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第二十二話 加入




「俺をブラザーフッドに入れてくれ」


自分で口にして、その突拍子の無さに驚きつつ、雄一は真剣な顔を崩さなかった。

盗賊団ブラザーフッド。彼らの仲間になることは、絶滅教団に近づく手段としては、現在で最も有効な手段と考えたからだ。

何が目的だったのかは分からないが、少なくとも塔で得た情報を教団に教えることは間違いない。そしてそれは、例の惨劇事件の日まで行われることだ。

タイムリミットまでの僅かな時間。直接接触できる機会など、早々有りはしないだろう。


「……意味が分からん」

「仲間に入れてくれって意味だ」

「いや……えーっと。なんで俺らがブラザーフッドって知って……いや、それよりも。俺ら、ブラザーフッドだぞ?」

「うん」

「いや「うん」じゃなくて……分かってんのか? 獣人だぞ、俺ら」


そう言えばと、雄一は思い返す。

ブラザーフッドと言うのは、この世界においての差別対象である、獣人と言う人種で構成された盗賊団である。

思えば、壁を駆け上がったり、子供を二人抱えたままの全力疾走など。普通の人間に出来る芸当ではない身体能力の数々。それも、ダイクリッドが獣人であることが関係しているのだろう。

しかし、そんな世界の常識も、雄一の前では意味をなさない。何が問題なのかと首をひねる。


「? 俺は別に気にしないけど。俺と変わらない人間じゃん」

「気にしないって……ほれ、獣耳生えてんだぞ俺ら」


と言って、帽子を外す。その下には、頭から直接生えているであろう、犬のような耳がピクピクと動いていた。


「うーん、野郎のケモミミはなぁ……萌えないからパス!」

「どういう意味だてめぇ!」

「あ、ならお前にも生えてるのか? ケモミミ」


そばにいるリトゥカに尋ねた。


「うん、あるよ? ほら」


リトゥカが帽子を脱いで頭を見せる。ダイクリッドとは違い、丸っこいフサフサの耳である。

そんな耳を見て、雄一に強烈な衝撃が走った。リトゥカの頭を鷲掴んで、ダイクリッドへと差し向けた。


「これだよこれ! 萌えって言うのはこういうのなんだよ! お前のはどちらかと言うと『燃え』って感じだ!」

「全然意味分かんねぇ……」

「あと、俺に対してお前らの一般常識を当てはめるな。俺は異世か……かなり遠くから来たから、ここらの習慣なんて知らん」

「なんだ田舎モンかよ」

「田舎モンかぁ」


どうしてここの奴らは俺を田舎者扱いしたがるのだろう。何度も同じ評価を受ける雄一は、流石にそろそろうんざりしていた。


「で、リトゥカ。実際の所どうだ?」

「うん、本気で言ってるみたいだよ。仲間になりたいってところから含めて」


リトゥカは確信を持って言っているようだった。そして、そんなリトゥカの様子に、何の疑いもなくうなづくダイクリッド。

雄一への疑いの目はなくならないものの、警戒心は少し解かれた様子だ。ダイクリッドは目頭を押さえてため息を付き、


「……獣人を見る目でもないしな。本気なのか?」

「ケモミミって可愛いと思うの」

「これも本気だね」


リトゥカは次々と雄一の本心を言い当てる。嘘をついている可能性など考慮せず、雄一の言葉を信用しているような口ぶりだ。


「リトゥカが言うならそうなんだろうな。けど、わざわざなんで俺達なんだ? そもそも、城に居るようなやつが、なんでこんな裏稼業に興味を持つ?」

「えーっとだな……そう! 俺はケモミミ愛好家なのさ!」

「「気持ち悪い」」

「いやいや、ケモミミってのは俺の故郷じゃ愛でる対象だ。もちろん女の子限定だけど、男だってそれなりに需要はあるぞ?」


嘘は言っていない。現代日本において、『そう言った趣向』と言うのは存在する。いわゆる軽度のケモナーだろうか。

