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季節がめぐる中で 65

 嵯峨が去った後、桐野はしばらく放心したように何もない空間を見つめていた。そこに革ジャンを着た笑顔を浮かべた男が駆け寄ってくる。良く見ればその顔は別に笑っているわけではなく、顔のつくりが笑っているようなものなのだと気付くのにさほど時間を必要としない。

「ありゃあ化け物ですね。常に干渉空間を展開可能なだけ法力のためを作る。俺にはあんな芸当はできませんよ」 

 そう言いながら嵯峨の座っていた場所に腰を下ろした。

「北川、お前のことも言われたぜ」 

 北川と呼ばれた革ジャンの男は懐に手を入れて買ってきた缶コーヒーを桐野に渡す。

「ああ……、確かにあんな化け物の秘蔵っ子を襲ったのは我ながら無謀だなあとは思いましたよ」 

 北川はまるで反省したというような調子ではなく、あっさりとそう言って手にした缶コーヒーのプルタブを開けた。

「それにしてもいいんですかね。うちの大将はいつかはあの男の首を取るつもりなんでしょ?このままでは確実に保安隊の拡張で手が出しにくくなりますよ」 

 そう言ってコーヒーをすすりながら桐野の気色を窺う。

「それは俺らの判断するべきことじゃない」 

 北川の顔を見るつもりも無い、そんな風にも見える桐野に北川は声もかけない。

「俺はただコイツを振るえればそれでいいんだ」 

 桐野はそう言うと手にしている長い筒を軽く蹴った。重い音が響いて、驚いた北川が桐野の顔を覗き込む。

「そうですね。俺らはただ力を振るえればそれでいいわけですから。別に思想や理想があるわけでもない。ただ、力もないくせにのさばっている馬鹿を潰してまわる。それが俺らのやり方ですから」 

 手にした缶を傾けてコーヒーを口に流し込む北川。同じように手にした缶を右手と左手でもてあそぶ桐野。

「しかし、不謹慎だとは思うんですがね。あの化け物が……嵯峨と言う男が正体を現したら視界に立ってる人間がことごとく挽肉になると思うとわくわくしますねえ」 

 最後の一口のコーヒーを飲み終えた北川のその言葉に桐野は鋭い視線を寄越した。

「ああ、そんな怖い目で見ないでくださいよ。わかってますって。もしそれが望みなら孫六を抜いているって言うんでしょ?それにあくまで今回の接触はこちらが最大限の関心を保安隊に持っているということを知らせるだけなんですから、いらない仕事まで背負い込むつもりはないですよ」 

 北川がそこまで言ったところで桐野は立ち上がった。

「帰るぞ」 

 そう言うと肩に関の孫六を入れた筒を担いで立ち上がる桐野。革ジャンのポケットに手を突っ込んだままの北川はそれに続いてロビーを横断していく。その様子を喫煙所で眺めていた嵯峨。

「ずいぶんとまあ物騒な世の中になったもんだねえ」 

 そう言いながらタバコを吸い終えると、帯に手を突っ込んで財布を取り出す。目の前の自動販売機に小銭を入れて彼らの飲んでいたのと同じコーヒーを選ぶ。何度か軽く振ったあと、プルタブを開いた。そして鼻を開いた穴に近づけるが、眉をひそめた。

「なんじゃこりゃ?」 

 そう言いながらも買ってしまった以上もったいないというように渋々口の中にコーヒーを流し込んだ。

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