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季節がめぐる中で 114

 突然、嵯峨の背にしている廊下で人の争うような声が聞こえてきた。

「なんだ?」 

 西園寺はそう言いながら焼き豆腐を取り皿に運ぶ。

 西園寺家には先代の重基の代から多数の食客が暮らしていた。とりあえず面白そうだと思った芸人や画家、役者や漫才師が自由に出入りする文化的なサロン。それが西園寺家のもう一つの顔だった。今日は兄弟が殿上会の帰りに護衛のSPに大量の安い牛肉を買い漁らせ、彼ら居候達にもすき焼きと安酒が振舞われているところだった。

 はじめは西園寺はそんな食客達が喧嘩でもしているのではと思い嵯峨の顔を覗き見た。

 嵯峨はまるで待っていた人物が到着したとでも言うように、取り皿の中のしらたきをすすり終えると静かに取り皿をちゃぶ台に置いた。それと同時に血相を変えた醍醐文隆陸軍大臣が思い切りよく襖を開いた。

「大公!」 

 醍醐の視線は安酒をあおる嵯峨に向けられた。その目は赤く血走り、口元は怒りに震えていた。

「そんなに大きい声を出すこと無いじゃないですか」 

 そう言うと嵯峨は再び取り皿に手を伸ばす。そんな嵯峨に歩み寄った醍醐は嵯峨の前にどっかりと座り込んだ。それまで醍醐を止めようとしていた食客の太鼓持ちが、どうすればいいのかと聞くように西園寺の顔を見た。西園寺は手で彼らに下がるように命じた。

「バルキスタンのイスラム民兵組織がアサルト・モジュールを保有しているのはなぜなんですか?」 

 自分自身を落ち着けようと嵯峨の前に置かれた燗酒の徳利を一息で飲み干すと、醍醐はそう言って嵯峨に詰め寄った。

「近藤資金の規模から考えたら少ないくらいじゃないですか?M5が32機、M7が12機。そのほかもろもろで102機。まあこのくらいの兵力を確保していなければ、カント将軍の首を取っても同盟軍に押しつぶされるでしょうからね」 

 嵯峨はそう言うと取り皿に肉を置いていく。目の前のかつての主君から放たれた言葉に醍醐の顔はさらに赤く染まっていく。

「ほう、良くご存知ですね。ですが私の情報では彼らはアサルト・モジュールを所有していないはずだった……」 

「まあ情報機関が情報をつかめない。よくある話じゃないですか。まあ現実を見てくださいよ現実を」 

 そう言って嵯峨は怒りに紅潮している醍醐をなだめるように一瞥した。しかし、その口元に浮かんでいる皮肉めいた笑みはさらに醍醐を怒らせるだけだった。

「じゃあどうやって彼らはアサルト・モジュールを手に入れたと言うんですか!」 

 醍醐は思わずちゃぶ台を叩く。その姿に西園寺はただ愛想笑いを浮かべるだけだった。

「まあ裏ルートと言っても俺が抑えている線ではそんなに大掛かりな密輸組織は無いですし……。彼らのバックにいる西モスレムも、今回のバルキスタンの選挙にはカント将軍が仕切ると言うのはいかがなものかと言う前提つきで監視団を送っているくらいですからねえ……」 

 そう言いながら嵯峨は肉に溶き卵を丁寧にからめている。

「外から運んだわけではないと言うのなら……答えは自然と決まってくるんじゃないですか?」 

 嵯峨の言葉に醍醐はこのあるはずの無いイスラム民兵組織のアサルト・モジュールの出所を思いついた。

「カント将軍も馬鹿じゃない。今回の選挙が反政府勢力により妨害されておじゃんになりましたよー、これは私達のせいではありませんよー、と。そう言う逃げ道で政権に居座る。なかなかの策士ですな」 

 そのまま安い牛肉を口に放り込んだ嵯峨はまるで隣に怒りに震える醍醐がいないとでも言うように肉を噛み締めていた。

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