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117/171

季節がめぐる中で 117

『えー、あー、あれ?』 

 間抜けな声が響くカメラ目線の嵯峨の目つきがいつものうつろな濁った色に変わる。

『ラーメン……チャーシューメン。高いよな……え?』 

 整列していた隊員が呆然と大写しの嵯峨を呆れた顔で見つめる。

『……吉田!写ってんの?回ってんの?切れよここ。な?』 

 そう言うと嵯峨は再び見慣れない厳しい表情に戻る。明石の横に立つ吉田に幹部連の視線が痛く突き刺さっている。

『ああ、みんなも知っていると思うが、現在バルキスタンの選挙管理・治安維持目的で第四小隊及びバックアップグループが展開しているわけだ。そのバルキスタンで停戦合意をしていたイスラム系反政府組織が停戦合意を破棄した。理由はありきたりだが選挙態勢に不正があり信用できないからだそうな。もうすでに政府軍の反攻作戦が展開中だろうな今頃は』 

 そう言うと嵯峨のアップからバルキスタンの地図に画面が切り替わる。ベルルカン大陸西部に広がる広大な湿原地帯がバルキスタン共和国だった。そしてバルカイ川下流の都市カイザルに赤い点が打たれ、その周りの色が青色に、中央山脈からのムルガド首長国国境沿いに緑の地に染められていく。

『緑色が先週までの反政府軍の統治エリアだ。だが、今度の攻勢で……』 

 嵯峨の声の後、すぐに青色は緑色のエリアに侵食されて行った。

「あそこの組織は機動兵器はもってねえはずだよな」 

 前に立っている要が誠に声をかける。

「そんなこと僕が知るわけないじゃないですか」 

 誠が答えると要はにやりと笑いながら画面に視線を戻す。レアメタルの鉱山を奪い合うと言うバルキスタン内戦に於いてはキリスト教系民兵組織出身の現政権の首領エミール・カント将軍も敵対するイスラム教系反政府組織も潤沢な資金を注いで軍の増強に努めていた。だが、地球圏がカント将軍派を正当な政府と認証した十二年前の協定により、イスラム教系組織へのアサルト・モジュールなどの輸出は禁止され、内戦は政府軍の優位のうちに進展していた。

 その状況に不満を持っていた遼州同盟の西モスレム首長国連邦と地球圏のアラブ連盟は遼南の首都央都での協約でカント将軍に民主的な選挙の実施と言う案を飲ませてカント将軍の力を削ぐ方針を固めた。彼らは遼州同盟各国からの選挙監視団の派遣を要請、地球からも治安維持部隊の導入を進め選挙はまさに行われようとしていたところだった。

 だが、目の前の地図はその合意を反故にして反政府軍は侵攻を開始していることを示していた。

『ああ、ここで質問があるだろうから答えとくよ。この侵攻作戦の展開には反政府軍はアサルト・モジュールを所有していることが必要になってくるな。答えから言うとそのアサルト・モジュールの供給源はカント将軍様だ。まったく敵に塩どころか大砲を送るとは心が広い将軍様だなあ。お前等も見習えよ』 

 そう言う嵯峨の声に技術部のあたりで笑いが起こる。だが、それも明華の鋭い視線に収まり、そのまま画面は嵯峨の顔を映した。

『何のことはない。政府軍も反政府軍も今回の選挙は無かったことにしたいんだ。そのためには敵に鉄砲でも大砲でも送るし、明らかに民衆の支持を得られない大攻勢でも平気でやる。残念だが遼州人も地球人もそう言うところじゃ変わりはねえんだ』 

 嵯峨の口元に残忍な笑みが浮かぶ。誠達を見つめているランの顔がゆがんだのを誠は見逃さなかった。

『そこでだ。遼州同盟司法局は央都協定二十三条第三号の規定に基き甲一種出動を行う。すべての任務にこれは優先する。各隊の作戦の立案に関しては明石に全権を一任する!以上』 

 嵯峨は再びまじめな顔で敬礼する。そして画面が消えた。

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