第165話 おつかいの途中で
「それと、これと……あと、あれをお願いします、です」
「いつものやつね。ちょいと待っておいてくれよ」
頼まれたものはこれで全部の筈、です。
あとはルークさんが買ってる、ですから。
でも、品物を受け取ろうとしたら、おばちゃんがいきなり何かを探し始めたです。
並んでる分でもちゃんと足りる筈、ですけど。
「はい、まいどあり。……それにしてもほんと、いつも偉いわねぇ。よかったらこれ持ってって。休憩時間にでも食べちゃいなさいな」
「え、でも……」
「大丈夫、大丈夫。いつも頑張ってるんだからだれも文句なんて言いやしないよ。……早く見つかるといいね」
「あ、ありがとうございます、です」
今日だけでも五回目、です。
今までの事を全部合わせたらもうわかんないくらい、ですから。
「またいつでもいらっしゃいねー!」
あのおばちゃんも、隣の隣のお姉さんも、その向かいのおじちゃんも。
ちょっとした時にいろんなものをわけてくれてた、です。
この町に来るまではそんなことなんてなくて、ほんとにびっくり、でした。
でも、今日は特にいい買い物がたくさんできた、です。
商人さんのお仕事を邪魔する魔物がいなくなったおかげ、でしょう。
おかげで協会の倉庫もすっかり広くなってた、です。
なんとか揃えられた、ですけど、次はもっと仕入れないとなくなっちゃいそう、ですね。
またキリハさんの周りで何か起こるかもしれない、ですし。
アイシャさんの家でいっしょにご飯を食べた次の日も、また大きなクネイシーがいたみたい、ですし。
まるで何かに引き寄せられてるみたい、でした。
キリハさんは『そんなやつがいるなら冬眠してもらいたいくらいだ。一生かけて』なんて言ってた、ですけど、多分無理、です。
多分、これから先も色んな事件に遭う気がする、です。
でもきっと大丈夫、でしょう。毎朝ユッカさんと特訓してるみたい、ですから。
「ま、マユ? どうしたんですか、そんな大荷物で……」
「このくらい軽い、ですよ?」
ほんとに会えた、です。
びっくりした、です。ユッカさんが一人でこの辺りに来ることなんてほとんどない、ですから。
そういえば、ユッカさん。体験会の後から前より優しくなった気がする、です。
前も意地悪じゃなかった、ですけど、ちょっとだけ変わったのは間違いない、です。
「いやいやいや! それ前見えてないですよね!? 怪我しちゃいますよ!?」
「同感だ。運び慣れているにせよ、危険なことに変わりはない。……ちょっと失礼、っと」
キリハさん、まで。
おかげで一気に軽くなった、です。
……もうちょっと背が高かったら、見えなくなるなんて事もなかった、のに。
でも、キリハさんもユッカさんも結局手伝ってくれそう、です。
「ほんとですよ。誰ですか? マユにこんなに任せたのは」
「他の人も買いに出かけてる、ですよ?」
「その上で特に重そうな荷物を担当した、と。次があったらその時は声をかけてくれ。俺達も手伝うから」
「そうですよ。キリハさんだっているんですから。じゃあ、わたしはこれとそれと――」
「あ、それは……!」
今ユッカさんが持った荷物はちょっと重――
「お、重……っ!?」
「ユッカも張り切り過ぎだ。ほら、少しこっちに」
キリハさん動くのが早い、です。
転びそうになったユッカさんの後ろから支える、なんて。
荷物もいつの間にかキリハさんの腕の中、です。
でもちょっと、持ちすぎ、ですよ? キリハさんたちだって自分の荷物がある、のに。
「ありがとうございます、です。二人もおつかい、ですか?」
「あ、ああ、まあ……そんなところだ。一応」
「?」
ちょっと詰まってた、気が。
そんな反応をするなんてちょっと珍しい、です。
あっても戦い以外で困った時とか、リィルさんに怒られた時、とか……あっ。
「おつかいなんかじゃないですよっ。リィルに行きなさいって言われたんです! ちょっと変えるのが遅くなっただけなのに!」
「……朝の練習をやり過ぎた、ですか?」
ちょっとありそう、です。
前に見た時もすごく熱心だった、ですから。
レイスさんもトーリャさんも一緒、でした。いつもそうみたい、です。
三対一なのに、まだ余裕がありそう、でした。
あの日はイルエさんとレアムさんも見てた、です。混じるつもりはなかったみたい、ですけど。
「大正解。実際、少し熱中してしまっていたのは間違いない」
「なのにユッカさんは怒ってる、ですか」
「なのに、じゃないですよ! 材料一つ一つ、一番安い店が全部違うんですからね!?」
「それはリィルさんのせいじゃない、ですよ?」
キリハさんも頷いてる、です。
それに全部が違うなんてことはない筈、です。お店だってそんなに多くない、ですから。
冒険者の人が買ったおうちだってある、ですし、食堂だって少なくない、です。
ユッカさんはたまに大げさに言っちゃうことがある、ですから、きっと今回もそのせい、でしょう。
「さっきから何度も言っているだろう? 怒ったのはユッカのことを心配しているからだ。それに……この状態でもできることはある」
「却下で」
「だと思った」
「どうして、ですか? そんな方法があるなら、やれば……」
でもちょっといやな予感がする、です。
キリハさん、普段はできるだけ冷静なことを言ってくれる、ですけど、たまに変わったことを言う、ですから。
「できるわけないじゃないですか! すれ違う人の魔力を感じとりながら歩くなんて!」
……やっぱり、でした。
教えてもらってもよく分からない、です。何言ってる、ですか?
調べたくても、キリハさんの魔力が大き過ぎて調べられない、です。
「とまあ、そういうことだ。その辺りはユッカにもいずれやってもらうからいいとして」
「よくないですよ!?」
「いいから、いいから。少し急ごう。……集合時間が近い」
「えっ。……あっ!?」
集合時間があるなら行ってくれてよかった、のに。
「もっと早く言ってくださいよ! これ間に合いませんよ!?」
「大丈夫だ、問題ない。この辺りの地図ならさすがに頭の中にある」
「じゃあ……お願いしますね?」
「「そうじゃない(です)」」
任せるつもり満々、でした。
そんな言い方でも駄目だと思う、です。リィルさんにばれる、ですよ?
「だってしょうがないじゃないですか! きっとキリハさんの方が歩くの早いですよね? あのお願いの権利使ってもいいですから!」
「こんなところで躊躇なく使おうとするんじゃない」
そういえばあった、ですね。
事あるごとに使おうとしてずっと残ってる、とか。
ユッカさん『どこで使えばいいんですか』って言ってた、です。
「……そんなに慌てなくてもいいでしょ。あたしのことなんだと思ってるのよ」
「り、リィル……!?」
「ま、まあまあ……あんなにたくさん荷物があったなら仕方ないよ。ね?」
リィルさんにアイシャさん、まで。
レアムさん達は協会、でしょうか。
あっという間に賑やか、です。
ちょっと前まで一人で買い物だった、のに。
でも、どうして、でしょう?
集まる時間まで余裕があるなら、迎えに行かなくても……
「……確かに、マユと一緒だったのはありがたいわね」
「マユが、ですか?」
「そうそう。実は……マユちゃんに見てもらいたいものがあって」
そう言ったアイシャさんが持っていたのは、小さな便箋、でした。
その時はまだ、あんなことになるなんて全く想像もできなかった、です。




