季節がめぐる中で 137
誠は山並みに機体を無事に着陸させる。いつもの危なっかしい着陸を見せられている警備部の面々は、そんな誠に賞賛の拍手を送った。タクティカルベストに小銃のマガジンを巻きつけた兵士達の笑顔もモニターに映っている。すぐさま誠はコックピット座席の後部からボードを引き出し、模擬戦で何度と無く叩いたコードを入力していく。
「効果範囲ビーコン接続作業開始!法術系システムを主砲に充填開始!必要時間……2分!」
同じくマリアの部下の誘導でカウラの機体が着陸する。
法術兵器の出力ゲージが臨界点に近づいていく。だが、これで三度目と言う射撃の効果範囲は最大300kmと言う範囲である。演習場での範囲が30kmだったところから考えればそれは明らかに広すぎる範囲だった。
「ヨハンさんも認めてくれたんだ。行ける!いや、やるんだ!」
静かにつぶやく誠。足元ではマリアの部隊が向かい側の稜線に向けて射撃を開始していた。
『すまない神前。また渓谷沿いに待機していた敵アサルト・モジュールが起動したとの連絡だ……』
「大丈夫ですよ、カウラさん。僕は一人でやれますから」
レーダーを見る余裕も誠にはなかった。それどころか次第に全身から力が吸い取られていく感じに誠は戸惑っていた。それは目の前で赤く輝き始めた法術兵器の銃身に命が吸い取られていくような感覚だった。
カウラはマリア達が射撃を続けている山並みから現れたアサルト・モジュールに向かってエンジンをふかす。
『やばいわよ、あれは遼南帝国軍の機体!まったく本当に役に立たないどころか邪魔以外の何者でもないわね、遼南は!』
『そんなことははじめから分かってたことだろ?アイシャ!降伏した遼南軍のデータをよこせ!』
アイシャと要のやり取りも、今の誠には他人事のように感じられた。遼南軍の弱さは誠も知っている遼州ジョークのひとつだった。だがそんなことを考える余裕は誠には無かった。
目の前に輝く赤い砲身。そこから発射される思念介入粒子にすべてをかける。誠に今できるのはそれだけのことだった。
「エーテル波正常。アストラルリンク、第四段階までクリアー!」
誠はただ何も見えない空間に伸びる銃身だけに神経を集中する。カウラの表情が誠のモニターの中で歪んでいるのがわかる。彼女を苦戦させる敵に誠は一瞬レーダーに目をやった。そこに光るのは遼南軍のアサルト・モジュールの識別信号を出している敵機だった。
『パルチザン化か!まったく遼南軍にはプライドが無いのか?』
『いまさら何を言っても仕方が無い!あと少し……』
カウラの刺のある言葉、マリアの願うような叫び。誠の視線は臨界点に近づきつつある法力ゲージに視線を移した。
「カウント!テン!ナイン!エイト!セブン!……」
自動的にカウントを開始する口。誠は機体と自分が一体になっていることを感じた。砲身は血を思わせる暗い赤色から次第に灼熱の鋼のようなまぶしい赤に色を変えつつあった。もう止められない。誠はそう思いながら精神を集中する。
『範囲指定は完璧だ!行け!』
マリアの言葉に誠は目の前の地図に浮かぶビーコンの位置に精神をさらに高揚させる。次第に目の前の空間が桃色に光り始め、そこからあわ立つように金色に光る粒が地面からあふれ出てくる。
そこに突然光りだす地表から生えてきたとでも言うように黒いアサルト・モジュールが姿を現したのに誠は叫びを上げるところだった。法術対応型の証の様に干渉空間を展開しながら一気に誠の機体に距離を詰めていく。保安隊の05式と同じようなフォルム。そして動きの切れはM7などとは違い明らかに最新世代のアサルト・モジュールの動きだった。
さらに近づくたびに肉眼でも見える干渉空間を展開している敵は、M7などを改造した取ってつけた法術対応型のなどではなく遼南正規軍配備の最新の機体であることを示していた。
『なんだと!新型?07式?聞いてないぞ』
通信機から要の声が響く。だが、誠はすでに法術非破壊兵器の発射体勢に入っていた。
『誠!』
要が叫ぶ!
『誠ちゃん!』
アイシャの悲鳴。
『誠』
カウラは言葉を飲み込んだ。
『間に合え!』
ランは一気に機体を降下させた。
誠の目の前で07式がサーベルを振り上げて向かってくるのが分かった。
だが、誠は操縦棹の先の法術兵器の起動ボタンを押すこと以外何もできなかった。




