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季節がめぐる中で 30

「じゃあお言葉に甘えて」 

 カウラはそう言うと要と誠をつれて隊長室に入る。嵯峨の双子の娘の姉、茜が主席捜査官としてこの庁舎に出入りするようになって、一番変わったのがこの隊長室だった。

 少なくとも分厚く積もった埃は無くなった。牛タンを頬張る明華の足元に鉄粉が散らばっているのは、ほとんど趣味かと思える嵯峨の銃器のカスタムの為に削られた部品のかけら。それも夕方には茜に掃き清められる。

 猛将、知将と評される嵯峨だが、整理整頓と言う文字はその多くの知識を紐解いても見当たらない言葉だった。茜の配属以前は部屋の床はまず嵯峨が付き合いで頼まれた骨董商に出す書画や茶道具の極書を記す為に流した墨汁で彩られ、そこに拳銃のスライドを削った鉄粉がまぶされ、その上に厚い埃が層になっていた。

 特にカウラは几帳面で潔癖症なところがあるので、この部屋に入るのを躊躇していた。今ではとりあえず衛生上の心配はしないで済む程度の部屋になっていた。

「ちょっとリアナ。レモン取って」 

 明華はそう言うと七輪の上で焼きあがった牛タンを皿に移す。

「ほら、皿ならここにあるぜ」 

 そう言うと嵯峨は借りてきた猫のように呆然と突っ立っている誠達の手に皿を握らせる。接客用テーブルの上に並ぶ牛タン。おそらく二頭分くらいはあるだろうか。それを贅沢に炭火で焼いている嵯峨。

「叔父貴、酒はどうしたんだよ」 

 嵯峨が焼いていた肉を横から取り上げた要が肉にレモン汁をたらしながら尋ねる。嵯峨は察しろとでも言うように横を見た。そこには要をにらみつけている明華がいる。要は肩をすぼめてそのまま肉を口に入れた。

「そう言えば今日も明石中佐は同盟司法局からの呼び出しですか?」 

 カウラは大皿から比較的大きな肉を取って七輪の上に乗せる。

「まあな。法術関連の法整備とその施行について現場の意見を入れないわけにもいかないだろ?まあ俺が顔を出せれば良いんだが、俺はお偉いさんには信用無いからな」 

 そう言いながら嵯峨は焼きあがった肉にたっぷりとレモン汁を振りかけた。

「それより叔父貴。明石が本庁勤めになって、第一小隊にちっこいのが配属になるって噂、本当なのか?」 

 要のその言葉に、口に肉を放り込みながら見つめる嵯峨。

「なんだ、ランに会ってきたのか?」 

 嵯峨は口の中で肉の香を確かめるようにかみ締めながら答える。

「ああ、ランの件は本当よ。アンタ等を一人前にしようと思ったら教導のプロに頼むしかないでしょ?」 

 静かに肉をかみ締めていた明華があっさりとした口調でそう答えた。

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