季節がめぐる中で 142
「そう言えば明華の姐御はどうしたい!」
整備班の兵長からアルミのカップに入れた日本茶を受け取りながら要がそうたずねた。兵長はすぐに隣で07式の回収のためにワイヤーを巻きつける作業を指揮していたレベッカに視線を向けた。
「ああ、部長ですか?明石さんと輸送機で第四小隊が篭城していた基地に向かいましたよ」
そう言うとレベッカは再び作業に戻る。
「島田の馬鹿を殴りに行ったのかな」
要の言葉に、アイシャは彼女の肩に手をやって呆れたように首を振る。
「わかって無いわねえ。二人は婚約者よ。色々話したいこととか……」
「あのなあ、一応仕事だぜ、アタシ等がここにいるの。別にそんな帰りゃあいくらでもいちゃつけるんだから……」
かわいそうな目でお互いを見つめあう要とアイシャ。その滑稽な姿にカウラと誠は噴出した。
「おい、何がおかしいんだ?」
「おかしいところなんて無いわよねえ、要ちゃん」
抗議する要とアイシャを見てさらに誠とカウラは笑う。
「オメー等。くっちゃべっている暇があるなら撤収準備を手伝えや」
ランはそう言うとそのまま東和軍の部下達のところに走っていく。
「クバルカ中佐!八橋!」
三つの八橋の箱を持ったヨハンが巨体を揺らして走っていく。箱を受け取って笑顔を浮かべるランを横目に見ながら要が視線をヨハンに向ける。
「とりあえず何かできることあるか?」
「あ、西園寺大尉。とりあえず05式で運ぼうと思うんですけど……あの通信施設に東和の機械を載せてる輸送機じゃこれの情報が東和空軍に筒抜けになるから上空の『高雄』の格納庫まで引っ張りあげたいんですけど」
八橋を食べ始めたヨハンを制したレベッカはそう言うと落ちかけたメガネをかけなおす。その姿になぜか口を尖らせながらカウラがレベッカの前に出た。
「一応、私が第二小隊の隊長だ。そう言う指示は私を……」
「細けえこと気にするなよ。どうせやることは同じなんだ。カウラ、起動すんぞ!それと神前のこの馬鹿長いライフルはどうするんだ?」
そう言うと要は目の前の誠の05式乙型の手にある非破壊法術兵器を指差す。
「仕方が無いだろ。神前はそのまま『高雄』に帰還だ。私と西園寺でこいつを引っ張りあげる」
カウラはそう言うと自分の05式に向かって歩き始める。要はレベッカの不釣合いに大きな胸をしみじみと眺めた後にため息をつくと去って行った。
「あのう、神前君。私何か悪いこと言ったかしら」
長崎出身らしく微妙な訛りのあるイントネーションで誠に話題を振るレベッカ。
「いやあ、なんでしょうねえ」
誠はただ二人が見ていたのはレベッカの胸だと言うわけにも行かず、ただ愛想笑いを浮かべながら隣に立つ自分の機体に乗り込む。
「ああ、あの人の天然にも困ったもんだな」
そう独り言を言うと、誠はコックピットに乗りこんだ。ハッチが降り、装甲版が下がってきた。朝焼けの中、誠は重力制御システムを起動させ、05式で上空に滞空する『高雄』に向かった。
「第二小隊!三番機。帰等します」
『お疲れ様!誠君』
複雑な表情の誠に笑顔のリアナが口に八橋をくわえながら答えた。




