季節がめぐる中で 111
走り去る少年の後姿。誠とアイシャは非常に近しい誰かの面影を見ている自分自身に気づいていた。
「ちょっと、誠ちゃん」
そう言うとアイシャは今度はそのまま寮に誠を引きずっていく。
「おお、いねえな。文屋さん」
目をこすりながら玄関に立っている要を見て、誠とアイシャは思わず指差していた。
「要ちゃん!」
アイシャはそのまま要にパンチをしようとした。当然のことだが、戦闘用に機械化された要の体はアイシャの一撃など軽く受け止め、そのまま腕をねじりあげる体勢に持ち込んでいた。
「いきなり何しやがんだ!」
さすがに誠も明らかにトリッキーすぎるアイシャの行動に苦笑いを浮かべながら先ほどから頭にこびりついている疑問を要にぶつけることにした。
「西園寺さんの親戚に8歳くらいの男の子っていますか?」
誠の言葉に首をひねる要。彼女は首をかしげながらさらにアイシャの肩の関節を締め上げる。
「ちょっ!たんま!やめ!」
ばたばたとあいた左手で要を叩くアイシャ。要はそのままアイシャを離すと再び熟考を続けた。
「親父の系統じゃあいねえなあ。だけどお袋の系統だと……こっちもいるとしたら叔父貴の腹違いの弟ってことになるけどここらに住んでるなんて聞いたことねえよ。それにしてもなんでそんなこと聞くんだ?」
あの少年が要くらいの立派なタレ目だったら確実にわかるのにと思いながら愛想笑いを浮かべる誠。もしそんなことを口に出せば、先ほどのアイシャの比ではない制裁が加えられることは間違いなかった。
「西園寺の親戚は胡州や遼南の貴族ばかりだからこいつに聞かなくてもネットで調べればわかるんじゃないか?」
要から開放されたアイシャを抱き起こしながらカウラがそう言った。
「じゃあ、あれ……隊長の腹違いの弟とか」
アイシャはようやく息を整えるとそう言った。誠もその言葉に納得した。保安隊隊長嵯峨惟基の父、ムジャンタ・ムスガ、贈り名、兼陽帝は息子のラスコーを追い落として帝位につくや否や酒色におぼれ政治を放り出した愚帝だった。彼は次々と女官達に手をつけ、その数は二百人とも言われる子供をなした。保安隊の次期管理部の部長に内定している高梨渉参事などもそんなムスガの子供達の一人だった。
「それならなんとなく納得いきますね……でも西園寺さんも知らないんですか?」
「まあな。叔父貴も全員は知らねえって言ってたからな。まあいてもおかしくは無い」
誠もアイシャの言葉に頷いた。あのふてぶてしい態度。明らかに人を馬鹿にしたような視線。敬意のかけらも感じられない言葉遣い。
「まあ叔父貴の兄弟のことまで詳しくははアタシは知らねえよ」
そう言うと興味をなくしたと言うように自分の部屋に戻っていく要。
「隊長の弟か。なんでそんな人物がここに居るんだ?」
不思議そうに誠を見つめるカウラ。誠も少年がなぜアイシャを追っている記者を追い返したのかと言う疑問を解決できずに、とりあえずこのことは後で考えようと心に決めて寮に足を踏み入れる。
「誠ちゃん。足は洗おうね」
アイシャはそう言うと手を差し伸べるカウラを置いて二階へあがる階段に足を向けた。誠は仕方なくサンダルを手に入り口のそばの水道の蛇口に向かって歩き出した。




