例え「悪女」「悪役令嬢」「堕ちた聖女」と言われようとも ※ざまぁ注意
「っ――――――!」「んぎ⁉」「なあ⁉」
聖剣の力が解き放たれ、風が身体を、頬を吹き抜ける。同時に喘ぐ私達。土煙が充満し、地面がえぐれているのが見える。
ちらりと視線を横に移すと、村の住民と家々が無傷で残っているのが垣間見えた。良かった、人と村は無事だったか……!
そうこうするうちに土煙が治まり、聖剣を握る勇者が見え――
「……え」
見えた光景に思わず声が漏れ、足が震えた。ま、まさか……まさか⁉
ゆらりと煙が晴れて行く。そこに現れるすらりとした足。いかつい巨大な盾。そして見慣れたビキニアーマー!
「……
はあ? 聖剣ってその程度なのぉ?(無傷)」
「そんな馬鹿な⁉」
ば、馬鹿な……⁉ せ、聖剣の一撃を耐えた……だと⁉
驚く私。しかし現実に、幼馴染にして聖剣の直撃を受けたはずのメーブは不敵な笑みで立っている。
「ふ……ダメージは、ゼロよ(自信満々)」
「あんた何時人間辞めたの⁉」
魔物⁉ 魔王隣にいるし、アザゼルにでも魔物になる方法教えてもらって実行したとか⁉
「人間辞めるまでもないわ。ふ、所詮聖剣などその程度。この魔術師が手塩にかけて作ったビキニアーマーの敵ではないわね」
「呪われたビキニアーマーとかいうトチ狂ったものが、聖剣の一撃を受け切ったと⁉」
「聖剣なんて御大層な名前を掲げてはいても、人の想いはそれよりもさらに強いということね……」
「……
いや、〝人の想い〟とか言っていい感じな雰囲気を醸し出しているけど、宿っているのはモテない女魔術師の怨念だからね⁉ 呪われたビキニアーマーとか言うトチ狂ったモノ作った魔術師の歪んだ感情だからね⁉」
………………。
「いや聖剣をしのぐ怨念を込めたビキニアーマーて何⁉」
「それは……今さらな質問ですね」
私の思わず叫んでしまった言葉に素直にツッコミを繰り出すアザゼル。
「おのれ、いきなり不意打ちで聖剣とは卑怯な……! 勇者であれば、正々堂々と戦うべし!」
「あんた盗賊でしょうが⁉」
ビシッと指さすザザン。盗賊が正々堂々とか言うな!
「ちょっと、そこ!」
しかし何故かこれにザザンではなくメーブが文句を言い放つ。
「
文句があるなら私をぶちなさいよ⁉」
「黙れ、ドM!今あんたの性癖を満たしている場合じゃないんだよ⁉」
空気読みなさいよ、空気を⁉
「何よ! 聖剣の一撃がいまいちだから、欲求不満なのよ!
もっと強い一撃を! もっと強い快感を! もっとえぐるような快感を!」
「あんたそのうち死ぬわよ⁉」
もっともな私の意見。が、
「大丈夫!」
メーブは胸を張り、親指を立てて一言。
「痛みなんて、耐えてしまえばただの快感となんら変わらないわ!」
「耐えれなかったら即死するわああああああああああああああ⁉」
誰よ、メーブをこんなのに育てたのは⁉
………………。
「私じゃないからね⁉」
「だ、誰と話しているんですか……?」
おずおずとアザゼルの遠慮がちなツッコミ。じ、自分自身と……かな?
「な、何なんだよお前等は⁉」
震える勇者の声。まあ聖剣の一撃が耐えきられたら、震えるわな。
が、そんな勇者の言葉に、
「マゾよ」「正義の盗賊ギルド出身の忍者でござる」「せ、西方の魔王です」
三者三様の答え。うん、意味が分からん! 特に一番最後の!
「く、くそう!」
プライドが傷付いたのか、それとも付き合いきれなくなったのか、勇者は突如身を翻して奪取する! うおおい⁉
「あ、勇者様――」「お、お待ちを!」
追いかける一応勇者の仲間のはずの女魔術に神官! ああ⁉ そ、存在忘れてた⁉
「てかちょっと待って⁉」
思わず呼びかける。が、応えてくれるはずもなくどんどん背が小さくなる!
待って、待って! お願い……お願い……!
「待って、お願い! こいつら引き取って⁉」
「切実!」←アザゼルのツッコミ
やかましい! 私にとって死活問題なんだよ⁉
が、私の懇願空しく、勇者の背中が見えなくなってしまう。ちょ、ちょっと⁉
「あ、あんた達追いかけないと⁉」
言い募る私。が、
「「「……う、う~ん……………」」」
びみょ~な返事の三人。は、反応が鈍い⁉
「ちょ、な、なんでよ⁉ 探してたんじゃないの⁉」
「え~? だってあいつ、ちょっと見ていたけど性格悪すぎだし……」
「仲間に対して暴言吐き過ぎでござる。ちょっと一緒に旅は出きそうにないでござるなあ」
「ちょっと……性格の矯正も出来そうにないですね……聖剣も使いこなせていないようですし」
どんだけダメ勇者なのよ⁉
「ま、魔王討伐には聖剣を使える勇者が必要じゃないの⁉」
取り敢えず、三人の中でも一番まともで常識のある魔王(人外の魔王が一番まとも!)を説得しようと試みる。が、
「別に魔王に効くけど、聖剣が魔王討伐に絶対必要という訳ではないですよ?」
「ぶばぁ⁉」
そ、そうだったの⁉
「まああるに越したことはありませんが……あの程度の力じゃあってもなくてもたいして変わらないかと。なら人間関係ギスギスしたまま旅して碌に連携も出来なさそうなとこより、別の連携が取れて能力の高いとこに加勢したほうが勝率は高いかなぁ、と計算します」
いやいやいやいや! それはそうかもしれないけども!
