第16話 ヒーロー異世界にてクラスが介護職員になる ⑥
「まさかAランクのバジリスクの牙をもってくるとは驚きじゃ⋯⋯⋯⋯」
大我たちはギルドにつくと、すぐさまマーテルの案内によりギルド長室へと案内されていった。
途中、幸いにも水属性の使えるエリシアにより綺麗にバジリスクの返り血を落としてもらい吐かない程度の臭いには収まっている。
「これで、登録は問題ないだろう?ギルド長」
「うむ、マーテルから聞いておったが異常なステータス値だったとか。最初は鑑定石の故障かとも思ったがAランクのバジリスクなどエリシアが手を貸しても討伐不可能な相手じゃからな」
「く⋯⋯⋯⋯このギルドはわたしを持ち上げたいのか貶めたいのか、よくわからん対応だな⋯⋯⋯⋯」
「いや、貶めておるつもりはないよ。こんな小国にソロでBランクに到達し剣術スキル、魔法適正にも恵まれた麒麟児じゃ」
ほっほっほと、白い髭をなでながらギルド長と呼ばれている老人が笑う。
「先刻、オークキングにも勝てずにいて落ち込んでいるんだ⋯⋯⋯⋯その手の言葉は結構キツイ」
「オークキングなど、1対1であればお前さんでも充分勝機はあると思うがの。すべてがステータスの数値で勝敗で決まるわけでもない」
確かにその通りだと、大我は思う。
バジリスク戦では、実際に一度命を諦めかけるほど追い込まれた。
ステータスとスキルをどう使うか?そして、勝つという欲求がより強いものが生き残るのだろう。
と、大我は喋ろうとしたが先ほどのメイドからの口移しの件でエリシアとマナからの視線がキツく、いまだうまく喋れないので、ここでは無口な戦士で通そうとして口を噤んでいた。
「さて、トラファイターと言ったかな?」
ギルド長が、大我に向かい声をかける。
側にいたマーテルが、またテーブルを破壊されるのではないかと名前を正確に言わなかったギルド長青い顔で見つめていた。
「トラファイターX3だ⋯⋯⋯⋯」
意外にも、普通に訂正する大我にほっと胸をなでおろすマーテル。
さすがにこれ以上エリシアやマナの前での痴態は避けたい。
それに、老人には優しくしなくてはならない⋯⋯⋯⋯介護職員として。
「すまぬの、では改めてトラファイターX3殿、貴殿を冒険者ランクCと認めよう。本来、Aランクの魔物を討伐できるものをCランクからというのは気が引けるがこれも規則での。本来であればゴブリンの耳を持ってこぬば合格ではないのじゃが、これも特例といったことで納得してくれると助かるのじゃよ」
「⋯⋯⋯⋯問題ない」
イメージはゴ○ゴ13である。しょうもないところで英雄模倣使う大我にマナにだけはバレており、マナもしょうがないと呆れていた。
「これが、冒険者証じゃ」
ギルド長がそういうと、マーテルが銅色のカードをそっと大我の前に渡してきた。
大我が、そっとカードを拾いあげると文字が浮かび上がる。
―――――――――
トラファイターX3
種族 人族
クラス 介護職員
LV 9
HP 40/40
MP 0/0
力=9999
防御=9999
敏捷=8
体力=4
知力=3
魔力=0
運=6
魔法適正
闇Lv2
光Lv2
スキル
翻訳Lv10(あらゆる言語が理解可能となる、常時発動)
英雄模倣Lv10(思い描いた英雄の動きを模倣することが出来る)
称号
介護する者Lv3(介護をしつづけた物に与えられる称号)
英雄を望む者Lv9(英雄に強い願望を持つ者に与えられる称号)
―――――――――
「⋯⋯⋯⋯マーテルが言っておったように凄まじいステータスじゃのう。スキルも見たことがないものがある」
ギルド長が目を見開いて大我のステータス画面を見入っていた。
何故か介護職員のクラスから変わってないのが大我は気になったが質問をぶつけ用にもいまのキャラがのメッキが剥がれそうなのでそっとギルドカードをしまいこんだ。
「これでやっと、登録が出来たな。次はアゼルガ城に赴いて護衛騎士団への入団の手続きをすませよう」
エリシアのその言葉にギルド長が待ったをはさむ。
「待つのじゃ、エリシア。いま、このギルドはお主が抜けて以来Bランク冒険者がまったく排出されない閑古鳥がなくほどのギルドじゃ。将来有望な者いきなり騎士団に取り上げられるわけにはいかん」
「そうは言うが、この者は最初から騎士団に入れるつもりでその実力の証明でとギルドカードを作りに来たのだ。それに使命依頼にしてしまえば問題なかろう。なにがなんでも騎士団には来てもらわなければならん」
「いや、お前さんのように騎士団から帰ってこなくなるのは困る。いくら使命依頼といってもそれは引き抜きになるのでは意味がない」
エリシアが、負けじと反論するとギルド長も負けじと反論する。主の命を遂行するため、一歩もひくわけにはいかないエリシア。
しかし、ギルド長もせっかくの金の卵を産むかもしれんものを手放すわけにいかない。
この者ならば、確実に近いうちにSランクへと到達する。そうなれば、他のギルド長より地位があがり発言力があがり、アゼルガ王国のすぐ西にある魔の山脈への魔物を間引きする戦力を集めることが出来る。
アゼルガ王国の西の山脈は踏破不能と言われいるのはその険しさだけではなく強力な魔物が生息するのも理由の一つであった。
