第二十一話 追跡
周りを見渡してみれば、そこは王城の城壁の外側。王都の街並みからも離れた、空気の淀んだ裏通りだった。
ゴミ捨て場に落ちたのだろうか、全身から生ゴミの腐臭が鼻をつんざく。
だがしかし、そもそも先程まで王城の塔の上にいたはずの雄一。ダイクリッドや双子とともに、このような場所にはいなかったのだ。
つまり、一瞬の内に移動したのである。気絶している間に運び出されたというわけでも無さそうだ。
「テレポート? 超能力って言えば何でも許されると思うなよ!」
とツッコミを入れる。この世界における『ギフト』と呼ばれる超能力。ミーシャやアミックにも言えることだが、規格外過ぎてついていけない。
そんなツッコミを受けたのは、いち早くゴミ捨て場から脱出したダイクリッド。そして、彼に抱えられた目を回す双子の片割れ。
「しつこい野郎だ! おいルトゥカ、もう一度力を……」
「無理だよダイクリッド。短い間に二回も使ったんだから、しばらく休ませないと」
大きな舌打ちを打つダイクリッド。テレポートのギフトを持つのは、双子の片割れであるルトゥカであるようだ。
ルティアスに聞いた、侵入経路の分からない盗賊団。そして、塔の階段を見張っていたはずの雄一の目をかいくぐって現れた三人組。
それらの答えは、ルトゥカのギフトに帰結する。
なるほど、そんな力があれば見張りなど意味をなさない。行きたい場所にピンポイントで出現できるのだから、盗賊にとってこれほど便利な能力はないだろう。
「まあそれはともかく……コラ、てめぇら! 神妙にお縄につけ!」
「はいそうですかと捕まる馬鹿が居るか! つーか何なんだお前は! 鬱陶しい!」
ダイクリッドは双子を両脇に抱えて逃げ出した。子供とは言え、人を二人も抱えて居るにも関わらず、その速度は雄一の全力疾走と変わりない。
もちろん、そんな三人組を見逃すつもりは無く、雄一は彼らの後を追う。
陽が登っているにも関わらず、建物の影で薄暗い。表通りの店の用具なのか、大量の荷物が置かれた裏路地は、暗さも相まって非常に走りづらかった。
そんな路地をダイクリッドは難もなく走り抜ける。ここが彼らのホームグラウンドであるから、と言う理由だけでは無さそうだ。
武術の稽古で鍛え抜いた雄一の足腰は、並大抵の人間に負けるほどぬるくない。
だが、そんな雄一の身体能力でも、ダイクリッドの足元にも及ばない。双子を抱え、走りにくい裏通りでなければどんどん距離を離されていただろう。
「こんの……舐めんな!」
走りにくい地面から、積まれた荷物の上に飛び乗った。
地面よりもよほど走りやすいその場所で、ダイクリッドに追いつくとすぐさま飛びかかった。
飛びかかる雄一の気配を察したのか、すんでのところで雄一のダイブを躱すダイクリッド。避けられてしまった雄一は、盛大に荷物の山へ頭から突っ込んだ。
積み木のようにバランスよく積まれた荷物の山。そんな場所に突っ込んだものだから、荷物は雪崩のように連鎖してその身を崩し、雄一の頭上へと襲いかかった。
「…………死んだか?」
盛大に突っ込んだ上に、荷物の山に埋もれたのだ。運が悪ければ大怪我。更に不運ならば死んでいることすらあり得る光景。
ダイクリッドは足を止め、恐る恐る崩れた荷物の山を覗き込む。
「誰が死ぬか!」
「のわぁ!?」
体に積み重なった荷物を払い除けて雄一が脱出した。額から血が流れ落ちて入るものの、どうやら致命的な怪我はないようだ。
こんな事で次のループに入るなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。額の血を拭い、ふらつく意識を頭を振って覚醒させた。
不意の復活に驚いたダイクリッドだったが、すぐさま頭を切り替えて上を見た。背の高い建物が連なり、屋上までは少なくとも十メートル近くはあるだろう。