「じゃ、じゃあこれからどうするのよ⁉」
肝心! そこ一番肝心! 取り敢えずこの三人を勇者に引き取ってもらおうと思って此処まで追いかけて来たのですが⁉
私の問いに三人がしばし顔を見合わせ……やがて私の方を見る。
(ま、まさか……まさか⁉)
「「「……
これからも宜しく(ぺこり)」」」
い……
「嫌だー⁉」
これ以上面倒みれるかい⁉
しかし、そこに笑い声が響く。
「あは!あははははははははは⁉ な、なんだかすごいぶっとんだ面子だね⁉」
「る、ルース……!」
あう! み、見られたくないとこ見られちゃった⁉
振り返ると、腹を抱えて爆笑するルースの姿。笑い過ぎたのか、目元にうっすらと涙が込み上げている。
「いいね! 面白い! 最高! 勇者達においてけぼりにされたことだし、俺もこのパーティに参加させてくれない?」
「え?」
ビシッと固まる私。
ルースと一緒に居たい……居たい、が。
「いいわよー」「宜しくでござる」「どうも。西方で魔王させてもらっています」
あっさり頷く三人。てか最後の! なんだその自己紹介は⁉
「どうも、俺はルース。剣士で前衛をさせてもらうよ。宜しく」
「ちょ……」
「おー。私敵の攻撃を引き受ける所謂タンク役のメーブ。痛いのが好きなマゾよ!」
何自然にアブノーマルな性癖暴露してんだ。
「どうも、忍者のザザンでござる。暗殺は任されよ。暗殺予告を以て見事首を掻っ切ってみせますぞ!」
普通に恐いわ。
「あどうも。アザゼルと言います。先ほど申し上げた通り西方の魔王をしてます。東の魔王をどうにかしたく、参加しています」
その紹介、他に言い方ないんか?
「僕は魔術タイプなので後衛ですが、前衛も出来ます」
「あ。でもぉ、アザゼルはぶっちゃけ後ろから範囲魔術使ってもらっている方が効率いいよね? ぶっちゃけアザゼル一人で十分大概の相手に事足りるし」
「では、我々が前衛を務めて時間を稼ぎ、アザゼル殿を主砲とし、防御・回復をリラ殿が務めるというのが必勝パターンになりますかな」
「あはは。なんだか成り行きで参加したけど、意外とバランスのいいパーティになりそうだね」
アザゼル、メーブ、ザザン、ルースと楽し気に会話し出す四人。ちょ、ちょちょちょちょちょっと⁉ 待って待って⁉
「俺は面白いことが好きで、リラが離れた時も観光していて後から追放されたって聞いたんだ。三人のような面白い人達は初めてだから、色々話を聞かせてもらえると嬉しいな」
「いいわよー。そうねえ。それじゃ、今までこの四人で旅してきた思い出でも語ろっか?」
ルースが嬉しそうに喋り、それにメーブが笑って返す。いやもう仲良しか⁉
「ちょ、ちょっと……!」
慌てて間に入ろうとする私。これ以上面倒見ていられるか!
だが、
「おお、貴方方が村をお救い下さった方ですな?」
聞いたことのない声に邪魔された。
「え、あ……」
声のした方を向けば、身なりの言い老人の姿。
「私、ここで尊重をしている者です。先ほどは村をお救い下さいありがとうございました」
「………………あ、聖剣の一撃」
そ、そういや聖剣の一撃から村を守っていたな……私とアザゼルで。
「お話しを聞くと所、どうも皆様方は冒険者をされている様子。で、あればぜひ皆様宛に依頼したい仕事があるのですが……」
「あら、仕事の依頼?」「いいでござるよー」「取り敢えず、話だけでも聞かせてもらえますか?」「立ち話も何ですし、どこか落ち着いたところに……」
勝手に話しが進んでいく。ぞろぞろと場所を移動する一行。
そんな中、ぷるぷると私は震え……
「っうがあああああああああああああああああ⁉」
吼えた。
「ゆ、勇者ああああああああああああああ⁉ 何勝手に逃げてんだぁああああああああ⁉」
せ……せっかく再会出来たのに! こいつらと離れらると思ったのに⁉
震える身体。ふつふつと募る怒り。
こ……こ……!
「これで勝ったと思うなよぉおおおおおおおおおおおおおお⁉」
「……いや勝ったの僕等の方ですけど。おまけに多分圧勝」
「やかましいわ!」
アザゼルのツッコミに怒鳴る私。くそう、なんでこいつ魔王のくせに一番常識人なんだよ⁉
ぜ……ぜ……!
「絶対退職金代わりにこいつら引き取ってもらうからなああああああああああああああ⁉」
私の涙ながらの怒声が虚しく空へと溶け消えた。
◇ ◇ ◇
勇者パーティーを追放された聖女の私。その日の夜に『変態』『奇人』『魔王』に来られ。面倒見る羽目になりました。
なので、
「勇者ぁああああああああああああ⁉ これで終わりだと思うなよおおおおおおおおおおおおおおお⁉
例え悪役令嬢と言われようと、悪女の汚名を着させられても、『堕ちた聖女』の二つ名を取ろうとも!
絶対、ぜええええええええったい! 退職金代わりにこいつらを引き取ってもらうからなああああああああああああああ⁉」
今日も私は勇者一行を追いかけて、このやばい連中と一緒に旅を続けています(泣)。
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