季節がめぐる中で 60
すぐにつかつかと歩いて扉を開けば実働部隊の詰め所。そこには誰もいなかった。確かにまだ九時前、いつものことと誠はそのまま椅子に座った。ガラス張りの廊下側を眺めていると、吉田が大急ぎで走っていく。そのまま誠は昨日の日報が机に置かれているのを見た。開いてみると珍しく嵯峨が目を通したようで、いくつかの指摘事項が赤いペンで記されていた。
「明石中佐も呼ばれているみたいだな」
いつの間にか部屋にはカウラが入ってきていた。そのまま彼女は誠の斜め右隣の自分の席に座る。
「休暇中の連絡事項なら昨日やればよかったんじゃないですか?」
そう言って明石と吉田の席を見やる誠。だが、カウラは誠より保安隊での生活に慣れていた。
「今日できることは明日やる。まあ、嵯峨隊長はそう言うところがあるからな」
そう言ってカウラは目の前の書類入れの中を点検し始めた。
「どわ!」
突然女の子の叫び声がしたかと思うと、シャムの顔がドアに押し付けられていた。
「いい加減大人になれよ、オメエは」
そう言いながらドアを開く要。突き倒されたシャムはまだ熊の着ぐるみを着ている。
「酷いよ!要ちゃん!」
そう言って要を見上げるシャムだが、カリカリしている要は残忍な笑みを浮かべて指を鳴らしている。さすがにその凄みを利かせた姿に冷や汗を流しながら後ずさるシャム。
「じゃあ、脱皮しようかな。誠ちゃん!背中のジッパー下ろして!」
そう言って誠に背を向けて近づいてくる。仕方なく立ち上がった誠だが、カウラの視線の痛みが涙腺を刺激する。ジッパーに手をかけたとき、誠はあることに気がついた。
「あの……、ナンバルゲニア中尉?もしかして下着しか着てないとかいう落ちじゃないですよね」
この言葉にカウラだけでなく要までもが視線を誠に向けてくる。その生暖かい雰囲気に誠は脂汗が額ににじむのを感じていた。
「早くしないと要ちゃんに食べられちゃうよ!」
「アタシが何で出てくるんだ?」
そう言って拳を固める要を見て進退窮まったと感じた誠は、一気にシャムの着ぐるみのジッパーを降ろす。
「脱皮!」
そう言って現れたのは東和陸軍と同型の保安隊の勤務服を着たシャムだった。
「本当に驚かせないでくださいよ」
「なんだ、オメエもロリコンだったのか?まあどこかの胸無しと仲良しだからロリコン入っていても不思議はねえがな」
そう言ってカウラを見下ろす要。カウラはそんな要を完全に無視して書類を読み続けていた。
「ワレ等、少しはおとなしくできんのか?」
ドラ声が響いて明石が入ってくる。珍しくサングラスを外しているので、いつものはげ頭がさらに輝いて見える。その後ろに続く吉田は着ぐるみをたたんでいるシャムのところに行くと大きくため息をついた。




