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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VII ここにいたいと思うから
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第168話 失敗しても

 会ったって言っても、そんなに長い時間じゃなかった、です。

 多分、人によっては会いに来ることもない、でしょう。そういう意味なら変わった人、でした。


 ――……よし、よし。いい子だねぇ、お前さん。でも、ちょいと肩の力が入り過ぎだよ。ほら、息を吸ってー……吐いて……


 でも、優しそうな人だった、です。

 連絡先まで教えてくれる人がいるなんて思ってもみなかった、ですから。


 ――ま、無理に何とかしようなんて考えなくていいよ。アタシもそういうのは好きじゃないからね。


 長い時間じゃなくても、いろいろお喋りしたことはちゃんと覚えてる、です。


 おかげで、先への不安もちょっとだけ軽くなった、です。

 もともと従者になるしかなかった、ですし、それだけでもほっとできた、です。


 だから、あの日も、安心しきってた、です。


 そのせいじゃない、ですけど、襲われた時は何もできなかった、です。

 武器もなくて、抵抗することも出来なくて、本当にあっという間、でした。

 こんなところで終わりたくないと思っても、何もできなかった、です。


 一緒にいた人も連れ去られて、変な首輪もつけられて、もう駄目だと思った、です。


 自分の身体なのにいうことを聞かなくて、自分のものじゃなくなったみたい、でした。


 もしあの時ストラにいてなかったら、どうなってたか分からない、です。






「とりあえずはこんなところ、か……っ」


 まさか一つ採取するだけでもこんなに力を使うことになるとは。

 どうりでいつまでも残っていた筈だ。ウケたくない気持ちが大きくなるのも無理はない。


 半分地面に埋まった岩の更にその下。

 そこで息を潜めていた小さな種子のような緑は、不思議な熱を放っているようにも思えた。


 魔法的な何かを作ろうと思ったら、ほぼ必ずと言っていいほど必要になるらしい。

 生息数自体は少なくないそうだが、問題はその場所だった。


 歩けば自然に見つけられる、なんてありがたい代物でもないのだ。

 それ目的で集める冒険者より、ある程度経験を積んだ冒険者が何かのついでに採取する事が多いのだとか。


 報酬は決して悪くはなく、単に納品するだけでもそれなりの額になる。

 しかし、労力に見合わないと考える者も少なくないようだった。


 岩を退けるだけならともかく、元の位置に戻さなければならない。

 できる事なら避けたいと思う気持ちもまあ分かる。岩を破壊すればいいというわけでもない。


「多分、素手で採るものじゃない、ですよ? マユはできる、ですけど」

「それはいい事を聞いた。だったら次はマユに手伝ってもらうのも悪くないな」

「おまかせあれ、です。……一人でやっちゃ駄目、ですよ?」

「しない、しない。頼んだ上でそんなことをするわけがない。さすがに」


 こんな、ザ・肉体労働のためだけにマユに来てもらうのは申し訳ないが。

 リィル達からもあまりいい顔はされないだろう。ひとまず保留が無難。


 やるとしたら、将来的にレイス達とのトレーニングに取り入れる、とか。

 なんて、岩を動かせるほどの腕力を身に着けるだけならどうにでもなりそうだが。


 重要なのはその後だろう。……レイス達が逃げ出そうと思わない範囲で。


「しかし、失敗だったな……二つも駄目にしてしまうなんて。さすがにこれは引き取ってもらえそうにない」


 種子のような緑が二つ。見事なまでに潰れていた。

 力加減を誤ってしまった結果がこれだ。自業自得としか言えない。


 対象の強度を考えると、《念力》辺りで浮かせるべきか。乱獲しない程度に。

 相場を荒らしたいわけでもない。


「珍しい、ですね。キリハさんが、そんなこと……」

「珍しくもなんともない。リィルから聞いただろう? ついこの間、意気揚々と歩いて行き止まりの歓迎を受けた話は」

「あっ……」


 思い込みというものは恐ろしい。

 リィルに指摘され、壁に阻まれるまで本当にあの道で行けると思っていた。


 何がストラの地図なら頭の中に入っている、だ。馬鹿馬鹿しい。

 できることならあの時の自分をぶっ飛ばしてやりたい。……が、今はそんな話はどうでもいい。


「でもそのくらいなら大したことない、ですよ? 引き返せばいいだけ、ですし」

「そう。やり直せる。駄目になってしまったこれも……まあ、何かしらの形で有効活用できるだろう。おそらく」


 未だに決めかねている――いや、言い出せずにいるらしいマユの気持ちを聞きたい。

 そうでもなければ、わざわざ自分の恥を掘り返すような真似もしない。


「同じように、大抵のことはなんとかなるものだ。……だから、マユがそこまで遠慮する必要もないんじゃないかと思ってな」

「……マユは、別に……」


 探している間も、小さな球体を回収してくれた時も、あの手紙のことを気にしているのは明らかだった。

 会えた時のことより、そこへ至るまでの事を心配していた。


「一つ目で上手くいかないなら二つ目、それでも駄目なら三つ目……そうやって、上手くいくまで色々試してみればいい。勿論、一人で抱え込まずに」


 実際、どこにいるのか手掛かりすら掴めていない。


 居場所を突き止めるだけでも時間はかかるだろうし、向かうまでの道のりも楽なものではないだろう。

 どれだけの時間を必要とするかも分からない。


 もしそれが違っていたら……確かに、不安要素は勘がれバ監がるほど浮かんでくる。


「ちょっとやそっとの失敗くらい、誰にでもある。取り返しがつかなくなる前に周りが手助けをすればいい。俺は勿論……それにきっと、アイシャ達も」


 もしかしたら、今も手紙から手掛かりが得られないか探しているのかもしれない。

 ちょっとお人好しなところのある面々が集まっているのは間違いない。


「なんて、偉そうなことを言ったが俺もそうだった。……いや、今もか」

「……それはそうかもしれない、ですけど」

「それに、俺だけじゃない。俺を鍛えてくれた人も、色々教えてくれた人も、弟分として可愛がってくれていた人も、どこかで、何かの形で間違えた。それも一度や二度じゃなかった」


 間違えていたら、そのせいで危険に巻き込んでしまったら。


 何より、向かうことが正しいのか否か。そんな正解があるかも分からない疑問


 ……会いたくないわけじゃないだろうに、その気持ちも押し込んで。


「全く間違わなかった人を少なくとも、俺は知らない。生きていれば、いつかは起こる」

「でも減らしたいって思うのは当たり前、です」

「だろうな。……まあ、事が大きくなったらその時はその時だ。なんとかすればいい。そういう時くらいは、俺の魔法でもなんでも当てにしてくれ」

「そんな時じゃなくても頼りにしてる、ですよ?」


 それは何より。……この力も、まだまだ捨てたものではないらしい。


「でも、頑張ったって……どうにもならない事もある、です。皆さんを巻き込んだり、したら……」

「ああ、だろうな。それがないとは言わない。だが、このまま放っておいても、きっとその先後悔する」


 実際、どうにもならない事はあった。


 試せる限りのことを試したつもりでも、他に方法があったのではないかと今でも思わずにはいられない。

 大勢を巻き込んで、それでもなお届かなかったことはあった。


「……少し、質問を変えようか。理屈を抜きにして、マユはどうしたい? 俺は、マユの素直な気持ちが聞いてみたい」


 それは間違いない。


「…………マユ、は……」


 だからこそ、思うところもある。


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