第十五章:引き離される二人
澪の居室の前で、惇也は職員の坂本に行く手を遮られた。
「今日は澪ちゃん、作業療法室にいるから会えないよ」
声は表向き柔らかかったが、足の位置も腕の組み方も、動く余地を与えない構えだった。
「……そうですか」
惇也は低く返事をしてその場を離れた。
しかし、廊下の曲がり角でふと足を止める。
澪の作業療法の日程は、昨日のカレンダーでは午後からのはずだ。
今はまだ午前十時。胸にざわつきが広がる。
その午後、惇也は中庭で澪を見つけた。
しかし彼女の隣には、若い女性職員が座り、ぴたりと寄り添っていた。
澪の手はその職員の膝の上に置かれ、穏やかな笑顔を浮かべている。
それは、いつも自分と過ごすときと同じ顔だった。
惇也の胸に、ひやりと冷たいものが流れ落ちる。
翌日、施設長の山口から再び呼び出しがあった。
「惇也くん、しばらく澪さんとは距離を置こう。
最近、彼女のケアに関して一部の家族から懸念が出ている」
家族――その言葉が、鋭い刃のように突き刺さった。
澪の兄が時々面会に来ては、鋭い目で惇也を観察していたことを思い出す。
あれは、こうなる前兆だったのかもしれない。
「僕は…澪に何も悪いことはしていません」
声は震えていたが、山口は静かに首を振った。
「分かっている。しかし、ここは共同生活の場だ。誤解を招くこと自体が問題なんだ」
その日から、澪のスケジュールは変えられ、惇也と会う時間はほとんどなくなった。
食堂でも席は離され、作業も別の班に組み替えられた。
まるで、透明な壁が二人の間に立ちはだかったようだった。
夜、惇也は机を叩いてみた。
タン、タン――
しかし、その返事はもうどこからも返ってこなかった。