「はぇっ!?」
間抜けな声を上げたのは雄一だった。
ダイクリッドは上を見上げたかと思えば、その壁を駆け上がり始めたのである。
足場など小さなものが幾つかあるだけ。おまけにダイクリッドは双子を両脇に抱えているため、両手すら使っていない。
圧倒的な脚力とバランス感覚。あっという間に三人組は頂上へとたどり着いた。
「嘘……だろ?」
人間業でないダイクリッドの動きに、あっけに取られる雄一。
このままでは逃げられてしまう。同じような動きは出来ないが、何とか後を追えないかと壁を見渡した。
目に止まったのは、まっすぐ屋上まで伸びる縦樋。雨水が雨樋を通って下に落とす仕組みのその部品は、しっかりと壁に打ち付けられているようだった。
「やれやれ、人族じゃここまでは来れないだろ」
「けどすごかったね、あのお兄ちゃん。ダイクリッドをあそこまで追い詰めるなんて」
「お荷物がいなけりゃ、ここまで苦労はしなかったがな」
建物の屋上で、ダイクリッドはリトゥカを降ろした。雄一に殴られた腹を撫でながら、一息つくように座り込む。
ルトゥカは未だ目を回しているようだ。目を覚ますには、今しばらく時間がかかるだろう。
「おおおおおおぉりゃぁ!!」
休憩するダイクリッドたちの元に、雄一の掛け声が聞こえた。
まさかと思いつつ屋上から裏通りを見下ろすと、そこには縦樋を支柱に壁を駆け上がる、雄一の姿があった。
無謀とも言えるその行動に、縦樋を壁に固定する部品が悲鳴を上げる。そして、三分の二ほどまで駆け上がったまでは良いものの、雄一の重さに耐えかねて縦樋が壁から離れ始める。
駆け上がる速度を上げて、天辺まで到着。だが残念ながら、その瞬間に雨樋も破損。後方に落下を始めた。
「だぁっ! 南無三!」
縦樋を足場に、屋上に向けてジャンプ。
雄一の手は屋上の縁を掴み、何とか落下は免れた。暴れる心臓が生きている実感を与えたものの、もう二度と同じ事はやらないと、心のなかで決心した。
見下ろす路地裏には悲惨な雨樋の姿。そうなっていたのは自分かもしれないと、全身の血の気が失せて青ざめる。
「はぁはぁ……る、ルパンか俺は」
「根性あるねぇ、お兄ちゃん」
必死に縁を掴んでいた腕が、急に現れたリトゥカに驚き離れそうになったが、何とか体勢を立て直し、体を屋上へと乗り上げて地面に伏せる。
「ビビらせんなよ!」
「ちっ、そのまま落ちとけば良かったのに」
そんな雄一を見ながらダイクリッドは舌を打った。忌々しそうに雄一を指差して、
「大体お前誰だ? 兵士でもないのに、なんで俺たちを追うんだよ。何も盗んじゃいねぇぞ」
「それは……」
なぜだか次の言葉が出てこなかった。
思えば、自分はダイクリッドをどうしたいのだろう? とりあえずお縄につけと言ってみたものの、捕まえてその後は?
絶滅教団の居場所についてを聞き出す。それは一番の重要事項だ。しかし、その情報を元にどう行動すればいいか、雄一はまだ考えていなかった。
もしダイクリッドを捕まえて、教団の居場所を知ったとしても、それが真実であるかどうかは分からない。
下手を打てば、偽情報を掴まされた挙句に、惨劇の日まで無駄に余生を過ごす羽目になりかねない。
最も確実に、絶滅教団の情報を得るにはどうすればいいか。雄一は頭をフル回転させて考える。
そして最終的に、彼の口から出た言葉は、彼自身からしても意外なもの。と言うよりも、突拍子もなく後先考え無い、非常に厄介な選択肢であった。
「俺を……」
「あ?」
「俺を……ブラザーフッドに入れてくれ」
『まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~』同時連載中です。
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