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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VII ここにいたいと思うから
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第190話 尋ね人の真意

「……身体の自由が利かなくなったのは、いつだったっけねぇ……気付いた頃にはもうこの様だったよ。おかげであの子を探すのも他の連中に任せるしかなかった」


 そうして語られたのは概ね予想していた通りの――そして、より詳細な事態の移り変わりだった。


 マユを既に迎え入れる話が完全に纏まる前から、本格的な体調不良を訴えていた事。

 軽い眩暈や微熱が続くことはそれ以前にもあったらしい。

 それでも当時は、年齢が一番の原因だろうと考えていたのだそう。


 植物その他を調合したという薬。

 違和感が決定的なものになったのは、決まって飲んでいたその薬の効果が全くと言っていいほど感じられなくなった頃。


 この人が自ら捜索を続けることができていたのは、話を聞く限りあの大馬鹿とやりあった翌日まで。

 その頃にはもう、様々な問題が噴出していたことも。


 探していたのは、大雑把に見てカウバ寄りの地域。

 だましだまし続けていたツケがとうとう回ってきたのだと、自嘲するように呟いた。


「そして、その人達からレティセニアでの休養を進められた……というわけですか」

「そんなところさね。確かに、余生を過ごすにはいい場所だよ。こっちに来て後悔したことなんてほとんどないね」


 僅かな例外。詳細を聞くまでもない。マユのことだ。


 そして、この方がレティセニアへ向かう間も捜索は続けられた。


 マユが手紙を送っていることに気付けたのは偶然の産物だったという。

 臨時休業が続いていたこの人の事務所へ、頼まれた人物の一人が足を踏み入れたことで発覚した。

 宛先不明で回収される事のなかった手紙が、幸運にも。


「まあ、言うほどよくはならなかったよ。文句はないけどね。悪くならないだけありがたいくらいさ」

「ちなみに、その頃から何か変わったことはありませんか? どんな些細なことでもいいんです」

「なんだい。そんなこと聞いたってどうにもならないよ?」

「念のためです。念のため。たとえば普段合わない人に会うようになった、とか」


 それでも、すぐには行動を起こさなかった。

 バスフェーが開かれた時にも、カウバへ向かうことになった時にも、それは同じ。


 しかしカウバから帰る頃にはおそらく手を回し始めていた。

 マユの捜索に協力してくれていた人達の手を借りて。


 やはりというか、仕事柄知り合いは多いのだろう。

 オーキスさんも間接的に関わっていると聞いた時にはさすがに驚いた。


「そう言われてもねぇ……その子が訪ねてきたくらいだよ。一人前になって出て行ったのはもう何年も前のことだったのにね」

「風の噂で耳にしたんです。幼いころからお世話になっていた恩を少しでも返しをしたくて……幸い、蓄えもありましたし」

「まだそんなこと言ってるのかい? ……真面目が取り柄だと思っていたけど、こうも生真面目だと考え物だね」


 風の噂で。レティセニアにいたこの人のことを。


「……なるほど。あなたが……」


 ルーレイア側にいたというならまあ、まだ分からないこともない。

 それでも違和感はある。何故この人の話が、こちらでそこまで広がっていたのか。


「そうですが……私が何か? 気になることがおありでしたらお答えしますが……」

「いえいえ、ご心配なく。とても優しい方だと思っただけですから」


 もう一つ考えられるのは、事務所の近くに住んでいたという可能性。

 しかしこちらも考えづらい。そもそも、近くに住んでいたのならもっと交流もあった筈。


(そういう意味なら、あれだけしっかりと手紙を残しているこの人が全く連絡を取らないというのも妙な話だが……)


