季節がめぐる中で 59
「なにしてるんですか?隊長」
カウラの声で振り返った嵯峨は柿を食べていた。
「いいだろ、二日酔いにはこれが一番なんだぜ。まあ俺は昨日はそれほど飲めなかったけど……」
そう言って階段の一段目を眺める嵯峨。そこで下を向いて座り込んでいたのはランだった。
「あのー、クバルカ中佐。大丈夫ですか?」
そう言う誠を疲れ果ててクマのできた目で見上げるラン。
「気持ちわりー。なんだってあんなに……」
そう言って口を押さえるラン。
「こりゃ駄目だな。おい、ラン。俺の背中に乗れよ。話があるからな」
そう言って背中を見せる嵯峨。仕方が無いと言うように大きな嵯峨の背中に背負われた姿はまるで親子のようにも見えた。
「おい、カウラ。ちょっと吉田の馬鹿連れて来い。どうせシャムと遊んでるんだろ」
「ああ、そう言えば駐車場にシャムとグレゴリウス13世がいましたから」
そう言って敬礼をすると駆け出すカウラ。
「そう言えば昨日の報告書。出し直しだと」
嵯峨は無情に誠にそう言うとそのまま階段を上り始める。
「そんな……」
「書式が違うじゃねーか。……アタシは……、はあ。東和軍の書式じゃなくてここの書式で書けって言ったはずだぞ」
虫の息でもきっちり仕事の話に乗ってくるラン。誠はランを軽々と背負って歩く嵯峨について階段を登った。管理部の部屋でいつものように殺意を含んだ視線を投げかけてくる菰田を無視してそのまま嵯峨と別れてとりあえずロッカールームへ向かう。
ドアを開けるとキムが着替えを終えたところだった。
「お前、何やったんだ?昨日は」
そう言うとキムは誠の頭のこぶに手を触れる。
「痛いじゃないですか!」
「ああ、すまんな。それにしてもあのちびっ子。本当に明石の旦那の跡を継ぐのか?」
ドアに手をかけたまま誠にそう尋ねるキム。
「そんなの僕が知るわけ無いじゃないですか」
「いやあ、お前はクラウゼ中佐と一つ屋根の下に暮らしてるだろ?そう言う話も出るかと思って」
そう言ってニヤリと笑う。だが、誠は彼の顔から目を逸らして頭のこぶに物が当たらないよう丁寧にアンダーシャツを脱いだ。
「アイシャさんはそう言うところはしっかりしていますから。守秘義務に引っかかるようなことは言いませんよ」
キムはつっけんどんに答える誠に意味ありげな笑みを一度浮かべるとそのまま出て行った。
「ったく。アイシャさんのことを僕がそんなに知ってるわけ無いじゃないか」
そう独り言を言いながらワイシャツのボタンをかける。誰も掃除をしようと言い出す人間のいない男子更衣室。窓にはプラモデルやモデルガンが並び、ロッカーの上には埃を被った用途不明のヘルメットが四つほど並んでいる。
「年末には掃除とかするのかなあ」
そう思いながら着替え終わった誠はドアを開いた。




