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季節がめぐる中で 141

 『高雄』を見上げる誠達に向かって小型の揚陸艇が進んでくる。

『あんまり動かさないでくれよ。そいつは重要な資料なんだから』 

 珍しく仕事熱心なヨハンの巨大な顔が通信端末に拡大される。

「おい!エンゲルバーグ。一言言っていいか?」 

 ニヤニヤ笑いながら要が怒鳴る。

『そんなにでかい声で……なんですか?』 

「痩せろ!」 

 要がそう言うと同意するとでも言うように倒れている07式を取り巻いているフル装備の警備部の兵士達が笑う。

『西園寺大尉。人の体型とかをあげつらうのは良くないことだと思うんですけど……』 

 消え入りそうな声でそう言ったレベッカに巨体をゆすらせて頷くヨハン。

「それはオメエもそうだろ?」 

『私はそんなことは言いません!』 

 そう言って大きすぎる胸を揺らしながら怒ってみせるレベッカ。誠がそのやり取りを聞きながらカウラに目をやってしまう。カウラはレベッカの胸を見ながらぺたぺたと自分の胸を触る。

「やっぱり天然はだめだ。それよりロナルドの旦那とは連絡がついたのか?」 

 そう言って画面を切り替えた要。誠もなんとなく彼女に従ってチャンネルを変える。『高雄』の艦長の椅子が映し出されるが、そこにはリアナの姿が無かった。

『おいしいわね……このお饅頭。え?八橋もあるの?じゃあお茶に……あ?通信!大変、大変!で、要ちゃん?』 

 すっかり休憩モードで日本茶をすするリアナに要のタレ目がさらにタレてリアナを見つめる。

「お姉さん、露骨に休憩しないでくださいよ。一応ここは戦闘区域なんですよ」 

『ごめんね、隊長からの差し入れが届いたのよ。胡州名産生八橋よ。それに……』 

「帰ってきたんですか?叔父貴」 

 明らかに要が不機嫌なのを察知した誠だが、そのようなことを考えるリアナではなかった。

『まだよ。先にお土産を送るって新港に届いたのよ。だって生八橋は早く食べないと駄目になっちゃうじゃないの。大丈夫。一人あたり一箱くらいあるから』 

「あのアホ中年……一人一箱も生八橋食うかってえの!」 

 要は着陸しようとする揚陸艇から降りてくるヨハン達に手を振りながら苦笑いを浮かべる。その後ろに続いて下りてくる整備班員の手にはすでにこの場にいる兵士達に配るための生八橋の入ったダンボールがあった。呆然とマリアは狙撃銃を背負いながら走ってきた下士官から八橋の箱を受け取った。

「要、まったくそのとおりだな。こんなに食べたら口の中大変なことになるな」 

 マリアは手にした箱を脇に抱える。それをランが不思議そうな顔をしながら見つめている。

「生八橋?」 

「ああ、クバルカ中佐は知らないかもしれませんね。日本の京都の名産だそうですが、胡州の生八橋も有名なんですよ。あの国は公家文化の国ですから」 

 マリアはそう言うとダンボールから大量の生八橋の箱を取り出す整備兵を苦々しげに見つめている。

「ああ、要もシュバーキナ少佐もこれは苦手でしたね」 

 そう言うとマリアに手渡そうとした生八橋の箱を取り上げるカウラ。

「そうね、私が食べてあげるわ」 

 同じくすでに着陸していた輸送機から歩いてきたアイシャが要の生八橋を取り上げる。

「おいしいですよ。もったいないなあ」 

「そうでしょ?誠ちゃん。ほら、私達はソウルメイトなのよ!」 

 誠の手を取り胸を張るアイシャ。誠は苦笑いを浮かべながら風に揺れるアイシャの濃紺の長い髪を見て笑顔がわいてくるのを感じていた。

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