 それに関しては余計な推測のしようがない。

 問題はむしろ、あの時の瞬発的な怪力。それに老婆を支えている加護。


「既に他の方からも訊かれているとは思いますが……原因について、なにか心当たりのようなものは?」

「まぁ、若い頃にはそれなりにやんちゃもしてたからねぇ……今となっちゃ原因なんて分かりゃしないよ。飛び回ってた頃に変なものでももらったんだろうね」


 その話は、空の上で断片的ながらマユに教えてもらった。


 若い頃はトレジャーハンターめいた活動をしていたのだとか。

 大きな括りでは冒険者に含まれるそうだが、実情はやはり違うらしい。


 個人的には、魔物退治よりよほど冒険をしているにも感じるが。


「違います! ご主人様がこうなってしまったのは……!」

「そこまでにしときな。……余計な口を挿むんじゃないよ。困った子だね」


 ……伝手が広ければ優秀な医者にかかることができるのも当然、か。


 複数人の目で見ればより正確な情報も分かるだろう。

 その上、魔道具と言う明らかにオーバーテクノロジーな品々も現存している。

 その中に診断に精通しているものがあれば、おそらく。


「やはり分かっていたんですね。原因も。ひょっとすると、その対処法も……」

「何のことだからさっぱりだね。……変な気を起こすんじゃないよ。探しに行こうなんて考えたら承知しないからね」


 少なくとも、今この人を確実に治療できる魔道具は存在しないということ。


 肝心なところで役に立たない。

 だが、珍しいという程のことでもなかった。


「……そういえば、この辺りには秘境と呼ばれるような地域がありましたね。強力な魔物が生息し、不思議な力の溢れる土地が」

「あんな所に行ったって見つかりゃしないよ。痛い目を見るだけじゃ済まないって、まだ分からないのかい」

「危険地帯なのは承知の上です。相応の準備はするつもりですよ。最悪の場合でも、多少の怪我で済ませられるように」

「違うね。そうじゃないんだよ。できればすぐに察してほしいんだけどねぇ……」


 否定はしていたが、微妙に弱い。

 察していなかったわけではない。その理由も、見当はついていた。


 俺という個人ではなく、マユを見守ってくれる存在――……マユが心を許している人物が減るような事態を避けようとしている。


 それも理解したで言ったつもりだが、これがなかなか伝わらない。


「……あの子が従者になった理由、知ってるかい?」

「いえ、何も。本人に話すつもりがないなら無理に聞き出すことではないと思って」

「賢明な判断だよ」

「お互い様なんですよ。生まれてこの方、協会の存在をまるで知らなかったなんて話を一旦受け入れてもらっている身ですから」

「……確かに、にわかには信じがたい話だね。そりゃ」


 それでも、全面否定はしなかった。

 おそらく他にもいたのだろう。いる、かもしれないが。


「あの子の方はよくある話さ。面倒を見てくれる人がいなくなった。でも、一人で生きていくのは難しい。そういう子達に残された道なんてあってないようなものなんだよ」

「その一つが……従者として働くこと、というわけですか」


 住まいの確保が最大の問題。

 宿を借りれるだけの資金がなければ最悪、野垂れ死ぬことになる。


 孤児院とて無数に存在するわけではないだろう。


「それなりに稼ぎが溜まれば一人前としてやっていきこともできるからね。ただ……世の中には下らないことを考えるやつもいるんだよ」

「容易に想像できてしまいますね。残念ながら」


 マユがそんな目に遭わないようにしたかった。


「俺達と話す様子を見て、きっと間違いはないだろうと考えたわけですか。あなたは。それであの時……」

「安心したよ。ストラにもあの子のこのことを見てくれる人がいるって分かったんだからね。理由としては十分だよ」

「……ただ、あなた自身もマユを完全に突き放すことはできなかった」


 だからこそ手紙を寄越した。

 裏で手突きを進める事も不可能ではなかった筈だ。


「突き放すことなんてできるかい。……おかしな話だよ。まったく」

「いえ、その言葉を聞けて安心しました。……それから、ありがとうございます。あの時、マユを」

「あんたに言われる事じゃないね。それに、例を言わなきゃならないのはこっちの方だよ」

「でしたらそれはリィル達に。俺がした事なんてたかが知れていますから」

「……つまり、また来るって?」

「ええ、勿論。そのつもりです。……いけませんか? ただのお話だけでも」


 弱みに付け込んでいるようで、申し訳なさも感じていた。


「……好きにすればいいじゃないか。どの道、動きようがないからね」


 それでも先に、ここだけははっきりさせておかなければならない。






「……ありがとうございました。あなたが来ていなかったら、どうなっていたか……」

「マユの沈んだ顔が見ていられなかったんです。さっきはすみません。強引に止めたりして」

「いえ、私もお呼びに向かうつもりでしたから。お気になさらず」


 尋ね人の家はもう見えない。


 送るよう頼まれても、エプロンを纏ったその人は嫌な顔一つ浮かべなかった。


「……やはり、難しいんですか。治療薬の調合は」

「必要な素材は分かっているんです。ただ、簡単に手に入るものではなくて……皆様も伝手を当たってくれているのですが……」


 具体的な症状名を聞いたところで俺が同行できるものでもない。


「ちなみにその素材、教えてもらうことはできますか? こう見えてそれなりに危険な場所でも生き延びる自信はありまして」

「ほ、本当ですか!?」


 むしろ、必要なものだけ教えてもらった方が確実だろう。


 もし売られていても、資金の問題に直面するかもしれない。

 話を聞く限り、とてもじゃないが簡単に手に入れられるものとは思えなかった。


「あ、でも……ご主人様の具合の事もありますし、よければまた明日ということに……」


 ……ここまで離れておけば、聞かれる心配もないか。


「もし、どうかされましたか? 一応明日の集合場所を――」


「もういいだろう。……随分下手な芝居だったじゃないか、ヘレン?」


 もう一つの目的を、果たさせてもらうとしよう。

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