季節がめぐる中で 12
「馬鹿だねえ西の餓鬼は。この位の邪魔で撃てなくなるなら意味ねえじゃねえか」
そう言っていつものようにまなじりを下げる要。そこに割って入ったのはアイシャ。
「ねえ、あの小さい姐御に苛められなかった?」
「小さい姐御って誰ですか?」
誠の言葉に横にいたエメラルドグリーンのポニーテールに話しかける。
「邪魔するなと言ったじゃないか」
その髪の持ち主のカウラがつぶやいた。『小さい姐御』と言う言葉がつぼに入ったのか、要がカウラの隣で腹を抱えて笑っている。
「あのー。ちょっと黙っていていただけますか?」
ついそう口に出した誠。
「酷い!誠ちゃんには私の言葉は届かないのね!」
わざと泣き声を装うようにアイシャの声が響く。画面の端からアイシャの肩を叩いているのはカウラだろう。
「そう言う意味じゃないんですけど……」
誠がそう言ったとき、管制室の画面が05式の全周囲モニターに開いた。
「遊んでるんじゃないぞ!とりあえず標的の準備はできた。最終安全装置の解除まで行ってくれ」
ヨハンの顔が大写しにされて、誠は少しばかり引き気味に火器管制システムの設定に移った。訓練場を示す地図が開き、誠の干渉空間が展開される。干渉空間には二種類あり、その活用方法については誠は飛躍的に制御技術向上させていた。
一つは直接展開空間。
それは平面状に展開され、シールドや位相転移、すなわち瞬間移動などを行うことができる展開発動者専用の空間である。これを展開できるのは保安隊でも誠と隊長の嵯峨だけと言う特殊な技能である。
そしてもう一つが一般に『テリトリー』と呼ばれる干渉空間だった。
それは展開した法術者の意識レベルによって変性可能な干渉空間である。その『テリトリー』の運用に長けているのはパイロキネシストとしての能力を、展開した空間内で発揮できるシン。思考サーチなどが可能な能力を有しているマリア。そして内部空間の時間軸をずらすことで相対的運動性を発揮することができる実働部隊第一小隊のエース、ナンバルゲニア・シャムラード中尉がいた。
干渉空間、テリトリーの展開を開始すると、下で騒いでいた要達の顔色が変わった。再び誠の全身から力が抜けていくような感覚が走る。