本来のギルドであれば、随時討伐依頼をかけ国も報奨金を出すのだがこのアゼルガ王国のギルドではBランク以上の魔物が現れた際には国が騎士団を出すという態勢で、ギルドとしてはなんとも歯がゆい思いをしていた。
そんな中、ここにSランク冒険者が現れれば閑古鳥がなくこの冒険者ギルドでも冒険者を希望するものが多く現れ、他の国のギルドから冒険者が流れてくるという思いがギルド長に強くあった。
お互い、譲らない言い合いに大我は、そろそろ介護施設に戻ればならないと思いそわそわと時間を気にしてきた。
(この世界、時計がないからな⋯⋯⋯⋯もう日がすっかり沈んでるし、早く戻らないと⋯⋯⋯⋯)
大我がそう思っていると、終わりそうにないエリシアとギルド長の言い合いにマーテルが解決策を提示してきた。
「あの、この討伐依頼をこなしてAランクにあげてしまって使命依頼ではなく、ギルドからの派遣員として騎士団への教導員として随行させるというのはどうですか?」
「教導員だと⋯⋯⋯⋯?確かに、ローゼレッタ様の護衛騎士団は熟練度も低いが冒険者に教導されるなどと王族が認めるかどうか⋯⋯⋯⋯」
そう、いいながらマーテルが差し出してきた討伐依頼書を見る。
――――――――
討伐依頼
ランクS
討伐対象
グラム帝国との国境付近の魔の山脈に住み着くドラゴン
――――――――
「⋯⋯⋯⋯初めて見たぞ。Sランクの討伐依頼書など」
エリシアが感情がなくなったような声で言う。
「ここ2,3日で出てきた依頼でな。グラム帝国のギルドにも依頼が出されている魔物じゃ。おそらくじゃがバジリスクはこのドラゴンから逃げてきたんじゃないのかのう」
そうギルド長が、言うとお茶を啜りながら言葉を続ける。
「たしかにこのSランクの依頼をこなせば特例の特例としてAランクにあげよう。そしてマーテルの言うように教導という名目で騎士団に差し出そう」
「⋯⋯⋯⋯そこらへんが妥協点か⋯⋯⋯⋯タイガ、どうだ?ドラゴンだが、倒せそうか?」
むっつりと腕を組んで、いまのいままで話しを聞いてなかったタイガは初めて討伐依頼を見て態度には出さず驚く。
(え? ドラゴンて、あのドラゴン? ファンタジーで定番の? 大きいんでしょう? バジリスクでさえ戦隊物のロボットでもないと無理じゃないの? って思ってたのに完全に怪獣の領域じゃないの? )
「⋯⋯⋯⋯すぐには討伐には向かえないな⋯⋯⋯⋯」
事実だ。タイガにはすぐには向かえないだろう理由があったので体良く理由として断りを入れた。
「何故だ? なにか理由があるのか?」
考えこむふりをしながら、どうやってエリシアを丸め込もうかと考えているとマナが脳内に話しかけてきた。
『マスター、討伐に向かいましょう。確かにSランクの魔物は脅威ですが逆にチャンスです、ここで神核石の力を向上させないと魔王と対峙するのも難しくなるかもしれません。それに英雄模倣使えば、倒すことも容易だと考えます』
確かに、バジリスク戦でこのまま魔王と対峙というのは戦闘経験が少なすぎるなと思いマナの言葉に従うことにしたがそれでも2,3日猶予が欲しくちょいとちょいと耳を貸せとエリシアにジェスチャーを送る。
疑問に思いながら、エリシアは片耳を大我に向けると信じられない言葉を発してきた。
「ごめん、エリシア。おれ多分明日から筋肉痛で2、3日動けない⋯⋯⋯⋯」
その言葉にエリシアは、このオッサンはと頭を叩きたくなったがギルド長の手前ぐっと堪えた。
「ギルド長、その依頼受けるそうだ。ただ、動くのは3日後だ。その間にグラム帝国のギルドが動く気配はあるか?」
「まぁ、大丈夫じゃろう。グラム帝国との国境付近とあるが、場所的にはアゼルガ王国のほうが近い、そのくらいの日数であれば出し抜かれはしまいし、なにより簡単に討伐されるようではSランクとは言えん」
話しは終わりだとエリシアは立ち上がる。
「わたしは、このままローゼレッタ様に報告するために城へ赴く。タイガはどうする?」
やっと帰れると思い、帰らなくてはいけない理由をエリシアたちに告げることにする。
「おれは介護施設に帰る。今日は夜勤なんだ」
なんとも言えない空気が場に流れる⋯⋯⋯⋯
▽▽▽
「ほんとうになにからなにまで規格外な存在じゃったな⋯⋯⋯⋯」
エリシアと大我が退出し、マーテルと二人きりの部屋でギルド長がマーテルに語りかける。
「はい、あの数値でなぜクラスが介護職員のままなのか謎です」
「よっぽど、戦闘職に気が向かないのかの」
本来であれば冒険者登録されればそのもののクラスは剣士などになるのだが、それは潜在意識が自らが自らをソレと認めた時に示される。
あのトラファイターX3という者は、心の奥底では戦闘職というものに忌避を抱いてるのやもしれないとギルド長は考えていた。
「このまま進めばSランク冒険者の介護職員というわけのわからない存在になるのう」
Sランクになるのは、疑いなく思うギルド長にマーテルもいずれそうなりそうだなと思い、そしてそのまま介護職員というクラスが最強のクラスの一角に並ぶのかと思うと思わず笑みがこぼれそうになるのであった。




