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季節がめぐる中で 84

「あのー、僕が運転するんですか?」 

 そう言う誠に車のトップに頬杖をついたアイシャがいつもの意地悪そうな笑顔を向ける。

「一応、誠君は男の子でしょ?それに私は上官。行くわよ!この格好じゃあデートって訳にも行かないでしょ?」 

 お互いの保安隊の東和軍に似た制服を見比べながらすばやく助手席に乗り込むアイシャ。誠は仕方ないと言うように運転席に乗り込む。ガソリン系と電気系の自動車がほぼ拮抗する東和だが、リアナの車は電気系だった。乗り込んだ誠は素早くエンジンキーを差し込む。すぐさま静かにバックしてそのまま駐車場を出た。リアナからのはからいだろうか、警備の遮断機は開かれていた。誠はそのまま菱川重工豊川工場のだだっ広い道に車を走らせる。

「やっぱり乗用車はいいわね。カウラの車はサスペンションがガチガチに締まってるからどうにも乗り心地が悪くて……」 

 アイシャはそれだけ言うと、少し済ましたように長い紺色の髪をなびかせる。

「でも良いんですか?」 

 恐る恐るたずねる誠。その表情が滑稽に見えたのか、含み笑いを浮かべるアイシャ。

「なにが悪いのよ。ちゃんとお姉さんの許可をもらってるし、タコ中だってOK出したじゃないの」 

 そう言ったアイシャがどこかしらか細く感じたのは誠にも意外に思えた。要とカウラは実はかなり神経質で打たれ弱いのはすでにわかっていた。要は自分の機械の体と言うコンプレックスから虚勢を張っているだけ。カウラは自分の先天的に植えつけられた感情以外が持てないと悩んでいて、ちょっとしたことがきっかけでその悩みを溜め込んでしまう性質だった。

 一方、誠から見てアイシャは他の人造人間達と違って完全に一般社会に適応しているように見えた。漫画研究会を設立し、多くの裏方的なことをしてまわる彼女はすっかり便利屋のように思っている隊員も多いはずだった。それに時折冷たく見える面差しもあって物事に動じないと思われていた。

「信号変わったわよ」 

 アイシャを見つめていた誠はあわててアクセルを踏む。工場の正門からは巨大な金属の塊を乗せたトレーラが誠の車を避けるようにして工場内に入っていく。

「私も今度のドラフトの騒ぎはどうせ人気取りだってわかってるわよ」 

 そう明るく言うわりに、アイシャの言葉が震えているように感じた。

「一応、保安隊では少佐と『高雄』の副長と言う立場もあるし……それを捨てるのもね」 

 アイシャが不意に誠を見つめる。誠は産業道路で劇薬をつんだタンクローリーの後ろに車をつけながら彼女に目をやった。

「それに誠君もいるしね」 

 珍しくはかなげな笑みを浮かべるアイシャ。このような笑い方もできるんだと思いながら誠は前のタンクローリーの減速にしたがってブレーキを踏む。

「冗談だと思ってるでしょ?違う?」 

 アイシャの笑いがいつものどこか子供じみた様子に変わっていく。

「冗談かどうかなんてわかりませんよ。それにそう言うことを言うのは僕を担いで面白がる時の手じゃないですか!」 

 そう言って誠が向き直ったところには、真剣な顔をしたアイシャがいた。

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