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理想の転生ライフ  作者: 森の人
理想の転生ライフ、と狂勇者(の歩程)
12/12

11

 翌朝、リオはドアが閉まる音に目を覚ました。

 リオがそちらを見ると小屋に暮らす女が出てきたところだった。

 しばらく観察してみるも、特に怪しげな様子もなく薪を拾い集めると中に戻っていった。

 前日の調査で村に何も問題ないことを確認済みであったことを考慮すれば、リオが女を観察する必要はなかった。

 魔法で気絶させた後遺症がないか確かめるという目的と人恋しいという気持ちがリオにそうさせた。


(予想以上に長い時間気絶してたみたいだから心配してたけど……うん、問題なさそうだね)


 そう結論を出すと、リオは周囲を確認して誰もいないのを確認してから飛び降りた。

 そして足元に紙切れが落ちているのに気がついた。


(昨日は何もなかったはずだけど…? 風に飛ばされて来たと考えるべきか、それともボク宛に誰かが置いていったと考えるべきか。まぁ読んでから判断すればいいよね)


 リオはその紙切れを拾い上げて確認した。


『ありがとう』


 拙い字でそう書かれていた。


(これは…どうなんだろう? さすがにこれだけじゃ判断できそうにないね)


 何者かにお礼を伝えようとして書かれたものだということはわかる。

 しかしそれが誰に対するものなのか、これが全文であるのか。

 そしてリオが持って行ってしまって良いものなのかと悩んでいると、小屋のドアが開く音が聞こえてきた。

 そちらを見ると、女ではなく子供が立っていた。


(僕が寝ている間に入ったのかな? 昨日、村を探った時は見かけなかったけど…)


 リオが不審に思いつつも敵対の意思はないのを示すように笑顔を向けていると、その子供はリオの方に歩み寄ってきた。

 その表情は、初めて見る者に向ける興味ありげながらも警戒心を孕んだもの…ではなく、むしろ親しげな者にむけるような安心感や信頼の籠ったものだった。

 だいぶ2人が近づき、その表情が見えるようになるとリオは不思議に思った。

 なぜそんなにも信頼を向けてくるのか、と。

 いくら笑顔が人の警戒心を和らげるとはいえ、それだけでこんなにも効果が得られるとは思えなかった。

 ついに手を伸ばせば届く距離まで近づくと、リオの方に笑顔を向けた子供が口を開いた。


「あの…手紙、気付いた?」

「手紙っていうと…これのことかな?」

「あ、う、うん」


 リオが先ほど拾った紙切れを見せると、子供は頷いた。

 どうやらそれはこの子供がリオに向けて書いたものだったようだ。


「これはボクにってことでいいのかな?」

「うん」

「…えっと、君にお礼を言われるような覚えがないのだけど」

「え……あ、そ、そうだよね…」


 リオが手紙の意味がわからないと告げると、子供は一瞬惚けたあと、悲しそうな表情になって納得した様子だった。

 そしてそのまま雨俯いてしまった。

 思いが伝わらなかった子供と事情がわからないリオの間に沈黙が続いた。

 それを破ったのは、そろそろ次の目的地であるラヴィルに移動し始めなければならないリオだった。


「…とりあえず、君のお礼は受け取ったよ」


 リオがそう微笑みかけると、子供は俯いていた顔を上げ、リオの顔を見たあと頷いた。


「それで、この手紙はボクが持っていってもいいのかな?」


 リオの問いかけに子供は再び頷いた。


「それじゃ、これは貰っていくね」


 リオはそう言うと、子供に背を向けて走り出した。

 一瞬だけ振り返ったリオの目には、まるで引き止めようとするかのようにリオに向かって手を伸ばす子供の姿が映った。



 走り続けること数時間、リオはラヴィルに着いた。

 実際に目で見たラヴィルはというと、今まで通ってきた村とは異なり柵のようなもので囲まれていた。

 それは魔物から身を守る為なのだが、それにしては戦闘痕よりも雨風による劣化のほうが激しいように思えた。

 魔物が発生しやすいからその対策を講じている、とリオの読んだ資料には書いてあったのだが発生しやすいというのは他の村に比べてという話で、滅多に発生するものではないようだ。


(これからの旅に備えて、魔物との戦闘も経験してみたかったのだけど……この分だと無理そうかな?)


