季節がめぐる中で 16
「本当にオメー等あの嵯峨の旦那の部下か?あのおっさん仕込の流儀なら『いい子ねえ!飴玉いる?』とか冗談飛ばすくらいの余裕がねーと」
「じゃあ……、いい子ねえ……」
そう言って手を伸ばしたアイシャの後頭部にランの延髄斬りが炸裂する。
「誰がいい子じゃい!」
さすがに小学校低学年位の体格のランでは長身のアイシャを倒すことができなくて、アイシャは後頭部をさすりながら苦笑いを浮かべていた。
「あの、冗談は良いとしてよ。なんでここに居るんだ?」
スカートのすそを整えているおかっぱ頭のランを見下ろしながら要がつぶやいた。
「そりゃあこっちの話だ。テメー等も非番のはずだろ?ここは東和軍の敷地だ。しかも秘密兵器の実験をしてるところにのこのこ入ってきやがって。自覚はねーのか?」
そう言って元々目つきが悪いランが要をにらみつけた。しかし要にはまるで効果が無いようで、口笛を吹きながらランの言葉を聞き流している。
「お言葉ですが、法術兵器の使用については術者の身体や精神に過度の負担がかかると聞いていますから、彼の上官としてそのケアに当たるための方策を……」
カウラがそこまで言うと、ランが彼女をにらみつけた。思わずその迫力に気おされて黙り込むカウラ。そしてその視線は隣で引きつった笑みを浮かべるアイシャと要を移ろいにんまりとした笑みへと変わる。
「へー、神前曹長。モテモテなんだなオメーは」
そう言って誠の肩を叩こうとするが、途中で背伸びをして手を伸ばす姿があまりにも間抜けになると気付いたのか、ランがは誠にボディーブローを放った。
「うおっ!!」
みぞおちに決まった一撃でそのまま倒れこむ誠。
「中佐!」
さすがのカウラもたまりかねて二人の間に割り込んだ。
「鍛え方が足りねーみたいだな。安心しな。これからちょくちょくテメエ等のところに顔を出すことになるから」
そう言うと誠に寄り添うアイシャとカウラを残してランは管制塔へと去っていく。
「相変わらず傍若無人な奴だねえ。神前、大丈夫か?」
誠は要の言葉を聞くとゆっくりと立ち上がった。
「ええ、まあ」
ランの腹への一撃で噴出した脂汗を拭いながら誠は立ち上がった。
「じゃあとっとと着替えて来いよ」
「あのーもしかして迎えに来てくれたんですか?」
ようやく気がついたように誠は三人にそう言った。頭を掻きながら天を見つめるカウラ。ポケットから取り出したタバコをくわえながらわざとらしくライターを探している要。生暖かい視線を誠に送る西を威嚇するアイシャ。
とりあえず逆らわないことが身のためと思った誠はそのまま駆け足でトレーラーの止めてあるハンガーへと急いだ。




