季節がめぐる中で 157
「結局指名は無し……良いんじゃねえの?」
ぼんやりとカウラのスポーツカーの助手席から外を眺めているアイシャに後ろの席から要が声をかける。法術適正者が指名の対象から外れると思われていた東和職業野球ドラフトは、法術制御技術により指名の障害にならないとわかると逆に法術適正者を優先して指名する流れとなった。
アイシャがバルキスタンから帰国した新港にも一応保安隊の駐屯地である豊川のミニコミ誌の取材が来ていたが、それが最後で記者達の姿は見ることが無かった。
「もしかして指名されたら……とか考えていたのか?」
ハンドルを握りながらカウラはそう言って一言もしゃべろうとしないアイシャを眺める。
「そんなんじゃないわよ」
ぼそりとアイシャがつぶやいた。カウラは菱川重工豊川工場の通用門に車を向ける。
「でも本当に神前は大丈夫なのか?検査とか受けたほうがいいんじゃねえの?」
黙って下を向いている誠の隣から顔を近づけてくる要。誠も彼女に指摘されるまでも無く倦怠感のようなものを感じながら後部座席で丸まっていた。
「大丈夫ですって!シュペルター中尉も自然発生アストラル波に変化が無いって太鼓判を押してくれましたから。それに昨日まで寝てたのはただの三日酔いですから」
車は出勤のピークらしく工場の各現場に向かう車でごった返している。カウラは黙って車を走らせる。
「生協に寄るか?」
カウラの言葉にアイシャは首を振った。
「やっぱり急にマスコミの取材が無くなってさびしいんだろ?」
相変わらずアイシャを見ながらニヤニヤ笑う要。保安隊の駐屯地を覆うコンクリートの壁が見えてくる。その前をランニングしている菱川重工豊川野球部のユニフォームの選手達。
「あれ見りゃわかるだろ?上を狙ってる連中は努力を忘れねえもんだ。オメエはただ漫画読んでにやけているだけだろ?」
上機嫌にアイシャの紺色の髪に手を伸ばす要。
「痛いじゃないの!本当に要ちゃんは子供なのね」
突然髪を引っ張られて要をにらみつけるアイシャ。
「おう、子供で結構!なあ、神前」
その異様にハイテンションな要に苦笑いを返す誠。車は警備部が待機しているゲートに差し掛かる。
「ヒーローが来たぜ!」
後部座席の窓に張り付いてブイサインをする要。それを見つめる警備部の面々。あのバルキスタンでの勇姿が別人のことのように見えるだらしない姿の彼等に誠はなぜか安心感を感じていた。
「おう、写真はアタシの許可を取ってから撮れよ!それとサインは一人一枚ずつだ!」
「西園寺さんはいつ神前のマネージャーになったんですか?」
車の中を覗き込んで笑顔を浮かべる彼等に要が手を振るとカウラが車を発進させた。
「ずいぶんと機嫌がいいわね」
沈んだ声でアイシャが振り向く。要は舌を出すとそのままハンガーを遠くに眺めていた。
「もう少しデータが取れれば良かったんだがな」
カウラはわけもなく浮かれている要を一瞥する。
「そんなの必要ねえだろ?05式は最高だぜ。特に不足するスペックが出なかったんだから良いじゃねえか」
カウラの言葉にも陽気に返事をする要。誠は逆にこの機嫌の良い要を不審に思いながら、落ち込んでいるとしか見えないアイシャを眺めていた。




