第8話 狼の獣人
とある日の夜。獣人界の森にある池で、魚を頬張る狼の獣人がいた。
「魚を食うのも飽きたなぁ~」
狼の獣人―――狩は骨を投げ捨てると、立ち上がった。
「もっと美味いもんが食いたいなぁ~」
不満を口にしていると、誰かがやって来た。
「よ!狩。またここに来たのか」
「麦……」
猫の獣人である麦は森で収穫した木の実を渡す。
「これ美味いぞ。食ってみろ」
「嫌だよ。甘いものは嫌いだ」
「好き嫌いがひどいなお前は」
麦が木の実を口にすると、美味っと呟く。
「で?もっと美味いもんって何が食べたいんだ?」
「聞いてたのか」
「こんな静かな森で独り言を呟いていたらな」
「肉を食いたい」
「肉か……この世界だと難しいな」
「毎日喰うのは魚だし、魚が捕れなかったら大嫌いな野菜になるし……どうすればいいんだ」
「木の実があるじゃないか」
「木の実は野菜より嫌いだ!」
麦は木の実を食べながら、ある提案をする。
「そんなにこの世界に不満なら行ってみたらどうだ?人間界に」
「人間界?そんなのおとぎ話だろ?あるわけがない」
「いや……ある。この世界と人間界を繋ぐ扉があるという噂を何度も耳にしている」
「噂って……誰に聞いたんだよ」
「知り合いにリスの獣人がいてね。そいつが狐里の近くにある森に住んでいる」
木の実を食べ終わると、狩の顔を見る。
「その噂には共通点がある。噂が流れているのは狐里周辺であるということ」
「何?どういうことだ?」
「狐里に人間界と繋がっている扉があるってことだよ」
「……本当なのか?」
「さぁね。でも探してみる価値はある」
麦が立ち上がると、森林に戻ろうとする。
「どうせ暇でしょ?行ってみたら?」
「……」
麦が去った後も、狩は池を見つめる。
(人間界……か……)
することないし、探してみるか。
一方、狐里の王宮にある十六夜の部屋で箒を掃く音が聞こえる。
「お掃除お掃除~♪」
鼻歌を歌いながら、曙が掃除していた。
「いつ帰ってくるんだろう?十六夜様と導様は」
早く帰ってこないかな~と思っていると、ドアが開く。
(ん……?兵士かな?何の用だろう?)
ドアの方を向くと、狩が立っていた。
「こんばんは」
(狼の……獣人!)
曙が箒を向けると、穂先が伸び始めて狩を捉えようとする。
「ちょっ……!待って!」
狩がジャンプして躱すと、穂先が上に向かって伸び始める。
「……ったく話を聞けねぇのか?狐は」
爪の斬撃を放つと、穂先と床が斬れて穴が開く。
「お前何者だ」
曙が鋭い目つきで、箒をシャンデリアにぶらさがっている狩に向けて問いかける。
「俺は狩。ここから遠い森に住む狼の獣人だ」
「どうやって入ってきた」
「兵士が通させてくれないから力づくで」
「……」
ただ者ではないと判断する曙。
「一つ聞きたいんだけどさ。ここに人間界と繋がっている扉があるって本当?」
「……人間界に行くのが目的か?」
「それはあるって反応だな」
しまった……という顔になる曙。狩はシャンデリアから手を離し、シュタッと降り立つ。
「別にお前ら狐の獣人と争うつもりはない。人間界に行かせてほしいだけで……」
「人間界で何をするつもりだ?」
「決まってるだろ……美味いものを食いに行くんだよ」
それを聞いて、曙は周囲に複数の箒を顕現させる。
(絶対行かせてはいけない。人間を喰うつもりだ!)
「あれ?怒ること言った?」
戸惑いつつ、曙の攻撃態勢を見ると、ペロッと舌なめずりをする。
「でも……久しぶりに狩猟の血が騒ぐぜ」
複数の箒が狩に向かって行く。狩は爪ではじき返すが、その度に箒が自分の元へ戻ってくる。
「しつこいな」
狩は高速回転すると、一斉に箒をはじき返す。
回転の勢いで曙に切りかかる。
「……っ!」
箒で狩の攻撃を防ぐが、その勢いで火花が散り始める。
「固いな。この箒」
右足で床を蹴ると、その勢いで曙の顔を攻撃する。
「ぐはっ!」
攻撃の勢いで曙が吹き飛び、壁に激突した。
「さて……どこにあるかな?」
部屋を見まわしていると、不思議な力を感じる鏡を見つける。
「これか……」
鏡に触れようとすると、ガタッと音が聞こえる。
振り返ると、曙が額から血を流していた。
「……行かせないぞ」
「しつこいなぁ~ただ美味いものを食いに行くだけなのに」
無視して鏡に触れようとすると、曙が立っている地面に魔法陣が顕現する。
「夜明矢」
魔法陣から光の矢が発射され、狩に向かっていく。
狩が爪の斬撃で破壊しようとすると、矢の速度が速すぎて一つの矢が、狩の左肩を貫く。
「なっ……!」
その後も光の矢が、狩の肉体を複数貫いた。
「ぐはっ……!」
(よし!あとは拘束を……)
曙が箒を向けて、穂先を伸ばすが、狩はそのまま後ろに倒れて鏡の先へ行ってしまう。
「……!まずい!」
あと一歩のところで間に合わず、拘束に失敗した。
「追いかけないと!」
足を進めると、意識がぷつんと途切れて前に倒れてしまった。




