第三夜 奮起
独立党の訓練場に、雷鳴が轟く。
焦げ臭さが肺に残り、耳鳴りが頭蓋にこびりつく。
僕は、見よう見まねで雷を操ろうとしていた。尊さんと葵が東京の神域調査に行ってから、ずっと焦燥感に駆られていた。
自首訓練を終えて事務所に戻った時、ちょうど皆が事務所に戻ってきた。
尊さんも葵もボロボロだったし、茉奈さんの疲労困憊した顔を見た。あの時、何もできなかった、あの場に居なかった自分が、ただただ情けなかった。
だから、せめてもの償いとして、地味な努力だとしても、今の自分にはがむしゃらに訓練するしかできない。やれることをやろうとしていた。
(もっと早く、もっと正確に力を制御できるようにならなければ!)
武甕槌の雷は、確かに強力だ。一度発動すれば、帝国のゴーレムくらい、一瞬でスクラップにできる。
でも、今の僕の雷は、ただただ大振りで、コントロールなんてあってないようなものだった。
訓練場の隅に設置された、的を模した瓦礫。
そこに雷を落とそうとするんだけど、全然当たらない。
それどころか、雷はあらぬ方向に飛び散り、訓練場の地面を抉り、周囲の木々を薙ぎ倒していく。
「うわっ! 危ねっ!」
自分で放った雷に爆ぜた瓦礫に驚いて飛び退く。
本当に、何やってんだ僕は。
「はぁ……はぁ……」
息を切らしながら、自分の未熟さに嫌気がさす。
尊さんが、精神的な問題で戦線離脱している今、「僕がやるしかない」って、過剰に気負っていた。
でも、現実は、このザマだ。
まるで駄々っ子みたいに、ただ雷を無駄にぶっ放しているだけ。
「こんなんじゃ、全然ダメだ……!」
無力感が、ズシンと重くのしかかる。
訓練場の隅に転がっていた石に、八つ当たりで雷を落とす。
石の周辺が粉々に砕け散り、周囲に砂埃が舞い上がる。
「……煉」
背後から、聞き慣れた声が響いた。
振り返ると、そこに立っていたのは、浜田さんだった。
いつも飄々としていて、掴みどころのない人だけど、その瞳の奥には、確かな強さが宿っている。
「……浜田さん」
怒られるかな、と思った。
案の定、浜田さんは、周囲の惨状を見て、苦笑いを浮かべている。
「……相変わらず、派手にやってるな」
「すみません……」
素直に謝る。
浜田さんは、そんな僕を見て、優しく微笑んだ。
「いや、いいんだ。元からおまえ専用に作った訓練場だ。謝ることはないさ。お前が、必死に力を制御しようとしているのは、ちゃんとわかってるよ」
「でも……全然、上手くいかなくて……」
「そりゃ、そうだろうな」
浜田さんは、僕の肩に手を置いた。反対側の手でスポーツドリンクを渡しながら。
その手は、大きくて、温かかった。
「力任せだけでは、壁は越えられん」
その言葉は、ズシンと僕の心に響いた。
「お前の力は、『道を切り拓く』ためのものだろう」
浜田さんは、どこか遠くを見て言った。
「ならば、その一撃を、どこに、何のために振るうかを見極めろ」
どこに、何のために……。
その言葉の意味を、僕はすぐに理解できなかった。
「……どういうことですか?」
浜田さんは、少し表情を曇らせながら言葉を続ける。
「お前は、帝国にいた頃、自分の力を何のために使ってた?」
「……何のために?命令されたからですかね……」
「そうだな。でも、今は違うだろ? 今は、誰のために戦ってる?」
「みんなを……誰も、あの瓦礫の下に立たせない。あんな顔、二度と見たくない……」
「そうだ。お前の雷は、みんなを守るためのものだ。誰かのために、何かのために、その一撃を振るうべきなんだ。ただただ強ければよいってものじゃないんだ」
浜田さんの言葉が、胸に染み渡る。
僕は、自分の焦りが、仲間への不信につながりかねないことに気づいた。
みんなは、僕のことを信じてくれているのに、僕は、勝手に一人で焦って、空回りしていただけだったんだ。
「……僕、間違ってました」
「別に、間違ってはないさ。ただ、少しだけ、視野が狭くなってただけだよ」
「視野が狭くなると、本質ってものを見失うものなんだ」
浜田さんは、そう言って笑った。
その笑顔に、救われるような気がした。
「お前は、もっと周りを見ろ。仲間を信じろ。そして、自分の力を、何のためにどう使うのかを、もう一度見つめ直せ」
「はい……!」
僕は、力強く頷いた。
浜田さんの言葉で、ようやく冷静になれた気がする。
そうだ。僕は、ただ強くなりたいわけじゃない。みんなを守れる、そんな力を手に入れたいんだ。
「少し、頭を冷やしてから帰ります」
そう言って、訓練場を後にする。
空を見上げると、夕焼け空が広がっていた。
茜色に染まる空を見ていると、心が洗われるような気がした。
「……よし、もう一度、やり直そう」
僕は、自分の役割を改めて見つめ直すことを決意した。
焦らず、じっくりと、自分の力と向き合っていこう。
みんなを守れる、そんな力を手に入れるために。
飲み干したペットボトルを空に高く投げ、指を向ける。
「バーン!」
口にした言葉よりも小さな音を立て、わずかに光ったかと思うとペットボトルは空中で爆ぜた……
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