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季節がめぐる中で 5

 コックピットに入った誠は慣れた調子でエンジンの起動準備にかかる。この05式を本格的に動かすのは近藤事件以来である。だが、搭載された05式のシミュレーションで機能は散々使い慣れていた。シミュレータが配備されていない保安隊ではこの機体に保安隊の頭脳とも言われる吉田俊平少佐の組んだシミュレーションプログラムを走らせての訓練がそのボリュームの大半を占める。主に近接戦闘、彼の05式乙型らしい法術強化型サーベルでの模擬戦闘。とりあえず接近できれば吉田達第一小隊の猛者とも渡り合える自信がついてきた。

「神前さん!各部のチェックはいいですか?」 

 広がる全周囲モニタの中にウィンドウが開き、西の姿が映った。

「ああ、異常なし。そのままデッキアップを頼む」 

 誠の言葉に西が頷くと誠の体が緩やかに起きはじめた。周囲が明るくなっていく、誠はハンガーの外に見える廃墟のような市街戦戦闘訓練場を眺めていた。そしてそこに一台のトレーラが置いてあるのにも気付く。

「西!あそこに見えるのが今日のテスト内容か?」 

 神前の言葉に、西はそのまま一度05式用トレーラーから降りてハンガーの外の長い砲身をさらしている兵器を眺めた。

「ああ、あれが神前さんのメインウェポンになるかもしれない『展開干渉空間内制圧兵器』ですよ」 

 淡々と答える西の言葉に誠はいまひとつついていけなかった。

「展開・・・干渉・・・?」 

「ああ、詳しいことはシュペルター中尉かシン大尉に聞いてくださいよ。僕だって理屈はよくわからないんですから。まあ来る途中でシュペルター中尉が言うには『干渉空間生成の特性を利用してその精神波動への影響を利用することにより敵をノックアウトする非破壊兵器だ』ってことなんですけど」 

 誠は正直さらにわからなくなった。

 自分が『法術』と呼ばれる空間干渉能力者であるということは近藤事件で嫌と言うほどわかった。空間に存在する意識を持った生命体そのもののエネルギー値の差異を利用して展開される切削空間、その干渉空間を形成することで様々な力を発動することができるとヨハンに何度も説明されているのだがいまいちピンとこない。

 デッキアップした自分の機体で待機する間、誠はただ目の前の明らかに長すぎる砲身を持った大砲をどう運用するのかを考えようとしていた。だが、いつものように何を考えているのか良く分からない隊長の嵯峨惟基のにやけた顔が思い浮かぶと無駄だと諦めて深く考えないようにした。

「神前!起動は終わったか?」 

 別のウィンドウが開いてヨハンのふくよかな顔が目に飛び込んでくる。昨日の試合で見せた申し訳ないという感情ばかりが先行していた表情はそこには微塵も無かった。これは仕事だと割り切った彼らしいヨハンの視線が誠に向かってくる。

「今は終わって待機しているところです」 

 誠の言葉にヨハンは満足そうに頷く。誠はただ次の指示が来ることを待っていた。

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