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第19話 止められないモフモフです

 最初はちょっと、腕を触ってみた。


 モフモフ、モフモフ。


 でも、どんどん、抑制が利かなくなった。


 少し触るつもりだったが、あまりにも気持ち良すぎて魔獣さんの頭まで触っていた。


 うわっ……、やっちゃった。

 やっちゃったよ……。


 でも、なんだか、やめるタイミングが分からず……。


 博美は魔獣の頭を触りながら、内心焦っていた。


 目の前にいるのは、魔獣さん。


 話を聞いてもらったのに、つい、犬やネコにするように接してしまった。


 とにかく、ごまかさないと――。


 そんなとき、廊下からエミリーに声を掛けられた。


「魔獣さん、いったいその頭はどうなされたのですか?」


 や、やばい……。


「いや、これは、ちょっとね。何もないよね、魔獣さん」


 慌てて博美は、魔獣に同意を求めた。魔獣もウンウンと頷いている。


 でも……、わたしが触りすぎて、魔獣さんの頭がもじゃもじゃだ。これじゃ魔獣さんの尊厳が……。

 とにかく誤魔化そう。


「ねぇ、エミリー、今からピクニックに行かない?」


 博美は何事もなかったかのように、冷静を装う作戦に出た。


「今日は天気もいいし、魔獣さんに手伝ってもらうことにしたの。ね、魔獣さん」


「あ、はい」


 もじゃもじゃにされた状態の魔獣が、コクコクと頭を下げる。


 うわぁ、カワイイ。

 可愛すぎる――!

 ぎゅっとしたい。


 だが、次の瞬間、エミリーが言った。


「急にどうされたのですか、博美様。魔獣さんにお体の具合を見てもらいましたか?」


「う、うん……」


 言い淀む博美の代わりに、魔獣が応えた。


「はい。博美様のお体に毒はありません。大丈夫です」


 魔獣さん、わたしの身体に毒が入っていないか見てくれていたんだ。

 何も言ってないのに……。


 博美は嬉しくなった。


 そしてテンションが一気に上がる。


「だから、みんなでこれからお庭に出て、ピクニックしよう!」


「ですが、今日の予定では、魔獣さんと街に行かれるのでは?」


「明日でもいいでしょ。今から三人で、外で食事をするの。今日はいい天気だし、その食事を屋敷の外で、賑やかに食べるの。ね、いいアイデアでしょ!」


「いいアイデアですか……、ああ、いいアイデアですね!」


 何かに気が付いたように、エミリーがぽんっと手を叩く。


「わかりました! 博美様。では魔獣さんに頼みましょう」


「よろしくね、魔獣さん」


 博美からそう言われた魔獣だが、わからないというような表情で謝った。


「すみません。いったい僕は何をすれば?」


「まずは、ワゴンに乗っている食事を魔法陣の上に置いて……、ですね、博美様」


 エミリーは言いながら、ゴロゴロと部屋の中にワゴンを転がし、魔法陣の上に置いた。


「そうそう。魔獣さん。悪いけど、この食事に入っている毒の除去お願いね。後でこれをみんなで食べるから」


「は、はい、わかりました」


 そうして魔獣が魔法を唱えはじめた。


 その様子をじっと博美は傍で見ている。


 銀のワゴンには、皿に乗ったお肉や卵。そしてカゴに入ったいくつかのパンの中がある。


 そして部屋で見たときよりも、はっきりと博美は毒を感じていた。

 大きな丸いパンから出ている紫色のモヤが、警告色に見えたからだ。


 魔獣が魔法を唱え終わると、パンの中にあった紫色のモヤが宙に浮いて、ふっと消えさった。


「これですべての毒は除去できました」


 なるほど……、あのやり方で毒を消すんだ。


「ありがとう、魔獣さん。じゃ、このワゴンを外に運ぼう」


「博美様。あとは私にお任せください。今から使用人が使うキッチンに持って行ってきます。これらの食事をバスケットとカゴに分けて、外で食べられるように簡単なものにしてきます。それまではお部屋でお待ちくだされば」


「わたしも手伝うから」


「いいえ、博美様も、このお部屋で魔獣さんとお待ちください。用意が出来ましたら呼びに参りますので、それまで、さきほどの続きをお二人でお楽しみください」


 博美と魔獣は、同時にエミリーを見て、

「ん?」「え?」


 二人のよく分からないというような表情に、エミリーは大きく手を振った。


「鈍感なお二人でございましますね。これほど私が気をつかって申し上げていますのに」


「いや、わかんない。どういう意味よ、エミリー」


「先ほど、私はお二人の邪魔をしたようでしたので、申しわけなく思っておりました。胸が痛む所存でございます。ですから、そのつづきをこれからされてはいかがですか、と申しております」


「続き?」


 キョトンとする博美に対して、エミリーは笑顔で、

「何をすっとぼけた表情をされているのですか。私が上の階までワゴンを取りに行く僅かな時間でも、お二人はもう我慢ができなかったようで、それは激しく……。魔獣さんの頭の毛の乱れ方を見れば一目瞭然でございました」


 エミリーはニッコリと笑みを浮かべる。


 焦ったように獣毛を整える魔獣を見て、慌てて博美が口を出す。


「いや、ちょ、ちょっと……、エミリー。何を勘違いしているのよ。別にやましいことをしていたわけでもないのに」


 そうは言ったものの、すぐに博美は思い直した。


 もしかして、この世界……。もふもふをするのは、ものすごく淫らなことだったりする?


 国が違えばダメな行為はいくらでもある。タイでは子供の頭をなでちゃダメだし、子供に向かってカワイイという言葉もタブーだ。まして、ここは異世界。


 ええっと、それじゃ……、この異世界でモフモフするのは、人前で恥ずかしい行為だったりするわけ?


 うわぁ、失敗したかも。


 博美は、魔獣に手を合わせた。


「ごめん、魔獣さん、わたし……、ヘンなことしちゃったよね?」


 魔獣は首を横に振る。


「いえ、ぜんぜんです。僕は嬉しかったし、なにより気持ちよかったです」


「嬉しくて、気持ちいい……」


 そう言いながら、ぷっと噴き出したのはエミリーだ。


「もしかして……、エミリー。最初から分かっていて、わたしたちをからかった?」


「はい、モフモフ気持ちいいですよね。魔獣さん、ぜひとも今度、私も魔獣さんの毛をモフモフふさせてくださいね。私の手は、博美様のように気持ちいいか、わかりませんが」


 エミリーがいたずらっぽい笑みを浮かべると、魔獣は恥ずかしそうに顔を下に向けていた。


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