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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅴ 世界でただひとつだけの
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第113話 聞かされた秘密

 昨日同様、協会の仮眠室を借りることが決まった後。


 リィルに促されるまま向かった先は小さな酒場のような場所だった。

 冒険者らしき姿があるのを見るに、とりあえず小洒落た場所ではない。


 所々が欠けた木製の看板。

 切り傷の数え切れない円形のテーブルと椅子も同じく木で作られている。


 薄灰色の床に飛び散った液体を避けながら、入口から見て右奥の席をリィルと二人で陣取った。


「悪いわね。疲れてるのにこんなところまで連れて来ちゃって」


 結局、仕留めた魔物に関して詳しい情報は手に入らなかった。


 エルナレイさんの話も踏まえると、胸部を狙ったのは少々迂闊だったかもしれない。

 運がよかったのもあるだろう。二度目はないと思った方がいい。


 しかし奇妙でもあった。

 喉仏に当たる部分を的確に切り裂いたエルナレイさんはともかく、あの一撃で倒せてしまったことが。


 相手が普通の魔物であれば分かる。

 通算すれば、《万断》程ではないにせよ教団の化け物を星の数ほど葬り去った魔法だ。


 しかしあれは普通の魔物ではなかった。


 耐久力に限れば間違いなく並の魔物をはるかに超える。

 未だ不完全な《穿流星》では簡単に仕留められるものではない。


 それにユッカ達は思いつく限りの攻撃を仕掛けたと言っていた。


 当然、胸部にも刃は向けられた筈。

 それを思うと、あの一撃が急所を的確に射抜いたとも考えられなかった。


 ユッカ達の攻撃がたまたま届いていなかったのか、別の個体だったのか。

 僅かなズレが原因だったと言われてしまったらもうどうにもならない。


「リィルの頼みならいくらでも。アイシャ達にも待ってもらったのは少し意外だったが」

「別に言わなくていいわよ。そんなこと。あんたなら断らないって思ってたから」

「リィルなら、本当に体調が悪い相手を連れ出すことはないだろうからな」

「だからそういう……もういいわ。いつものことよね」


 別に呆れなくてもいいだろう。

 本心と思われていない、なんてことはないにせよ……さすがに少し、考えた方がいいのかもしれない。


「あんた、例の人に会えなかったの?」

「……いきなり直球だな」


 埒が明かないと思ったのだろう。


 正直、そんな気はしていた。

 自分では表情に出しているつもりなど微塵もないのだが、周囲の反応からして分かりやすい節があるのは間違いない。


「あんた知ってるでしょ。あたしそういうの苦手なの」

「言うほどでもないだろう? ……いや、それは今関係ないか」


 運ばれて来たばかりの果実水を飲み干したが、あまり味は分からない。

 それでも、客の笑い声は程よく気分を紛らわせてくれていた。


「リィルが思い浮かべている通りだ。まさか気配を感じて向かった結果が空回りなんてな」


 狐につままれた気分とはこのことか。


 なんて、そんな余計なことを考えている辺り、まだどこかで楽観してしまっているのだろう。

 或いは、単に現実を受け止めたくないと思ってしまっているが故のものか。


「誤魔化さないでよ」


 だからリィルのそう言われた時、まるで心の内を見透かされたような気さえした。


「あんたの昔のことなんてほとんど知らないけど、それでもなんとなく分かるのよ。昔は本当に信頼してたんだって。……多分、あたし達以上に」

「あえて自分の事を引き合いに出す必要なんてないだろうに」

「でも、否定はしないでしょ?」

「そこは譲れない。あいつの事は勿論、リィルまで裏切ることになる」


 まだ、今と比べてもはっきり『弱かった』と言える頃。

 半ば押し付けられる形で手にした力にも頼らなければならなかった頃。


 確実に俺達だけではどうにもならなかった。

 当時、あいつを送り込んだある人物に反抗もしたが、それだけは間違いない。


「それから、一つ訂正させてくれないか。あいつのことは今でも信頼してる。向こうがどう思っているかは分からないがな」


 我ながら、これには肩をすくめるしかない。


