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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VII ここにいたいと思うから
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第182話 賞品

「…………納得いかない、です」


 閉会式を終えても、やはりマユは不服そうにしていた。


 さすがの主催者も、縄が千切れるとは思っていなかったらしい。

 替えを用意していなかったのだから間違いない。


 あの場であんな頑丈なものを新しく用意できる筈もなく、今大会は引き分け――同率一位ということで幕を下ろした。


 別の種目で決着をつけるという選択肢もあったと思う。

 観客の一部からはまさにそういう声が上がっていた。


 おそらく、今回は俺とマユが同じ所属――協会の書類上、実はまだマユは[イクスプロア]の一員では無かったりするのだが――だったからだろう。


「主催者さん達もだと思うよ? 二人して思いっきり引き千切っちゃうんだもん。ねぇ?」

「大人しくしてると思ったら……最後の最後にやらかすとかどーいう神経してんですか。揃いも揃って」

「以後気を付ける」

「反省、です」


 俺自身この決着に全面的に納得しているとは言えない。

 もう少し続けていれば、最後まで千切れることがなければ、そんな風に思ってしまっていた。


 実際に千切れてしまった以上、どうしようもならないのだが。

 その辺りの店から縄を持ってきたところで数秒経たずに同じ末路を辿っていただろう。


 本気で応えるのはよかったが、そのための舞台が整っていなかった。


「……大人しく?」

「全然、してなかっただろ」

「大盛り上がりだったからねぇ」


 盛り上がったのはあくまで結果的な話でしかない。

 まさか脱落した選手の荷車の重りを投げつけるとは。……本体ごと投げていたら蹴り返していたのに。


 ……そろそろ隣の怒気を受け流すのもつらくなってきた。


「まあ、否定はしない。まさかあれだけ派手なプログラムを組んでいたとは露知らず」

「出場する前に確認しておきなさいよ……!」


 一時的に放心状態だった(らしい)リィルはやはりというか、すっかりお冠だった。

 場所が場所なら正座を命じられてもおかしくない雰囲気だった。


 アイシャの方が若干復帰は早かったようだが、あまり覚えていないのだとか。


 いや、リィルも最初はそうだった。

 ユッカやイルエから事細かに事情を聴いた結果がこれなのだ。


「そうですよ。大変だったんですからね? アイシャもリィルもおかしくなっちゃって、呼んでも返事もしてくれなかったんですから」

「え……わ、私そこまで変だった?」

「自覚がないならいいんだよ。うん。思い出さない方が幸せなこともあるから」


 どう考えても原因はあのレースだろう。

 それと、決勝一回戦の腕相撲。


 余計な馬鹿の下らない目論見も何もない、純粋な力同士の勝負はある意味一番心地いい。

 その時の姿が、アイシャ達の知るキリハからはかけ離れていたというだけの話。


 とはいえ、さすがにもう少し気を付けた方がいいのかもしれない。

 何をどう気を付けたらいいのか見当もつかないが。


「まあまあ、いいじゃないか。こうして無事賞金も賞品ももらえたんだから。それに、全員表彰台にも立つこともできた」

「あんたはまたそうやって……」


 それより今は、賞金の大雑把な使い道。


 マユと単純に二分するにしてもかなりの額。

 予定よりこの町に長く滞在することになった今でさえ、余裕ができてしまう程度には。


 当然、考えなしに使えば一晩で蒸発させられるだろう。

 油断はできないが、少なくともこれで強引な手を使う必要はなくなった。


「どうどう。でも普通、あっても同率三位とかだよね。キリハ君が戦ってた……誰だっけ? あの人が二位なんだって?」

「テッドだ、テッド。まあ、俺とマユに賞品が集中するよりは、とでも思ったんだろう」

