表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第二章 荒ぶる神の試練
64/75

第三夜 奮起

 独立党の訓練場に、雷鳴が轟く。


 焦げ臭さが肺に残り、耳鳴りが頭蓋にこびりつく。


 僕は、見よう見まねで雷を操ろうとしていた。尊さんと葵が東京の神域調査に行ってから、ずっと焦燥感に駆られていた。

 自首訓練を終えて事務所に戻った時、ちょうど皆が事務所に戻ってきた。

 尊さんも葵もボロボロだったし、茉奈さんの疲労困憊した顔を見た。あの時、何もできなかった、あの場に居なかった自分が、ただただ情けなかった。


 だから、せめてもの償いとして、地味な努力だとしても、今の自分にはがむしゃらに訓練するしかできない。やれることをやろうとしていた。


 (もっと早く、もっと正確に力を制御できるようにならなければ!)


 武甕槌の雷は、確かに強力だ。一度発動すれば、帝国のゴーレムくらい、一瞬でスクラップにできる。

 でも、今の僕の雷は、ただただ大振りで、コントロールなんてあってないようなものだった。


 訓練場の隅に設置された、的を模した瓦礫。

 そこに雷を落とそうとするんだけど、全然当たらない。

 それどころか、雷はあらぬ方向に飛び散り、訓練場の地面を抉り、周囲の木々を薙ぎ倒していく。


「うわっ! 危ねっ!」


 自分で放った雷に爆ぜた瓦礫に驚いて飛び退く。

 本当に、何やってんだ僕は。


「はぁ……はぁ……」


 息を切らしながら、自分の未熟さに嫌気がさす。

 尊さんが、精神的な問題で戦線離脱している今、「僕がやるしかない」って、過剰に気負っていた。

 でも、現実は、このザマだ。

 まるで駄々っ子みたいに、ただ雷を無駄にぶっ放しているだけ。


「こんなんじゃ、全然ダメだ……!」


 無力感が、ズシンと重くのしかかる。

 訓練場の隅に転がっていた石に、八つ当たりで雷を落とす。

 石の周辺が粉々に砕け散り、周囲に砂埃が舞い上がる。


「……煉」


 背後から、聞き慣れた声が響いた。

 振り返ると、そこに立っていたのは、浜田さんだった。

 いつも飄々としていて、掴みどころのない人だけど、その瞳の奥には、確かな強さが宿っている。


「……浜田さん」


 怒られるかな、と思った。

 案の定、浜田さんは、周囲の惨状を見て、苦笑いを浮かべている。


「……相変わらず、派手にやってるな」

「すみません……」


 素直に謝る。

 浜田さんは、そんな僕を見て、優しく微笑んだ。


「いや、いいんだ。元からおまえ専用に作った訓練場だ。謝ることはないさ。お前が、必死に力を制御しようとしているのは、ちゃんとわかってるよ」

「でも……全然、上手くいかなくて……」

「そりゃ、そうだろうな」


 浜田さんは、僕の肩に手を置いた。反対側の手でスポーツドリンクを渡しながら。

 その手は、大きくて、温かかった。


「力任せだけでは、壁は越えられん」


 その言葉は、ズシンと僕の心に響いた。


「お前の力は、『道を切り拓く』ためのものだろう」


 浜田さんは、どこか遠くを見て言った。


「ならば、その一撃を、どこに、何のために振るうかを見極めろ」


 どこに、何のために……。

 その言葉の意味を、僕はすぐに理解できなかった。


「……どういうことですか?」


 浜田さんは、少し表情を曇らせながら言葉を続ける。


「お前は、帝国にいた頃、自分の力を何のために使ってた?」

「……何のために?命令されたからですかね……」

「そうだな。でも、今は違うだろ? 今は、誰のために戦ってる?」




「みんなを……誰も、あの瓦礫の下に立たせない。あんな顔、二度と見たくない……」

「そうだ。お前の雷は、みんなを守るためのものだ。誰かのために、何かのために、その一撃を振るうべきなんだ。ただただ強ければよいってものじゃないんだ」


 浜田さんの言葉が、胸に染み渡る。

 僕は、自分の焦りが、仲間への不信につながりかねないことに気づいた。

 みんなは、僕のことを信じてくれているのに、僕は、勝手に一人で焦って、空回りしていただけだったんだ。


「……僕、間違ってました」

「別に、間違ってはないさ。ただ、少しだけ、視野が狭くなってただけだよ」

「視野が狭くなると、本質ってものを見失うものなんだ」


 浜田さんは、そう言って笑った。

 その笑顔に、救われるような気がした。


「お前は、もっと周りを見ろ。仲間を信じろ。そして、自分の力を、何のためにどう使うのかを、もう一度見つめ直せ」

「はい……!」


 僕は、力強く頷いた。

 浜田さんの言葉で、ようやく冷静になれた気がする。

 そうだ。僕は、ただ強くなりたいわけじゃない。みんなを守れる、そんな力を手に入れたいんだ。


「少し、頭を冷やしてから帰ります」


 そう言って、訓練場を後にする。

 空を見上げると、夕焼け空が広がっていた。

 茜色に染まる空を見ていると、心が洗われるような気がした。


「……よし、もう一度、やり直そう」


 僕は、自分の役割を改めて見つめ直すことを決意した。

 焦らず、じっくりと、自分の力と向き合っていこう。

 みんなを守れる、そんな力を手に入れるために。


  飲み干したペットボトルを空に高く投げ、指を向ける。

  「バーン!」


  口にした言葉よりも小さな音を立て、わずかに光ったかと思うとペットボトルは空中で爆ぜた……


続きが読みたい、面白いと思ったら星(評価)やブックマークをお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