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季節がめぐる中で 85

「ちょっと……」 

 誠はアイシャの視線に少しうろたえて、車を左右に揺さぶってしまう。そして立ち直った車の助手席にはいつもの表情のアイシャがいた。

「誠ちゃんこそ大丈夫なの?次の信号を右」 

「わかってますよ」 

 誠はようやくいつものアイシャに戻ったことがうれしくて快適に運転を続けた。

「それにしてもねえ」 

 突然考え込むようなしぐさを取った要。

「今度の節分の出し物が映画って……」 

 思いもかけないアイシャの言葉に誠は再びブレーキを軽く踏んでしまった。

「映画?もしかしてうちで作るんですか?」 

 誠は思い切り詰問するような調子でアイシャに話しかけていた。アイシャは両手を挙げて呆れたようなポーズを作る。

「聞いてなかったの?月曜日の朝礼……ああ、誠ちゃんはいなかったわね。とりあえず何を作るかの投票を吉田がやってるはずよ」 

「初耳ですよ!そんなの。どうしようかなあ特撮モノとかどうだろう……」 

 誠は車を狭い路地に走らせながら考えていた。話をしながらでも彼もいつもこの道をカウラの運転で走っているので自然とハンドルをそらで切ることが出来る。

「やっぱり誠ちゃんはそれ?そこで提案があるんだけど……」 

 いつものはかりごとをたくらむ目を見つけて誠は戸惑った。

「私はね、魔法少女なんてどうかなあって思うのよ」 

「はあ?」 

 誠はそう言うしかなかった。そして、アイシャの提案はすぐに読むことができた。

「誠ちゃんがヒロインの魔法しょ……」 

「お断りします!」 

 誠は寮の駐車場に車を乗り入れると大きな声で叫んだ。車止めにタイヤが当たる。誠はそのまま敷石の上に降り立つ。

「だって……普通に魔法少女なんてやってもうちらしくないと言うか……」 

「僕がやったらキモイだけです!」 

 そう叫ぶと誠はそのまま寮の玄関に向けて歩き出した。

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