 決して思い当たる節がないわけではなかった。

 魔戦末期には直接言われた事すらあった。


 ただ、それもこれも以前の俺を知っているからこその言葉だったことも薄々ながら感じていた。

 俺のようなやり方では何の解決にもならないのだと、忠告を込めて。


 諸々を理解した上で、拒んだ。

 それを後悔していないと言えば嘘になる。


「してるわよ。絶対してる。してないわけないでしょ」


 その機会を探していたのも、正直あった。


「……やけにはっきり言い切るんだな? そう言っていたのか?」

「全然。そんな話まるでしなかったわよ。この前だって耳寄りな情報、なんて言ってあんたの味の好みを喋ってたくらいだし」

「待った。その話、もう少し詳しく」


 何のつもりだ。あいつ。


 確かに昔からそういう節はあった。

 いざ形になるまで、意味不明にも思えるような行動を繰り返す。


 まさか人のそんな秘密を勝手に暴露してくれているとは思いもしなかったが。


「い、いいじゃない。そんなことどうだって。別に悪用なんてしないわよ」

「むしろ好みの情報をどう悪用しろと?」

「そこは掘り下げなくていいから!」


 そもそもこちらの世界で無効と全く同じ食材を用意できるわけではない。

 代用品が分かれば別だが。


(……その辺りもある程度は教えていそうだな)


 ほぼ間違いなくやるだろう。

 その程度を調べることなど、あいつにとっては造作もないことだ。


「そうじゃなくて。あんたの好みとか、しっかり覚えてたわけじゃない? どうでもいいと思ってる相手のこと、そこまで覚える?」

「……ないな。少なくとも俺は覚えない」


 あるとしたら、叩きのめすべき敵の癖を覚えるくらいのもの。

 それもある意味『どうでもいい』相手とは言わない。


(……やはり、このグローブも)


 毒や呪いが仕掛けられているわけでもない。

 その時点で疎まれているわけではないと期待していた。そう思いたかった。


 しかしそうなると余計に分からない。

 何故、未だに姿を隠し続けているのか。


 経験上、全てが明るみにならない限り本当の狙いも分からないだろう。

 頼りになる反面、そういうところはどうしても不安になる。


「……それ、やっぱりあの人からだったのね」

「さすがに気付くか。……レイスやトーリャからは気付かれないようにと言われていたんだが」

「なんでよ」

「さあ、それを俺に言われても」


 真相は二人のみぞ知る、といったところだろう。

 俺の下手な推測は聞かせない方がいい。どちらに転んでもロクなことにならない。


「そんなことより、お礼を言わせてくれ。ありがとうリィル。おかげで少し気が楽になった。焦らない程度にこれからも探して――」


 偽りのない本心を伝えるつもりだった。


 しかしそれも、腕を掴まれ阻まれる。


「り、リィル? どうしたんだ。急に」

「……今、あんた右手でテーブル小突いてたわよね?」

「あ、あぁ?」


 いきなり何を。


 それがどうしたというのだろうか。

 確かに少しばかり行儀は悪かったかもしれないが。


「他にも言いたいこと、あるんじゃない?」

「言いたいこと? と言われても……」


 ……ない。

 考えてみたが、早急に伝えなければならないことに心当たりは全くない。


 しかしリィルは明らかに納得していなかった。


「話の中で他にも聞いたことがあるのよね。あんたの癖とか」

「く、癖?」

「そ。たとえばさっきのあれ。ちょっとごまかしたいことがある時にやってたそうじゃない」

「……そうか?」


 あいつそんなことまで。


 しかし、不思議なことにそんな話は聞かされた覚えがない。


「なあリィル。今の話、本当なのか? 今まで一度も――」


「でも、否定の仕方がちょっと弱かったわよね?」


「何? ……あっ!?」


 問いかけたが、すぐに分かった。

 俺はカマをかけられただけなのだと。


「リィル……」

「だ、騙したことは謝るわよ。でも今はあんたの話が先!」


 ……押し切ろうとしているような。


 しかしリィルの表情は真剣だった。

 今、それを追求しても仕方ない。


 手まで握られて、話を逸らせるわけがなかった。


「前にも言ったこと、もう忘れた? ……もうちょっとくらい、本音を見せてくれてもいいじゃない」

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