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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
II 歩み出すリヴァイバー
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第37話 狙った理由

 悩んだ末にアイシャ達は結局、昨日の少女と会うことにした。


「昨日はごめんなさい、です」


 ルークを先頭に意を決して踏み込んだもう一方の仮眠室。

 アイシャ達の姿を見るや否や、灰色の髪の小柄な少女はベッドの上で深々と頭を下げた。


「いや、ごめんなさいとか言われても……」

「そーですそーです。レアムの居場所聞くまではこっちも容赦しねーですよ」

「みんな待って。……一つ聞いていい? どうしてあんなことしたの?」


 決してアイシャも思うところがなかったわけではない。

 リィルを連れ去ろうとした上、止めに来たキリハと戦ったとも聞いている。

 他に声を上げる誰かがいるからこそ、冷静さを失わずにいられた。


「? 聞いてない、ですか?」

「えっと……何の話?」


 不思議そうな表情を浮かべた少女。

 そんな態度に、今度はアイシャ達が戸惑う。


「そういえば昨日の人はどこに行った、ですか?」

「き、昨日の? あたし?」


 一度目があった筈なのに。

 不審に思いつつも改めて少女の前へリィルは立った。


 何を言おうとしているのか。

 事件があったのはつい昨日。無警戒でいられる筈がなかった。

 しかし少女は、リィルを前にして一層申し訳なさそうに頭を下げる。


「……本当にごめんなさい、です」

「やめてってば。ほんとどうしたのよ」


 少女の意思ではなかったのではないか。

 不意にリィルの頭に浮かんだ可能性。キリハも思い至った可能性だった。


 この少女には何かある。

 ほとんど確信に近い予感を裏付けるべく、リィルは少女に視線を合わせる。


「あたしからもお願いしていい? ちゃんと話を聞かせて、って。狙われた理由だって分からないのに」

「昨日の人にも来てほしい、です。もう1人の、黒い髪の男の人、です」


 そこで、ようやく気付く。

 最初少女が差していたのも自身ではなく、キリハだったということに。


 謝罪の言葉も本心からのもの。リィルの中でその印象は揺らがない。

 早々に飛び出した少年が情報を隠してた事への不満が募り始めたとしても。


「(今のってキリハさんのことですよね?)」

「(ユッカちゃんもそう思う? なんか、仕返しとかじゃなさそうだけど……説明だってキリハが来なくても……)」


 仮にキリハが事情を知っていたとして、彼を待つ理由が分からない。

 敵対心もなく、だからこそ分からなかった。


(……かなり雰囲気変わったわね。この子)


 しかしその中でただ一人、リィルだけはまた別の印象を抱く。


 軽度の催眠状態にあったため、正確な記憶とは言えない。

 だが支部への道中キリハから聞いた話とも全く合致しなかった。


「それに関しては僕から説明するよ」


 各々が抱く疑問。

 現れたのは、犯人の次にそれを解消できそうな人物だった。


 アイシャ達よりも短い時間しか睡眠をとっていないが、疲れた様子は一切見せない。

 唯一普段と異なっていたのは、左腕に黒く凹凸の激しい腕輪を持っていたこと。


「何これ首輪? なんか嫌な感じ……」

「ですね。なんですかこの悪魔みたいな見た目。呪われそうなんですけど」

「いい線いってるよ」

「あ、そうですか。……えっ?」


 あっさりとした答え。

 思わず聞き流しそうになったユッカだったがすかさず腕輪を手放し地面に放る


「ああでも、心配しないで。もうキリハ君が壊した後だから」

「こ、壊したって……」


 いつ、どうやって。

 壊れたと言っても本当に安全なのか。


 同時に押し寄せた疑問。それを読み取ったようにルークは続ける。


「順を追って説明しようか。その子――マユちゃんは元々従者だったんだよ。まだ、雇い主は決まっていなかったけどね」


 従者。

 予め担当させる業務を決め、内容に応じて定期的に報酬を支払う契約。

 より円滑な契約のため仲介役が置かれており、契約を結ぶまでは管理人とも呼ばれる人物の下で生活を送っている。

 協会によって公認された制度。故に全員が冒険者としての登録も済ませている。


 理由は様々。

 自らその道を選ぶ者も、そうするしかなかった者もいる。


「ある日、この子を含めた数人がコロサハに移動する予定だったんだけど……ちょっとした事故が起こって、一人孤立してしまった。そんな彼女を見つけて連れ帰ったのが今回の首謀者の一人、ズクロという男だよ」


