季節がめぐる中で 58
「お待たせしました」
そう言って駆け寄る誠を見上げたのは寮の入り口の隅の喫煙所でタバコをくゆらせている要だった。
「あの、アイシャさんとカウラさんは?」
「気になるの?」
そう言って突然誠の後ろから声をかけるアイシャ。振り返るといつもと変わらぬ濃い紫色のスーツを着込んだアイシャと皮ジャンを着ているカウラがいた。
「それじゃあ行くぞ」
そう言って寮を出る。空は青く晴れ渡る晩秋の東都。都心と比べて豊川の空は澄み渡っていた。
「こう言う空を見ると柿が食べたくなるな」
そう言いながら駐車場に止めてあるカウラのスポーツカーに乗り込む要。
「確かに遼州は石油が安いけどもう少し環境に配慮したエネルギー政策を取ってもらいたいわね」
助手席に座ると手鏡で自分の前髪を見るアイシャ。動き出したカウラの車はいつものように住宅街を抜け、産業道路を走る。
昨日の醜態を思い出して沈黙を守る誠。三人の女性の上官は察しているのか珍しく静かにしている。順調に走る車は渋滞につかまることも無く菱川重工業豊川工場の通用門をくぐる。
「生協でも寄っていくか?」
カウラが気を利かせてアイシャにそう言うが、アイシャは微笑んで首を振る。保安隊の通用門。マリアの部下の警備兵達はあくびをしながらゲートを開けた。
「おい、叔父貴、来てるじゃねえか。なにかあったのかね」
駐車場に止められた軽乗用車。スバル360。嵯峨の愛車である。
「本当ね、忘れ物でもあったのかしら」
そう言いながら一発で後進停車を決めたカウラよりも先に助手席から降りるアイシャ。
「それにしても……」
誠と要の視線は駐車場の奥に釘付けになった。次々と出勤してくる隊員達も同じ心持なのだろう、次第に人垣ができ始める。
熊がいる。昨日のグレゴリウス13世である。こちらは理解できる。しかし、その隣に同じ色の小さな塊に全員の意識が集中した。
熊の着ぐるみを着たシャムが柿を頬張っている。目の前にはかご一杯の柿。シャムに付き合うようにしてグレゴリウス13世も柿を食べる。
「見なかったことにするぞ」
熊コンビに意識を持っていかれた二人の襟首を引っ張るカウラ。逆にアイシャはそのままシャム達めがけて歩いていく。
グラウンドには一人ランニングをする大男、明石清海中佐。手で軽く挨拶をすると二人はそのままハンガーに足を踏み入れた。
「おはようございます!」
声をかけてきたのは西だった。隣ではレベッカがメガネを光らせながら、シャムの05式の上腕部の関節をばらしていた。
「早いな、いつも」
カウラはそう言うとそのまま奥の階段に向かおうとするが、そこに着流し姿の嵯峨を見つけて敬礼した。




