第85話 残り続ける理由
「そういえばどうしてキリハさんのこと調べ続けてるんですか?」
やっぱり甘くておいしいですね。これ。
リィルにもらったのもおいしかったですけど。
「[ラジア・ノスト]って相手が断ったらすぐ手を引くって聞きましたよ。昨日、リィルから」
「何故あなたにそんなことを話す必要が? 機密事項ですよ。諜報ですよ?」
「そこまで聞いてないです」
どうでもいいんですよ。[ラジア・ノスト]の秘密なんて。
キリハさんが断ったならもうこうやって話すこともないんですから。
また同じ迷宮に行くことはあるかもしれませんけど。
「じゃあ何が聞きたいんですか。分かりませんね。取り乱すようなことでもないのに」
「わたしたちにも関係ある話ですし。んむっ。いくらなんでもちょっとしつこくないですか」
「あなた達に関係あるとしたらそれは彼が受けるかどうかだけの筈です。彼から聞いていないんですか。断ったって」
「だから、それなのにどうしてまだキリハさんに声をかけてるのか聞いてるんですよ。はぐっ」
加点とか減点とか言ってるみたいですし。
意味が分かりません。なんなんですかあれ。やる意味ないですよね?
「食べるか喋るか決めてください。行儀の悪い」
「じゃあいただきます」
「話は終わっていませんよ!!」
なんですか。うるさいですね。せっかくおいしいのに。
黄色いのにちょっとカシュルっぽいんですよね。このジュース。不思議です。
いつでも買えたらいいんですけど。
「何を呑気に味わっているんですか、フルトのユッカさん……??」
「分かってますってば。ちょっとこっちきてください」
ストラにいるのはまぁ、どうでもいいんですけど。
キリハさんも言ってました。他にも理由があるんじゃないかーって。
今は全然、全っ然そういうことはしてないみたいですけど。
やっぱりちゃんと聞かないとダメですよね。
「(いいじゃないですか。無理しなくても。あんまりしつこいと気が気じゃない人もいるんです)」
「(……言い分はまあ、分からなくもないですけれど。何故小声で?)」
「(ひとりとびっきりの恥ずかしがりやがいるからです。それに困るんですよ。キリハさんを無理やり連れていかれたりすると)」
「(人聞きの悪いことを言わないでもらえますか。私達は誘拐なんてしません)」
やりそうなんですけど。
キリハさんがキリハさんでほんとによかったです。
このサーシャって人に負けるわけないですから。
さすがにエルナレイさんだったら怪しいですけど……あの人はしませんよね、さすがに。
「それに、彼がいなくなって困るのはあなたも同じではないですか? 必死さで言えばいい勝負ですよ」
「あたり前じゃないですか。みんなそうです」
「どうでしょうね。二つに分かれるんじゃないですか? あなたがどちら側か分かりませんが」
なに言ってるんですか、この人。
意味わかんないです。大体なんですか二つって。
「というか誤魔化さないでくださいよ。こっちの質問に答えてください」
「しつこい。本当にしつこいです。まったく面倒な人ですね」
「お互いさまじゃないですか。キリハさんがいたらきっと同じこと言ってたと思いますよ?」
「……そんなに減点してほしいんですか? 彼のこと」
「はい?」
ほんとになに言ってるんですか、この人。
いま言ったのわたしなんですけど。なんでそれがキリハさんの減点になるんですか。
キリハさんがああ言ってた理由、今なら分かります。
絶対他の人もいっしょにした方がいいです。受ける気なくすじゃないですか。こんなの。
やっぱりさっきのジュース飲んでていいですか? アイシャみたいに。あの赤いの気になるんですよね。
「いえ大丈夫です。その目を見れば分かります。そこまで考えているわけではなさそうですね」
「考えて相手を怒らせるのはいいんですか?」
「はてさてなんの話でしょう。それと、さっきの質問の答えです。彼にそれだけの価値があると考えているようですよ、姉さまは」
「姉さま?」
この人の?
「お姉さん……って、あのナターシャさん!? なんで……!」
「姉さまの高尚な考えが他の方に理解できる筈ないです。なに言ってるんですかあなた?」
「あ、聞いてないんですね。そっちも」
「ええ聞いていません。その必要がありませんから!」
「なんで自信満々なんですかこの人」
キリハさん早く戻ってきてください。
疲れるんですけど。この人の相手、すっごく疲れるんですけど。
リィルもアイシャもマユもなんでこっち見ないんですか。変わってください。
わたしイヤです。……あれ?
