない竜崎。
これまでの蒼真や榛名、美月とのメッセージのやりとり履歴を見返しても、彼らが一方的に要件や話題を送ってきて、それに自分は『了解。』『わかった。』といった短文の返信をしているだけ。
自分から送ったものは、業務連絡のようなものばかり。
「……。」
詰んだ。
完全に詰んだ。
竜崎は頭を抱えて深く溜息をついた。
昨日清水を自宅に送り届けた後、すぐにメッセージを送らなかった自分を心の底から恨んだ。
「(話題作りって、結構難しいもんだな……)」
日常的に何か話題を振って会話を続けている三人のコミュ力の高さを改めて痛感した。
そして自身のコミュ力の低さも。
そっとスマホを手に取ってメッセージアプリをタップし、清水とのトーク画面を開くと、昨日のやり取りが表示された。
「噂を訂正する」という内容の、清水からのメッセージと、
それに対して、「噂をそのままにしてくれ」と送った自分のメッセージ。
竜崎はスマホを握り締めた。
"好意を持っているのは……俺だけかもしれない"
そんな考えが頭を過ぎる。
しかし、それと同時に榛名の言葉が掠めた。
『結衣の気持ちを知るためにも、少しずつでいいから昨日みたいにアクションを起こすべきなんじゃねぇの?』
「―――……」
竜崎はゆっくりと息を吐くと、暗くなっていたスマホの画面をタップした。
タタタッ、と手早く文字を打ち、送信する。
そして、そっと自分の送ったメッセージを読み返した。
『おつかれ。
今、何してる?』
「……ストーカー?」
勢いで送ってしまったことを激しく後悔した。
* * * *
竜崎がベッドの上で唸っている頃、
結衣も同じように自身のベッドの上で頭を抱えていた。
「どうしよう……」
結衣は赤くなった頬を冷ますように息を吐いた。
♢ ♢ ♢
美月とショッピングを楽しんでいる最中、結衣はあることを思い出した。
「あ! 竜崎くんに昨日送ってもらったお礼のメッセージ送るの忘れてた…!」
「え?」
「家の前まで送ってくれたのにお礼言い忘れちゃうなんて、失礼なことしちゃった……」
突然声を上げて落ち込む結衣に、美月は少し驚いたような表情をした後、すぐに微笑んだ。
「雅人はそんなこと気にするタイプじゃないから大丈夫よ。結衣が気になるなら、今から送ってもいいと思うけどなぁ〜」
そう言って、美月は少し揶揄うような笑みを浮かべた。
♢ ♢ ♢
結局その場では恥ずかしさが上回ってしまいメッセージを送れなかったが、やっぱり気になる。
だからといって翌日に送るのも今更感があるかも。
考え出したら止まらない。
深く考えずにメッセージを送ればすぐに解決すると分かっていても、送った後に竜崎がどう受け取るのか、下心を悟られるのでは、といった不安が頭をよぎって行動に起こせない。
どうしたものか……。
メッセージアプリを開いて、竜崎とのトーク画面を眺める。
すると……
ピロンッ
通知音と共に、トーク画面にメッセージが追加された。
「ふえっ!?」
突然の事に間抜けな声が漏れる。
『おつかれ。
今、何してる?』
竜崎くんらしい、シンプルなメッセージ。
まるで、私が竜崎くんことを考えながらトーク画面を見ていたことをわかっているようなタイミング。
そんなわけがないと分かっていながらも、心臓が忙しなく動き始めた。
「き、既読、秒でつけちゃった……」
変に思われただろうか。
でも、メッセージくれたのは嬉しい。
少し時間をおいて返信した方がいいかな?
でも、既読つけちゃったし時間あけすぎるのも……。
様々な感情が一気に駆け巡る。
悩んだ挙句、結衣はすぐに返信することを選んだ。
文章を打って送信すると、気持ちを落ち着かせるためにゆっくりと深呼吸をした。
* * * *
「(取り消しできなかった……)」
竜崎は、自身が送ったメッセージに既読の文字がついたことに嬉しさと不安が一気に押し寄せる。
今更メッセージを取り消す方が不自然だろう。
そう思っていると、ピロン、という音と共にメッセージが追加された。
「!」
清水からのメッセージ。
『竜崎くん、お疲れ様!
