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季節がめぐる中で 160

 中では難しい顔をして机に座っている嵯峨がいた。その手には棒状のものを持っている。いつものように銃器の調整でもしていると思って咳払いをする誠。

「おう、神前か。ご苦労だったね」 

 それだけ言うと嵯峨は視線を隣の小柄な少年に向けた。アンは自分が見つめられていることに気づくとすばやく敬礼をした。

「自分は、遼南……」 

「別にいいよ、形式の挨拶なんざ」 

 そう言うと嵯峨は今度は手元から細長い棒を取り出してじっと眺め始めた。

「隊長、用事があるんじゃないですか?」 

「ああ、神前。そう言えばそうなんだけどさ」 

 ようやく用事を思い出したと言うように手にした棒を机に置くと立ち上がり、二人の前に立つ。

「実は人を迎えに行って貰いたいんだが……。ああ、アンは明石のところに行っていいよ。説明は全部あいつがするから」 

「はい!」 

 緊張した敬礼をして部屋を出て行くアン。目の前の嵯峨の顔がにやけている。先ほど吉田が向けてきた視線と同じものを感じて誠は咳払いをした。

「誰を迎えに行くんですか?」 

「別にそんなにつんけんするなよ。豊川の駅の南口の噴水の前で胡州海軍の少佐と大尉の制服を着た新入りが待ってるからそいつを拾って来いや」 

「なんで名前とか言わないんですか?それに少佐と大尉って……第三小隊の」 

「そうだよ、嵯峨楓少佐と渡辺かなめ大尉。まさか要坊に拾って来いとは言えねえだろ?」 

 いかにもうれしそうに言う嵯峨に誠は思わずため息をついた。

 嵯峨の双子の娘の妹、嵯峨楓少佐。胡州海軍兵学校卒業後すぐに海軍大学に進んだエリートと言うことは一応聞いてはいた。だが、彼女の話が出ると十中八九要が暴れだし収拾がつかなくなる。従妹である彼女になぜ要が拒絶反応を示すのかはあまり詮索しないほうがいい、カウラのその助言に従って誠はそれ以上の質問は誰にもしなかった。

「わかりましたけど……でも本当に僕で良いんですか?」 

 頭を掻きながら誠が再び執務室に腰掛けた嵯峨にたずねる。

「別に誰だって良いんだけどさ。要坊以外なら」 

 そう言って再び机の上の坊を見つめる嵯峨。誠は埒があかないと気づいてそのまま部屋を出る。そこにはなぜか彼が出てくるのを待っていたアンがいた。

「なんだ?明石中佐が待ってるだろ?」 

 そう言う誠を潤んだ瞳で見上げるアン。

「あの、僕……」 

「あ、俺は急いでるんでこれで!」 

 そう言うと誠はそのまま早足で正面玄関に続く廊下を歩いた。明らかに危険を感じるセンサーが反応している。そのまま更衣室の角を曲がり、医務室の前の階段を下り、運行部の部屋の前の正面玄関を抜け出る。

 安心したように振り向いた誠。だが、突然大きな質量の物体に跳ね飛ばされて正面玄関前に植えられた桜の樹に顔面からぶちあたることになった。

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