「マユがいないんですけど!?」
「へっ? あ、あれ? さっきまでそこにいたんだけど……マユちゃーん?」
ま、まさかはぐれて……すぐにキリハさんに来てもらわないと――
「はい、です」
「ごめんねー。ちょっと気になるものがあったみたいで。ユッカちゃんはその人のお守りじゃなくて話したいことが会ったみたいだし」
「もう終わりましたから次は変わってくれていいですよ?」
「それはできない相談かなーって」
ですよね。
知ってましたよ。イヤですよわたしだって。
レアムが気にしないわけないです。
お姉さんのこととか[ラジア・ノスト]のことじゃなかったらそんなにひどくないみたいですけど……それ以外のことで話したことありましたっけ。
というかなんなんですかキリハさんも。
会ってから色々言われてるのになんで庇うようなこと言うんですか。
「マユちゃんどこ行ってたの? 言ってくれればついて行ったのに……」
「リィルさんと話してたみたいだった、ですから。サーシャ、さん。これ、どうぞ、です」
「この私がお菓子一つで口を割るとでも? ……美味しいですねこれ」
「自信満々に言って結局食べるんですか……」
言ってることとやってることがあってないんですけど。
あんな風に言うなら受け取らなきゃいいじゃないですか。
もらうだけもらうっていいんですか。それ。
優しいですねマユ。レキュアト買ってきてあげるなんて。
「食べ物を粗末にするな、と幼少期から教え込まれていますから。言われなくても食べた分のお金くらい払います。いくらでしたか?」
「大丈夫、です。マユのお小遣いとは別、なので」
「「それはもっとダメですよね!」」
「冗談、です。追加のお小遣い、ですから」
「やめてくださいよ、そんな怖い冗談は……」
キリハさんもたまに言いますけど、なんなんですか。
まさか変な影響受けてないですよね?
「あなたもなんですか。合わせないでくださいよ」
「それは私の台詞です。あくまで私は[ラジア・ノスト]の一員なんです。賄賂だなんて言われてしまったらそれこそ姉さまに迷惑が掛かってしまいます」
「さすがに大袈裟だと思う、です」
「僅かでも隙を見せるわけにはいかないんですよ。規模が大きくなるとどうしても敵が多くなりますから」
はぁ、賄賂。なんでしたっけ。
「……一応聞くけど、賄賂の意味くらいわかってるんでしょうね?」
「わ、わたしのことなんだとおもってるんですか!? しってますよそのくらい! あれがあれすることだって!」
「いきなり黙ったと思ったらこの子は……」
「しょうがないじゃないですか普段聞かない言葉なんですから!」
「なら誤魔化すんじゃないわよ」
ちょっと思い出す時間が欲しかっただけなのに。
知ってます。ちゃんと知ってます。うっかり忘れちゃっただけです。
「敵が多いなら手下くらい連れて来いってんですよ。一人でほっつき歩いて捕まったらそれこそ姉に迷惑かかるでしょーが」
「ないです。あり得ません。どこの誰だろうと姉さまに勝てるわけがありません。それともう一つ。その角度だと具が落ちますよ」
それはないと思うんですけど。
キリハさんだって言ってました。
どんなに強くても絶対に負けないなんてことはないって。
そういうキリハさんがやられたところを見た気がしないですけど、リィルとかアイシャに降参って言ってましたもんね。
戦いじゃないですけど。
というか戦っても勝てません。
マユやレイスさん達がいっしょでも勝てる気がしないです。
「……そこまで?」
「オレに、訊くな。エルナレイさんと戦っていたところしか、知らない」
「でもあの時は大体互角って感じだったよね」
あれは参考にならないと思います。
エルナレイさん、魔法も精霊の力も全然使ってなかったですし。
「浅い。浅いですよ皆さん。あんな短い時間の戦いで姉さまの実力を理解したつもりでいるんですか?」
「言ってねーですよそんなこと」
「イルエちゃん。多分言っても無駄だよこれ」
「おそらく“精霊騎士”も本気ではなかったと思いますよ。あの二人が本気で戦えば辺り一面が更地になってもおかしくありません。まあそれでも勝つのは姉さまでしょうけど!」
一々それ言わなきゃ気がすまないんですかこの人。
「彼も"ストラの新星"だなんて呼ばれているようですけど? それでも姉さまに遠く及ばないのは明白です。多少強くなったところでそれは揺らぎません。えぇ見えます。見えますとも。姉さまの前に跪く姿が!」
あっ……
「はい撤収だよみんなー」
「オレ知ーらないっと」
「逃げるが勝ち、です」
「ちょっと! あなた達!? まだ姉さまの話は終わっていませんよ!?」
知りません。あんなこと言ったサーシャさんが悪いんです。
調べるならちゃんとそういうところも調べておいてくださいよ。