雄一は口から出まかせながらも、完全には間違っていない情報を続ける。


「それに、城にいたっていうのもさ。牢屋から抜け出して、こっそり塔に隠れてただけなんだよ。だからある意味、俺は逃亡者ってわけなのさ」

「嘘は……言ってないみたいだね」


頭をガリガリとかきむしり、忌々しそうに雄一を睨みつけるダイクリッド。雄一の感情の真偽がどうであれ、あまり快く思ってはいないようだ。


「そもそも、お前を仲間にして、こっちに何のメリットが有るって言うんだ?」

「あー……格闘から炊事洗濯掃除。なんでも出来る使用人をタダで雇えるぞ?」


かなり苦し紛れの一言であった。発言してから、馬鹿にされるだろうと覚悟を決めた雄一だったが、意外にもこれは好感触に受け取られた。

リトゥカの目は輝いて、ダイクリッドの表情も険しくない。理由は分からないが、もうひと押しだと考えて、


「盗賊業って初めてなんだ。色々教えてくれると助かるよ、リトゥカ先輩」

「……っ! せ、先輩!?」


これまた好感触。衝撃の走ったリトゥカは、ほころぶ頬を両手で抑え、「先輩」と言う単語を繰り返し口ずさむ。

あ、もしかしてこいつらチョロいな? 内心でにやりと笑う雄一。


「う……ん? 何を騒いでるの、リトゥカ」


目を回していたルトゥカが目を覚ました。


「よお。ルトゥカ先輩も目を覚ましたか」

「はうっ!? せ、先輩!?」


双子はもはやトリップ状態。もはや二人は陥落したと言ってしまっていいだろう。

となると、残るはダイクリッドただ一人。流石に子供でもない彼を言いくるめるには、先輩という言葉では全然足りないだろう。そう言った甘言で動くタイプでは無さそうだ。

ちらりとダイクリッドの顔を見る。顎に手を当てて何か考え込んでいるようだった。


「……お前、ガキの世話は出来るか?」

「ガキ? まあ、それこそ俺の得意分野だけど……」


雄一は児童養護施設の出身者である。炊事洗濯掃除というのも、そこで身につけたことであり、元を辿れば子供の世話をしていたことで身につけた特技だ。


「よし、それじゃあ仲間にしてやる」

「…………えっ、良いの?」

「ああ良いぞ。だが……仕事はしてもらうからな」













*    *


「なんじゃこりゃぁ!?」


ブラザーフッドの仲間入りを果たした雄一は、ダイクリッドたちに連れられて、裏通りの更に奥側へとやってきた。

昼間というのに陽が差さず、まるで夜のような場所に建つ建物。

屋根には穴。壁にはヒビ。カビや埃がそこかしこに充満し、今にも崩れ落ちそうなボロボロの家。

そして雄一が叫んだ訳は、その外見ではなく内部にあった。

ゴミや衣服が散乱し、それから発せられる腐臭が漂う。湿気と埃場混ざりあって、壁や床がテラテラと光っていた。もはやゴミ屋敷と表現すべきその光景。物取りでも入ったのかと思うほどである。


「お前の仕事だ。頑張れ」

「盗賊の仕事じゃないじゃん! まんま使用人の仕事じゃん!」

「え、使用人でしょ、お兄ちゃん?」

「え、使用人だよね、お兄ちゃん?」

「違うよ! 盗賊団に入れてくれって言って、なんで初仕事が部屋の掃除なんだ!」


手渡されたモップとバケツを床へと叩きつけた。絶滅教団のことを調べるために盗賊団入りしたはずなのに、指示された仕事が一周目と同じとはこれ以下に。

自身のアピールポイントが使用人のものだったにせよ、まさか本当にそれだけを仕事にさせられるとは思っていなかったのだ。


「いやな? いつもはもう一人の仲間がやってくれてるんだが……不器用すぎて、逆に荒れるだけなんだよな」

「え、これって掃除した結果なの?」

「かと言って俺たちも大して戦力になれないからな。後は頼んだぞ、雑用」

「納得いかねぇ!」




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