 犯罪への加担を避けるための仲介役。本来、人さらいへの加担などあってはならない。


「待ってください。一人ってどういうことですか? まるで、他にもいるみたいな……」

「その通りだよ、アイシャちゃん。この子の話で他にもズクロと連絡を取り合っていた人物がいる事までは分かってる」

「あのおじさんもよく誰かに頭を下げてた、です」


 その人物の正体は分からないとマユは言った。

 そんな情報を聞いて喜べる筈がない。ただただ脅威が増えてしまったのだから。


「話が逸れたけど、ズクロはマユちゃんを従わせるために魔道具を使ったんだ。その魔道具だったものが、今君達が持っている腕輪だよ」

「……はい?」

「あの人が壊してくれたおかげでやっと自由になった、です」


 一安心とばかりに息を洩らすマユ。

 被害に遭っていたとは思えない程に落ち着いていた。

 そんな彼女とは対照的にアイシャやユッカの中では無数の疑問符が浮かぶ。


「具体的な効果は発言と反逆の禁止。絶対に言うことを聞く実行役に仕立て上げたかったんだと思う。昨日リィルちゃんを連れ去ろうとしたみたいに」

「最っ低……」

「だろうね。キリハ君も言っていたよ。『証拠として残すならこのまま預かってもらえませんか。手元にあると叩き壊したくなって仕方がないので』って」


 その時のキリハの表情は険しく、普段と比べて声も荒々しいものだった。

 過去と関係していると分かっても、詮索を許さないプレッシャー。ルークでさえそれに呑まれた。


「でもおかしくないですか? なんでわたしたちには言わなかったのにルークさんだけ知ってるんですか。」

「見せるたくなかったんだと思うよ。今回持って来たのはあくまで説明のため。皆も早く忘れた方がいよ」

「忘れられませんよ、こんなの……」


 悪い意味で強烈な経験だった。

 こんな思いは二度としたくないと思える程に。


「いやさ、それは分かったけどレアムは? 何か知らない?」

「レアム、さん……?」

「青い髪の女の子だって。いや、昨日のやつと違ってちょっと明るい感じなんだけど。あと背は俺よりちょっと低くてそれから――」

「……もう、いい。この子は、何も知らない」


 必死に説明するレイスを止めるトーリャ。

 マユは話に耳を傾けていたが、思い出した様子はない。


「トレスとルーラの間、です」


 代わりに、自らが持つ情報を明かした。


「はい?」

「えっ……」

「拠点があった場所、です。マユが知ってるのはそこだけ、です」

「ちょっと待って。地図持ってくるから詳しい場所、教えてくれる?」

「勿論、です」


 頷いたマユの瞳は真っ直ぐだった。

 到底嘘をついているとは思えない。それでも。


「……信じろって言うんですか? 昨日あんなことした人の言うこと」

「だから、です。皆さんにはひどい事をしてしまった、ので。……だめ、ですか?」


 不安そうに見上げるマユ。

 じっと見つめられ、誰から促されるでもなくユッカは肩をすくめて息を吐く。


「わ、分かりましたよ。信じます。信じてあげますよ。今回だけは」


 そんな姿を見て強い否定の言葉など投げかけられる筈がない。

 毒毛を抜かれたユッカもそう思わずにはいられなかった。


「……チョロ過ぎて心配、です」


 直後にこんな言葉を向けられなければ。


「ちょっ、ちょろ……!? どういう意味ですかそれ! 人がせっかく信用してあげようって思ってたと、んむっ!?」

「子供相手にムキにならないの。それとあんた、マユも。思ったからってすぐ口に出さない」

「……子供じゃない、です」

「こっちはこっちで頑固ねもう……子供じゃないなら猶更よ。周りの空気を読みなさい」


 少なくともあのタイミングで言うべき言葉ではなかった。

 たちまち崩れる空気感。戻って来たルークは戸惑いながらもマユの話から拠点が置かれている地点を図面上で探る。


「……わたしがちょろいのは否定しないんですね」

「そ、そんなことないと思うよ? ユッカちゃんしっかりしてるし、この前だってルーラで変な人追い払ってくれたし……」

「うぅ……優しさが痛いです……」

「あ、あれ?」


 これまでの経験と率直な気持ちを言葉にしてもユッカは沈んだ様子のままだった。

 ルーラでの出来事は特に強く記憶に残っていた。そう伝えても、やはり何も変わらない。


「でも、どうしよう? どんなに急いでも今日中にトレスに着くなんて……」

「そもそもあたし達だけで行ったって駄目でしょ。相手がどのくらい強いかも分からないんだから」


 最大戦力のキリハはここにいない。

 もしかしたらもうキリハが向かっているのでは。そんな風にさえ考えた。

 あり得ない。あってはならないと思いながらも、どこかで。


「じゃあトレスの冒険者の人に協力してもらいましょうよ。どうせひましてますから」

「それは難しーです。この辺りじゃ魔物も狩れないってどんどん上級が離れてるですよ。数を揃えるなら数日待たないと」


 暇を持て余しているというユッカの予想は間違っていなかった。

 しかし、それに耐えかねた冒険者達は既にストラやトレスの近辺を離れてしまっている。すぐに呼び戻せる距離でもない。


「あのキリハって人に任せるしかねーです。本当は駄目って行ったって他に戦える人がいないならそれが最善になるですよ」

「そんなの駄目」


 しかしアイシャは否定した。

 イルエの言い分も一理ある。それを分かった上で、アイシャは更に言葉を重ねる。


「駄目なの。キリハ一人に行かせるなんて絶対ダメ」

「じゃあどーするですか。ここにいる全員が力を合わせてもこの前の変異種だって倒せねーですよ?」

「「そんなの関係ない(ですよ)」」


 そして、そう考えたのはアイシャ一人だけではなかった。 


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