「確かに、あれをもらっても使い道が、ない」


 それも理由の一つ。


 二位の賞品の中にあったのはよりにもよって剣と鞘。

 レイスも今のものに愛着があるようだし、固執する程のものでもない。


 食料類には心を惹かれたが、一位にもあると分かった以上追い求める理由はなくなった。


 大会中はお留守番だった、我儘な誰かさんは勝手に賞品の鞘の方にケチをつけていたが。

 言われなくても変えるつもりなんてない。そもそもお前のものじゃない。


「なーに寝ぼけたこと言ってやがるですか。その辺のヤツに売れば金になったでしょーに」

「売ったところでイルエの財布に入るわけではないんだがな」

「有効活用できそうな方法を探すのが先、です」


 たとえば誰かのサブウエポンに用意する、とか。


 問題は、本当にただの剣であるといこと。

 魔法使い組と著しく相性が悪いのだ。


 前衛担当――ユッカやトーリャには以前、何度か土の剣を握ってもらった。

 が、しかし、全く手に馴染んでいなかった。


 形状の問題もあったのかもしれない。

 気になることは多いが、少なくとも今の段階で議論する余裕はないだろう。


「大丈夫だよ。最初からもらうつもりなんてないし。……その、聖水? は、どうしたらいいのかよくわからないけど。コレクション用?」

「奇遇だな。俺も同じことを思っていた」

「もう少しは興味持ちなさいよ!」


 そんなことを言われても。


 体力も魔力も全回復する伝説の秘薬にでもなってくれるのだろうか?

 何にせよ、今の俺達では持て余す以外ない代物だ。


「いや、興味があるない以前に俺が触れると黒く濁ってしまいそうで」

「どんなだよ。いくらなんでもないって。キリハの魔力の影響とか受けそうだけどさ」

「……それは、あり得る」


 何の冗談でもなく、この手の品とは相性が悪い。


 どこかの誰かの陰謀がなくとも、そもそもの相性が致命的に悪い。

 濁るというのもあながち冗談ではなかった。


「今のは冗談にしても、悪霊に浴びせるなりどこかで役に立つんじゃないか? 保管方法にさえ気を付けておけば」

「でも、その方法が分からない、です」

「とりあえず不用意に揺らさなければ大丈夫だろう。多分」


 余計な手を加えない。その手に限る。

 どこかで詳しい人物にも会えるだろう。きっと。


「本当にそれで大丈夫なの……?」

「だめですよね。まさにこれからすごく揺れそうな乗り物使いますよね」

「現状、それが最善だ。主催者側も知らないんだから仕方ない」

「はぁ!?」


 事実、渡した時にそう言っていた。

 突き返しても突き返しても押し付けられ、持ち帰るしかなかったのが真相。


「厄介なもん押し付けられただけじゃねーですか。爆発させるんじゃねーですよ?」

「大丈夫。いざとなったら程々に凍らせておくなりしておけば――」


「減点一〇〇」


 単純明快な解決策。しかし、言い切る前に底冷えするような声に割り込まれる。


「……いつ振りかの三桁減点と来ましたか。できればついでに、保管方法を教えてもらえませんか? サーシャさん」

「そんなことだろうと思いましたよ……何故姉様はこのような……」


 頭を抱えていらっしゃった。

 姉君のことを俺に言われたところでどうしようもない。


 目下の問題は聖水だ。


「いいですか。聖水というのはその名の通り非常に神聖な力を宿した液体です。こうして器に収められている限りはその効力を失うことはありません」


(だとしたら、そのまま――)


「で・す・が! 無闇に魔法を浴びせていいものではないんです! まして氷漬けにするなんてもっての外ですよ! 分かります!?」


 ……さすがに両手を上げるしかなかった。


 余計な反論などできる筈がない。どう見ても向こうが正論を言っている。


「キリハはちゃんと聞いとけですよ。やろうとしてたですからね」

「さっき、頷きかけてただろ」

「未遂なんだから関係ねーですよ」


 それにしても、また随分奇妙な代物が転がり込んできたものだ。

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