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季節がめぐる中で 76

 じっと嵯峨を見つめる高倉。その前で嵯峨は伸びをして墓石を一瞥した。

「バルキスタンのエミール・カント将軍……そろそろ退場してもらいたいものだとは思うんですけどね」 

 嵯峨の言葉に高倉は頷く。だが嵯峨はそれを制して言葉を続けた。

「アメリカさんの受け売りじゃないが、根っこを絶たなきゃいつまでもベルルカン大陸が暗黒大陸なんて呼ばれる状況は変わりやしませんよ。それにただでさえ難民に混じって大量に流通する物騒な兵器や麻薬、非合法のレアメタルにしても、入り口が閉まらなきゃあちらこちらに流れ出て収拾がつかなくなる……いや、もう収拾なんてついてないですがね」 

 そこまで言ったところで嵯峨は大きくタバコの煙を吸い込んだ。高倉は嵯峨に反論するタイミングをうかがっていた。

「だけどね、これはあくまで遼州の問題ですよ。アメリカの兵隊を引き込む必要は無いんじゃないですか?」 

 嵯峨はゆっくりと味わうようにタバコをくわえる。

「確かに俺の手元にある資料だけで彼を拉致してアメリカの国内法で裁けば数百年の懲役が下るのは間違いないですし、うまくいけばいくつかの流通ルートの解明やベルルカンの失敗国家の暗部を日に当てて近藤資金の全容を解明するにもいいことかも知れないんですが……」 

「それなら……」 

 高倉は嵯峨の言葉をさえぎろうとしてその眼を見つめた。しかし、嵯峨の眼はいつものうつろなものではなく、鉛のような鈍い光を放っていた。そしてその瞳に縛られるようにして高倉は言葉を飲み込んだ。

「遼州の暗部は遼州で日の下に晒す。それが筋だと思うんですがね。そしてそれが胡州の国益にもかなうと思いますよ。開かずに済むパンドラの箱はできるだけ開かずに済ませたい。俺はそう思いますけどね。まあ事なかれ主義と呼ばれるのは十分に覚悟していますがね」 

 そう言うと嵯峨はそのまま墓を後にしようと振り返った。

「つまり遼州同盟司法局は米軍との共同作戦の妨害を……」 

 高倉の言葉に嵯峨は静かに振り返る。

「それを決定するのは俺じゃないですよ。ただひとつだけいえることはこの胡州軍の動きについて、司法局は強い危機感を持っているということだけですよ。俺にはそれ以上は……」 

 そう言うと嵯峨は手を振って墓の前に立ち尽くす高倉を置き去りにして歩き出した。高倉を気にしながら楓とかなめは嵯峨についていく。そして高倉の姿が見えなくなったところで楓は嵯峨のそばに寄り添った。

「父上、いいんですか?現状なら醍醐殿に話を通して国家憲兵隊の動きを封じることもできると思うのですが?」 

 楓も高倉がアメリカ軍の強襲部隊と折衝をしている噂を耳にしないわけではなかった。エミール・カントの拉致・暗殺作戦がすでに数度にわたり失敗に終わっていることは彼女も承知していた。低い声で耳元でつぶやく楓に嵯峨は一瞬だけ笑みを浮かべるとそのまま無言で歩き始めた。空の桶を職員に渡すとそのまま楓の車に急ぐ嵯峨。次第に空の赤色が夕闇の藍色に混じって紫色に輝いて世界を覆う。

 そんな親子を見てかなめは急いで車に乗り込む。嵯峨も静かに後部座席に乗り込んだ。そして発進しようとするかなめを制して助手席の楓の肩に手を乗せた。

「正直、国家憲兵隊は権限が大きくなりすぎた。本来国内の軍部の監視役の憲兵が海外の犯罪に口を挟むってのは筋違いなんだよ。だから高倉さんには悪いが大失態を犯してもらわないと困るんだ。当然相方のアメリカ軍にも煮え湯を飲んでもらう」 

 突然の言葉に楓は振り返って嵯峨の顔を覗き込んだ。そのまま後部座席に体を投げた嵯峨はのんびりと目を閉じて黙り込んでしまった。

「車、出しますね」 

 そう言ったところで楓の携帯端末に着信が入った。

「あ、父上。屋敷に赤松中将がお見えになったそうです」 

 短いメールを見て楓がそう父に知らせるが、嵯峨はすでに眠りの世界に旅立っていた。

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