私は部屋でのんびりしてたよ
昨日は家まで送ってくれてありがとう
お礼の連絡が遅くなってごめんねっ!
竜崎くんは今なにしてるの?』
「ーー……」
清水の、控えめな笑顔が見えるようだった。
彼女にとっては、大した事ないことかもしれない。
美月ともこんな風にメッセージをやりとりしていることは分かっている。
それでも、
自分との会話を続けようとしてくれていることが特別なことのように思えて、たまらなく嬉しかった。
勝手に、笑みが溢れる。
『俺も、部屋で暇してた。
昨日のことは俺が勝手にしたことだから気にしなくていい
またバイトの時は言ってくれ
家まで送る』
そう文章を入力して送信する。
そして、少し考えた後、竜崎はまた文字を入力して、送った。
* * * *
"気にしなくていい"
"またバイトの時は言ってくれ"
「催促したみたいになっちゃったかな……」
竜崎からのメッセージに、結衣は嬉しい反面、申し訳ない気持ちが湧き上がった。
"大丈夫だよ、ありがとう"と竜崎くんの好意を受け取りながら断るべきかな……。
そう考えていると、通知音と共に竜崎からのメッセージが追加された。
『帰りながら、また二人で話がしたい。』
「……っ」
ドキッとした。
自然と、頬に熱が集まる。
ピロン、とまたメッセージが追加された。
『清水の家から俺の家まで、ランニングするのにちょうどいい距離だしな。』
「……ふふっ」
結衣は、頬を染めたまま笑った。
こちらに気を使わせないように続けて送ってくれた文章から彼の優しさが伝わってくる。
甘えても、いいのかな……
そう悩むふりをしながら、指は文字を打っていく。
『ありがとう
なら、竜崎くんの時間が合う時、またお願いします!
色々お話ししようね』
なんだか、心の奥がムズムズする。
忙しなく動く鼓動が、少しだけ心地良い。
恥ずかしくて、嬉しい。
そんな感情に満たされていた。
それは、竜崎も同じだった。
「よかった……」
断られなくて、よかった。
清水の返事に、竜崎はそっと胸を撫で下ろした。
二言、やり取りをしただけ。
それでも、少しだけ彼女との距離が近づいたような気がして、勝手に笑みが溢れる。
このまま、会話を終わらせたくない。
そんな思いで、指を動かす。
蒼真や榛名のように上手くやり取りできないかもしれない。
美月のように彼女を笑わせてあげることはできないかもしれない。
それでも、
俺なりに清水と親しくなれるように。
♢ ♢ ♢
名前も知らない、可愛らしい少女。
『またね!』
俺に向けてくれた、優しい笑顔。
その笑顔に救われた、あの日。
きっと、もう会えないだろう。
そう分かっていながらも、あの日の笑顔がずっと忘れられなかった。
一度でいい。
いつか、
いつかまた、
あの日の少女に会えたら……。
その願いが届いた、学園中等部の入学式。
桜の花弁が舞う正門で、
『ーー……っ』
思い出の中でずっと恋焦がれてきた少女を見つけた。
そっと、視線が重なり合う。
あの頃の面影を残しながらも、少しだけ女性へと成長した彼女の姿に、柄にもなく胸が高鳴った。
『……中等部、そっちじゃねぇよ。』
『!』
驚いた表情で振り返った彼女。
胸元の名札には、"清水"と書かれていた。
♢ ♢ ♢
そっと目を開けて、清水の名前が表示されている自分のスマホへ視線を落とす。
「……」
きっと、あの日のことを清水は覚えていないだろう。
それでもいい。
今、君と繋がれていることが幸せだから。
竜崎は、赤く染まる頬と口元の笑みを片手で隠しながら、清水から送られてくる他愛もない愛おしいメッセージに返事を返した。




