季節がめぐる中で 29
「確かに訓練もまともに受けていない適正者が法術を使用すれば、結果として自滅するのは間違いないですわね」
淡々と茜はそう答えた。
「じゃあどうするんだ?シンの旦那みたいなパイロキネシストがあっちこっちで連続放火事件を起こそうとして火達磨になって転げ回るのを黙って見てろってことか?」
要の表情が険しくなる。
「今のうちはそれでも仕方ないですわ」
あっさりと茜はそう答えた。その冷たく誠達を見つめる視線に誠は少し恐怖を感じた。
「今、そんな人々を救える力は私達には有りません。それは私も認めます。ですが今の同盟にはそれを主張しても押し通すだけの権限が無いのはどうしようもありませんわ。今は時を待つ。要お姉さまも自重して下さいね」
そう言う茜にどこか寂しげな表情が見て取れて、誠は彼女を正面から非難することができなかった。
「わあってるよ!んなことは!」
そう言って要は管理部の壁に拳をぶつけた。中では心配そうな主計下士官、菰田曹長の顔が見える。
「まあこうして話していても何も起きないわよ。私はお昼ご飯食べたいから行くわね」
そう言って要と茜の間を縫って隊舎に消えていくアイシャ。ただ呆然と四人は彼女を見送った。
「西園寺。とりあえず神前を迎えにいったことの報告しといた方がいいな」
そう言うとカウラは、まだ茜に言いたいことがあるとでも言うように口を尖らせる要の腕を引いた。
「その法術特捜の会議はいつなんですか!」
苦し紛れに叫ぶ要を誠はカウラと一緒に引きずって行く。茜はそれを見ながらハンガーを降りて行った。
「おい!カウラ!」
「一番つらいのは茜だ。人員も権限も無い。それでもお前みたいに期待をかける人間がいる。そんな状況でああ言う態度以外に何かできることがあるのか?」
カウラのそんな言葉に要はうつむいた。そうして向かった保安隊隊長室のドアは少し開いていた。香ばしい香が三人の鼻を刺激する。
「何やってんだ?叔父貴は」
そう言うと要はノックもせずに隊長室に入った。
「ああ、戻ってきたの?まあお肉は一杯あるから」
そう言って七輪に牛タンを乗せていたのは鈴木リアナ中佐。保安隊運用艦『高雄』の艦長である。隣で黙って肉を頬張っている女性は許明華大佐。技術部を統括する保安隊影の最高実力者と言われる女傑。
「ああ、丁度いいところに来やがったな。食うだろ?お前等も」
そう言って後ろから取り皿と箸を用意する男が保安隊隊長嵯峨惟基特務大佐だった。




