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季節がめぐる中で 153

 バルキスタン中部の政府軍の秘密キャンプは雨季には珍しい晴天に恵まれていた。天空から降り注ぐ光ははこの土地が赤道に近いことを知らせるように赤土の目立つ大地を焼き、茂る下草と潅木の上に容赦なく降り注いでいた。

「気温は摂氏38度、湿度は75%」 

 カモフラージュされたテントから這い出て草むらに身を隠す女性士官は手元の計器の値を読み上げた。彼女が双眼鏡を構えて見つめている先にはキャンプの中でもひときわ大きな建物の裏口があった。警備兵も居らず、静まり返っている。

「隊長の情報網だからな、間違いは無いと思うが。それにしても……」 

 女性士官の足元には寝そべるようにして狙撃銃を構える士官がいた。地面に寝そべり土嚢の上に構えられたライフルはブレイザーR93。骨董品のこの銃のマガジンを手元に三つ並べている彼だが、ようやく踏ん切りがついたと言うようにその中央のマガジンを手に取ると銃に装着しレバーを引いて装弾した。

 手前の鉄条網の前を政府軍兵士が往復している。彼ら、エダ・ラクール少尉とキム・ジュンヒ少尉がこの場所で監視を始めてから次第に警備の兵士の巡回のペースが上がっているのが分かった。

 反政府軍の攻勢が二人の後輩である神前誠曹長の法術兵器の一撃で失敗に終わったあと、政府軍の首魁、エミール・カント将軍は首都の執務室からこのキャンプへと身を隠していた。同盟はカント将軍の意向を無視して人道目的の支援の名目で両軍のにらみ合う地域に部隊を派遣、事実上の占領を開始していた。全面衝突を防ぐことに成功したと言う美名と医療支援と治安確保という名目を並べられてはカント将軍もそれを黙認せざるを得なくなっていた。

 かつて胡州やゲルパルトの野党勢力の資金源として、麻薬やレアメタルの生産ルートの権益を一手に担ってきたカント将軍は近藤と言う販路を失い、その流通ルートの調査が進む現状で胡州やアメリカに今回の議会選挙の実施提案を呑まされていた。そして今回の反政府勢力と呼応しての大茶番が失敗した今では、混乱に乗じて特殊部隊の展開をほのめかす各国の司法当局の目が集まる首都の執務室さえ安全な場所とはいえなくなっていた。

 ジャングルの中の秘密キャンプ。この存在を知るのは限られたカント将軍の腹心とされる人物だけと思われていたがそこに保安隊運行部のエダ・ラクール少尉と技術部小火器管理責任者キム・ジュンヒ少尉は武装して監視の任務に当たっていた。

「まあこれは駄賃らしいからな。失敗しても元々ってことだろ?」 

 地面すれすれに置かれた狙撃銃のスコープを覗き込み、キャンプを監視するキム。その視界には数名の政府軍兵士がいるだけで特に厳しい警備は行われていないように見えた。

「でもおかしくないかしら。一国の権力者がこんなに警備が薄いキャンプにいるなんて。確かにこのキャンプが今はアメリカの監視下に無いとしてもいったん動けばすぐに発見されるはずよね」 

 双眼鏡を下ろしてアサルトライフルを握り締めるエダ。キムはただスコープを覗くだけ。

「そんなことは俺達の給料のうちじゃないよ。ただここに将軍殿がいればその頭に308ウィンチェスター弾を叩き込む。それが俺の任務だ」 

 そう言って静かに安全装置を解除して再びスコープを覗き込む。

 昼の日差しで汗は容赦なく目の中に入り込もうとする。キムはただなんどか手袋の布でそれをぬぐう。カモフラージュの為に顔に塗ったフェイスペイントも次第に汗に流されていく。

「車両が来るわね」 

 エダがそう告げる。一両の重機関銃を積んだ四輪駆動車がキャンプの警備兵に停車を命じられているのを見つけた。

「アサルト・モジュールで踏み潰せば簡単なんだろうがな」 

 皮肉めいた笑みを浮かべるキムだが、彼の視線は中央の建物から外れることは無い。空調の室外機のプロペラが止まることなく回転を続けていることだけが中に人がいることを知らしめていた。

 入り口で止められていた車両の前のゲートが開き、車両はそのまま二両の装甲車の隣に停められた。

『アロー!アロー!』 

 突然エダの装備していた無線機に声が入る。彼女は緊張した面持ちで無線機を握った。

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