季節がめぐる中で 95
目が合った二人が頭を掻きながら扉を開く。だがそれだけではなかった。
「見つかっちゃったね!」
そう言いながらいつものように猫耳をつけたまま店に入ってくるシャム。そして彼女に手をとられて引きずり出される吉田。
「ストーキング技術が落ちたみてーだな。ちょっとCQB訓練でもやったほうがいいんじゃねーのか?」
子供服を着ているランが肩で風を切って入ってくるなり誠の隣に座った。あまりに自然なランの動きに呆然と見守るしかなかった要とカウラだが、ようやく誠の隣の席を奪われたことに気づいて、仕方がないというようにシャムと吉田が座った四人掛けのテーブルに腰を落ち着ける。
「ずいぶん友達がいるんだね。大歓迎だよ」
そう言いながら水の入ったコップを配るマスター。
「パフェ無いんだ」
メニューを見ながら落ち込んだように話すシャム。
「お嬢さんは甘いのが好きなんだね。まあうちはコーヒーだけの店だから」
淡々と話すマスター。彼はそのまま手元のカップにアイシャと誠のコーヒーを注いだ。
「ココアもねーんだな」
そう言いながら顔をしかめるラン。アイシャはにんまりと笑顔を浮かべながらランを見つめている。
「なんだよ!アタシの顔になんか付いてんのか?」
「ああ、鬼の教導官殿は味覚がお子様のようですねえ」
シャムの隣の席に追いやられた腹いせに要がつぶやいた。すぐさまランは殺気を帯びた視線を要に送る。
『なんだよ、これじゃあぜんぜん気分転換に……』
そう思いながら誠はアイシャを見つめた。そこにはコーヒーの満たされたカップを満足そうに眺めているアイシャがいた。まず、何も入れずにアイシャはカップの中のコーヒーの香りを嗅いだ。
「ちょっとこの前のより香りが濃いわね」
そう言うと一口コーヒーを口に含む。
「わかるかい、できるだけ遼州の豆で味が保てるか実験してみたんだけど」
「ええ、以前よりいい感じよ」
そう言うとアイシャは手元のミルクを少しだけカップに注いだ。誠もそれに習って少しだけミルクを注ぐ。カップの中ではミルクが白い螺旋を描いた。
「じゃあ俺もアイシャと同じブレンドで」
吉田がそう言いながら隣でじっとメニューとにらめっこしているシャムを見つめる。
「アタシ等もおなじでいいよな」
そんな要の言葉に頷くカウラ。
「じゃあ、アタシもそれで」
諦めたようにランがそう言った。少し、うつむき加減なのはこの前のビールと一緒でほとんどコーヒーを飲んだことが無いからなのだろうと誠はランを見つめていた。
「いいわよ。私も同じのにする!」
シャムは明らかに不機嫌そうにそう言った。




