表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閉じられた愛の中で  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/31

第二十五章:揺れる視線


施設の春の訪れは、穏やかな風とともにすべてを包み込んでいた。

中庭の桜は満開となり、薄桃色の花びらがそよ風に舞う。

しかし、その美しさとは裏腹に、惇也と澪を取り巻く環境は、日々少しずつ緊迫感を増していた。


佐伯理恵が配属されてからというもの、施設内は確かに変わりつつあった。

彼女の尽力で、惇也と澪の接触時間が徐々に増え、彼らの心に明るい兆しが見え始めたことは間違いなかった。

だが、その変化を快く思わない職員も少なからず存在していた。


特に、施設長の山口は佐伯の提案に渋い顔を見せていた。

彼にとっては、何よりも「規則」と「安全」が最優先事項だった。

「他の利用者の不安が増せば、施設全体の秩序が乱れる」

その一点を理由に、何度も慎重な対応を求めていた。


そんな中、ある日の昼休み、惇也はふとしたきっかけで山口と廊下ですれ違った。

「惇也さん、少し話がある」

そう声をかけられ、彼は緊張しながらも応じた。


事務室の窓際、薄暗い部屋の中で二人は向き合った。

山口の表情は硬く、しかしどこか憂いを帯びていた。


「佐伯さんのやり方は悪くない。だが、あなたと澪さんの関係は、まだ施設として完全に受け入れられていない」

「俺たちの関係がどうあれ、澪のためになることをしたいだけです」

惇也は真剣に答えた。


山口は少し黙った後、低い声で続けた。

「このままでは、利用者や職員からのクレームも増えるだろう。お前には今後、もっと節度ある行動を求める」

「節度、ですか」

惇也の声は震えた。

「それがどういう意味か、わかっているだろうな?」


その言葉の裏には、明確な警告が込められていた。

自由な接触はもう許されない。

一歩でも越えれば、即座に厳しい処分が待っている。


帰り道、惇也の胸は重かった。

澪とのわずかな時間さえも制限される現実が、彼の心を締め付けた。

だが、そんな時でも彼の思いは変わらなかった。

「澪の笑顔が見たい。どんなに困難でも、諦めたくない」


そんな想いを抱え、彼は職員室の隅にいた佐伯のもとへと向かった。

彼女はパソコンの画面を見つめながらも、彼の足音に気づき、ゆっくりと顔を上げた。


「どうしましたか?」

佐伯の声は優しく、それでいて揺るがなかった。


惇也は短く事情を話した。

山口の警告、施設内の空気の変化、そして自分の葛藤。


佐伯は静かに頷き、言った。

「組織の中での変化は時間がかかります。でも、あなたの気持ちは大切にしましょう」

「どうすれば、もっと彼女と自然に過ごせるのか…」

惇也の目に強い決意が灯った。


その日の夜、澪の部屋で二人が密かに過ごす時間は、いつもより短かった。

だが、そのひとときはどんな言葉よりも深い意味を持っていた。

澪の瞳が惇也を見つめるたびに、彼の心は揺れる。

外の視線に怯えることなく、ただ純粋に寄り添いたいと願う気持ちが募った。


しかし、施設内には静かに、だが確実に、二人の関係を監視する目が増えていった。

その中には、山科の影もちらついていた。

彼の存在は、もはや単なる監視者ではなく、二人の未来を揺るがす重要な鍵となっていく。


春の陽光が窓から差し込むなか、惇也は深く息を吸った。

「この道は険しい。でも、絶対に諦めない」

そう誓い、明日への一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