季節がめぐる中で 170
そのまま立ち上がったのは誠と要だった。要はそのまま誠とアイシャの肩を抱えて部屋を出ようとする。
「西園寺!仕事しろ!」
カウラの怒鳴り声を聞いて要はめんどくさそうに振り向いた。
「ああ、遠隔でやっとくよ!それより今度のあのコミックマーケットって奴だ」
「ふうん貴方からそう言うこと切り出すなんて珍しいわね」
部屋の中に取り残される楓を見て状況を察したアイシャは彼女もつれてそのまま外に出る。
「一応、誠ちゃんの端末にネームは送っておいたけど確認できる?」
アイシャはそのまま部屋から離れようとする要の勢いに押されながらも誠の腕に巻かれた携帯端末を指差した。
「ああ、後で確認します。ところで、西園寺さん?」
「もう少し歩こうじゃねえか、な?」
明らかに引きつった表情でそう言う要にアイシャは何かをたくらんでいるような視線を向ける。
「作業中、夜食とかあるといいわよね。できればピザとか」
「わかった神前とオメエとシャムとサラとパーラの分だろ?ちゃんと用意するよ」
要は即答した。その様子にさらに押せると踏んだアイシャは言葉を続けた。
「甘いものは頭の回転を早くするのよね……まあ飴とか饅頭は持ち寄るから良いんだけど……」
「なんだ?駅前のお姉さんご用達のケーキ屋のか?わかった人数分用意する」
そのまま要はコンピュータルームまで二人を押していくと、セキュリティーを解除して中へと誠達を連れ込む。
「じゃあ手を打ちましょう。ちょうど茜さんからお仕事貰ってきているしね」
そう言って端末の前に腰掛けるアイシャを要は救世主を見るような目で見つめている。画面には次々と傷害事件や器物破損事件の名前が並んだファイルが表示された。
「法術特捜の下請けか……わかった!」
そう言うと要は隣の端末に腰掛けて首のスロットにコードを刺すと直接脳をデータとリンクさせた。硬直したままの要。外部センサーの機能を低下させて事件のデータを次々と読み込んでいる様子がアイシャの前の画面でもわかった。
「要ちゃんは単純でいいわね」
そう言うとアイシャは立ち上がって彼女の後ろに立っていた誠に向き直る。
「誠君。もうだいぶ部隊に慣れたわよね」
紺色の流れるような長い髪をひらめかせるアイシャ。誠はそのいつもと違うアイシャの姿に惹きつけられていった。
「ええ、皆さんのおかげで」
細く切れ込むようなアイシャの視線が誠の目を捕らえて離そうとしない。誠はただ心臓の鼓動が激しくなるのを感じながら固まったように立ち尽くしていた。




