季節がめぐる中で 46
誠は大きくため息をつくと自分のロッカーを開き、指紋認証の保管庫を開く。そのままガンベルトを外して中に納めて扉を閉める。自動で鍵がかかる音がする。作業着のボタンを外す誠の後ろでドアが開く音がした。
「よう、上がりか?良い身分だねえ」
そう言うのは菰田主計曹長だった。誠は正直この先輩が苦手である。
彼の唱える『ヒンヌー教』は保安隊の一大勢力ともいえる非公然組織として保安隊や他の軍や警察にすら知られていた。教義は『ほのかな胸のふくらみが萌えるだろ?』と言う非常にマニアックで感覚的な言葉である。スレンダー美女を崇拝し、彼らの定義する『萌え』を備えた女性をあがめ奉る宗教である。
その生きた神がカウラだった。
「そう言えば神前曹長は今日はあまさき屋に呼ばれているんだよねえ」
耳まで伸びた油ぎった髪を掻きあげる菰田の言葉に誠は仕方なく頷く。
「うらやましいねえ、俺もパイロットになれば良かったよ」
そう言って上目遣いに見つめてくる態度。確かに要でなくてもそのまま襟首を締め上げたくなる、そんなことを考えながらズボンをはきかえる。
「まあ、今日はあのクバルカ中佐が主賓だからね。せいぜい失礼を……?」
そこまで言ったところで菰田の手が止まる。菰田の視線はドアに向かっている。誠の目に映る菰田が、跳ね上がるように背筋を伸ばすとブリーフ姿で敬礼をした。慌てて誠もドアに視線を移す。
「いいんだぜ、気にしなくてもよー」
そこに立っていたのはランだった。
シャムよりもさらに小柄な、小学校に入ったばかりと言うような体格のランが腕組みをして誠を見つめている。とりあえずズボンのベルトを締めると敬礼をしようとした。
「だから、いいって言ってんだろ?それよか神前……」
そう言ってランはいかにも自然に男子更衣室に入ってくる。
「アイシャの分、カウラの車の席空いてんだろ?乗せてくれるように頼んでくれよ」
「は?」
いかにもばつが悪いと言うように頭をかきながらつぶやくラン。
「別に良いですけど、直接頼んだらどうですか?」
そう言った誠に冷めた視線を浴びせるラン。
「そいつは正論だがな、アタシがアイツ等にものを頼むってのは借りを作るみてえで気持ち悪りーんだ。まあ、オメーになら頼みやすいからな」
そう言うランを後目にジャケットを羽織ってバックを掴んでロッカーを閉める誠。
「なるほど、頼みやすいのか。ふうん」
突然の声に振り向いたラン。そこにはランをタレ目で見つめている要とブリーフ一丁の菰田に思わず目を押さえるカウラの姿があった。




