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季節がめぐる中で 146

「そこの三人!来なさい」 

 叫び声に振り向いた要と誠に手を振るマリア。いつもは凛々しく引き締まった表情でブリッジの女性隊員の憧れともなっているマリアが、戦闘服のボタンを大胆に外した色気のある姿で誠達を呼んでいた。

「そうだな、ヒーロー!」 

 要は誠の肩に手を回そうとするが、その手をアイシャが払いのける。

「何をしようとしていたのかしら?もしかしたら誠ちゃんと肩を組んで……」 

「な・な・何言ってんだ!誰がこんなへたれと肩を組んでキスをしたりするもんか!」 

 そこまで言ったところで要に視線が集まる。警備部の屈強な男達や技術部の酒盛りを目の前に仕事を続けている隊員達の視線が要に集中する。

「……誰もキスするなんて言ってないわよ」 

 アイシャの言葉が止めを刺して要が頬を赤らめて黙り込む。

「ビールがうまいな」 

 突然場を読まずにカウラがそう言った。要は誠から離れてカウラの肩に手をやる。

「旨いだろ?仕事のあとの酒は。オメエは飲まないだけで飲もうと思えばパーラぐらいは飲めるはずなんだから。さあぐっとやれ!」 

「あからさまに話をそらそうとしているわけね……じゃあ」 

 そう言うとアイシャが誠の肩にしなだれかかる。その光景に口笛を吹いたり手を叩いたりして警備部の酔っ払い達は盛り上がった。振り向いた要が明らかに怒っている時の表情になるのを誠は見ていた。しかし、タレ目の彼女が怒った顔はどこか愛嬌があると誠はいつも思ってしまい、顔がにやけてしまう。

「そこ!何してんだよ!」 

「あら?要はカウラに酒の飲み方を教えるんでしょ?私は我等がヒーローと喜びを分かち合う集いに出るだけよ」 

「じゃあ、だったら何でそんなに誠にくっついているんだ?」 

 誠は自分の顔が茹でダコのようになっているのがわかった。明らかにアイシャは胸を誠の体に擦り付けてきている。長身で痩せ型のアイシャだが、決して背中に当たる彼女の胸のふくらみは小さいものではなかった。

「うらやましいねえ、神前曹長殿!」 

「色男!」 

「あやかりたいなあ!」 

 そんな誠への野次が飛ぶ。ロシア語で誠に分からないように話し合ってはにやけてみせる警備部の面々に誠はただ恥ずかしさのあまり視線を泳がせるだけだった。

『みなさん!楽しんでいるところ悪いんだけど、第四小隊のお迎えが出るので移動してもらえるかしら?』 

 格納庫に響く『高雄』艦長鈴木リアナ中佐の声。警備部の面々はそれぞれに酒瓶を持ちながら床に置いた銃を拾って立ち上がる。

「じゃあオメエ等それ持て」 

 要はそう言うとビールと氷の入ったクーラーボックスを足で誠達の前に押し出す。

「私達で?」 

 露骨に嫌そうな顔をするアイシャ。アルコールが回ってニコニコとし始めたカウラが勢いよく首を縦に振る。

「すみませんね、アイシャさん」 

 そう言うと誠はクーラーボックスのふたを閉めようとした。

「もう一本もらうぞ」 

 カウラはそれを見てすばやくクーラーボックスの中の缶ビールを一本取り出す。

「意地汚いねえ」 

 そんなカウラを鼻で笑いながら要はウォッカの酒瓶を傾けて、半分ほどの量を一気に飲み干した。

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