季節がめぐる中で 166
保安隊の指揮官待遇の面々が同じように冷たい目線で嵯峨を見つめながら部屋に並ぶ。一人入ってくるごとに嵯峨の表情が暗く陰鬱なものに変わっていった。
全員の視線が冷たく刺さるのを感じているらしい嵯峨が突然立ち上がった。
「まず言っておくことがある!」
突然そう言った嵯峨に一同は何事かと驚いたような顔をした。誠も指揮官達と嵯峨の顔を見比べながら何が起きるのかと目を凝らした。
「ごめん!俺の実力不足だ。楓の配属は防げなかった」
「謝られても……私のところはレベッカに謝ってもらえばいいだけだから」
明華はそう言うと再び彼女らしい鋭い射るような視線で嵯峨を見つめる。誠は技官レベッカ・シンプソン中尉の豊かな胸を思い出し思わず頷いた。
「私のところより……」
マリアはそう言うとリアナに目をやった。女性相手にのみセクハラを働くだろう楓の被害が集中しそうなのは女性隊員だけで構成されたリアナの運行部だった。
「大丈夫とは思うけど……ちょっと注意しておいたほうがいいかしら」
「それに越したことはないんじゃないですか?」
「ワシもなあ……まあアホさ加減じゃもっと問題ある奴がおるけのう」
リアナは口に人差し指を当てて思いをめぐらせ、吉田は他人事のように構えていて、明石は黙って要の顔を覗く。要は向きになってそんな明石をにらみ返した。
「お父様。楓さんの人事は康子伯母様のご意向が働いたのではないですか?」
思いついたように口を開く茜に図星を指されたというように頭を掻く嵯峨。そしてその視線が要に向けられるとこの部屋にいる人々の視線は彼女に集中した。
「おい!お袋のせいにするなよ!大体ああいうふうに育ったのは叔父貴の教育のせいだろ?」
「そんなことは無いぞ!俺は教育してないからな。ただどこかの誰かさんが姉さん気取りで西園寺家の庭の松に裸にした楓を逆さに吊るして棒でひっぱたいて遊んでいたからああいう性格になったという……まあそんなひどいことする餓鬼がいるわけ無いよな?」
嵯峨は感情を殺した表情で要を見つめる。誠はなんとなくその光景が思い浮かんだ。要は三歳で祖父を狙ったテロに巻き込まれて体の大半を失ったと言うことは誠も知っていた。今と変わらぬ姿で小さな楓を折檻する要の姿。思わず興奮しそうになる自分をなだめながら周りの人々の気配に顔を赤く染めていた。
「アタシは躾でやっただけだぞ!それにほとんどがアタシにキスしようとしたり、胸を揉んだりしたから……茜!何とか言え!」
「認めましたね、要さん」
茜が要の肩を叩く。そして要も自分の言ったことに気づいて口を押さえたが後の祭りだった。
「まあ、鎗田を吊るす手つきがずいぶん慣れてたのはそのせいなのかしらね」
生ぬるい視線を要に向ける明華。隣でうなづくマリア。
「姐御!アタシは……」
「サディストだな」
「おい、神前。こう言うのをドSちゅうんか?」
腕組みをしてうなづく吉田。誠はあいまいな笑いを浮かべながら明石の質問に答えられずにいる。
「アイシャが聞いたら驚くだろうな」
「ああ、アイシャちゃんはもう知ってるみたいよ。私にもいろいろ要ちゃんが楓ちゃんにしたこと話してくれたもの」
カウラとリアナのやり取りを聞いて、要は完全に負けを認めたようにうつむいた。




