第十七章:告発の影
翌朝、惇也はいつものように作業室へ向かう途中、空気の違和感に気づいた。
廊下ですれ違う利用者や職員が、わずかに視線を逸らす。
笑い声や挨拶は消え、代わりにひそひそとした囁きが耳に残る。
作業室に入ると、職員の坂本が真顔で惇也に近づいた。
「惇也くん、事務室に来てくれる?」
その口調に逆らう余地はなかった。
事務室の中には、施設長の山口と、澪の兄・斎藤が座っていた。
兄の目は氷のように冷たく、惇也を一瞥するだけで全てを断罪する色を帯びている。
「昨夜、消灯後に澪の部屋に入っただろう?」
山口の声は淡々としていたが、机の上には防犯カメラの静止画が並べられていた。
そこには、車椅子の青年が澪の部屋に入る瞬間が、鮮明に写っていた。
「説明してもらえるか」
斎藤の低い声。
惇也は言葉を探すが、何を言っても言い訳になると分かっていた。
「…澪に会いたかった。ただ、それだけです」
短い答えに、斎藤は唇を歪めた。
「妹は重度の知的障害がある。お前みたいなやつに、何を吹き込まれたか…」
言葉は途中で切れたが、その先にある嫌悪は十分に伝わった。
会議は形式的に終わったが、その場の空気は判決のように重かった。
事務室を出るとき、職員の何人かが廊下でこちらを見ていた。
その視線は、昨日までとは違い、明らかな距離と警戒が混じっていた。
夜、惇也は自室で机を叩いてみた。
タン、タン――
しかし、その合図に返事はなかった。
澪の部屋の灯りも、もう点いていなかった。




