第十八章:法の檻
三日後、惇也は施設の相談室に呼び出された。
テーブルの向こうには、澪の兄・斎藤と、見知らぬスーツ姿の男性が座っている。
男は名刺を差し出しながら、淡々と名乗った。
「斎藤澪さんの後見人代理、弁護士の木村です。」
名刺の厚みと冷たい指先が、惇也の胸を圧迫する。
木村は淡々と口を開いた。
「澪さんは知的障害者であり、成年後見制度の保護対象です。
あなたとの接触は、彼女の生活と心身の安定を著しく損なう恐れがあると判断されました。」
「損なう?俺は…」
言いかけた惇也を、斎藤が鋭く遮る。
「お前は、あの子を混乱させただけだ。家族にも施設にも黙って夜中に部屋へ入るなんて、何を考えてる。」
木村は書類を机に置いた。
「今後、澪さんとの直接接触は禁止です。違反した場合、警察に通報します。」
紙の上には、太い文字で「接触禁止通知書」と記されていた。
惇也はそれを見下ろし、手が震えるのを抑えられなかった。
「…澪は、俺と会いたいって…」
声は小さく、最後は掠れて消えた。
斎藤は答えなかった。
ただ椅子から立ち上がり、木村と共に部屋を出て行った。
その背中が、扉の向こうに消える瞬間、惇也は全ての音を失ったように感じた。
その夜、澪の部屋の灯りは再び消えていた。
しかし、消灯後の静まり返った廊下に、微かな音が響いた気がした。
――タン…タン…
惇也は耳を澄ます。
それは確かに、壁の向こうからの呼びかけだった。