 魔物に出会って一目見てみたいと思っていたリオは少しばかり落胆していた。

 これまでの旅路でリオは一度も魔物に出会うことがなかった。

 それほど頻繁に発生するものでもなく、またどこで発生するかということもだいたい決まっていることが統計資料から分かっていた。

 そしてここラヴィルという村が、王都アルヴィスから最も近い魔物の発生しやすい場所であった。


 さて、ここで何故ラヴィルの住人が柵を設置してまでここに住んでいるのかという疑問に答えよう。

 それは魔物から他の村を守る為である。

 そもそもこのラヴィルという村ができたのは、その周辺に魔物が発生しやすいというのが発覚してからのことである。

 発生した魔物たちをラヴィルに集め、そこで倒すことによって周囲への被害を減らすのだ。

 それまで発生した魔物がクリシュエを始めとする近くの村やアルヴィスへの道を通る商人を襲うという事件が少なくなかったのだが、ラヴィルができたことによって激減した。

 激減した理由は魔物が発生したあとラヴィルに集められて倒されているからというのもあるが、もう一つ襲われる側に魔物への対抗手段やその準備ができていなかったからというのもあった。

 先も述べたように、魔物とは滅多に発生するものではない。

 そのため魔物に対する準備などを十分にしている方が少なく、また魔物のことを話では知っていても実際の姿や強さを知る者も少ない。

 魔物をよく知らない被害者は碌に抵抗できず、襲った魔物は別の獲物を求めて移動をする。

 それが繰り返されて1体1体の魔物が多くの被害を生み出した結果、事件の数が多くなっていたのだ。

 つまり発生したのち速やかに討伐される魔物が増えれば、その数倍の数の被害を減らすことになったということだ。


 実際にこのことが証明されたのはラヴィルの村が魔物への対抗手段として設置されてからであった。

 リオが見た資料にはこれらのことは記載されておらず、またその数もそれほど多くはなかったために推測することも困難だった。

 有力な貴族とはいえこれらの資料すべて、あるいはその多くを持っているという方がおかしい。

 また保持していたとしても、紛失や汚れなどの一切に気を使って取り扱わなければならないものを子供に触れさせることはない。

 なのでリオがこのことやラヴィルであっても魔物の発生数が少ないことを知らないのは当然であった。


 魔物と出会う可能性が低いと知ったリオは、寝床について考えていた。


(魔物との遭遇を考えて今夜も木の上で寝る予定だったけど…その必要もないのかな? 柵に残ってる戦闘痕を見る限りでは大した脅威でもないみたいだし…)


 柵に残っているのはせいぜいが大型の動物の爪痕のようなものだった。

 ラヴィルの住民の戦闘能力が高いために被害がこの程度で済んでいるという可能性も考えられるが、もしそうだとしてもリオにとって脅威足りえるかといえば間違いなく否である。

 柵が最近設置されたような真新しいものでさらに地面には何度も刺したような跡があったり、二重三重になっていた場合はそれほどまでに魔物が強いことを表していると考えられた。

 前者ならば繰り返し柵を交換していることになり、一回ごとの戦闘がそれほどまでに苛烈であること示している。

 後者ならば一番外の柵は壊されること…つまり突破されることを前提に作られており、状態によっては柵が時間稼ぎに使われていることを示しただろう。

 そしてそのどちらであっても、リオは寝ているところを襲われたらやられていた可能性があった。

 しかし現状から考えるに、ラヴィル周辺に発生する魔物は野生の動物を少し強くした程度である。


 リオは村から離れ、いつも通り寝床になりそうな場所を探し始めた。

 まずは丁度いい洞窟のありそうな山に向かった。

 その山–ラヴィーネ山–は頂上は雪が積もり、ある場所を境に木々が生い茂っていた。


(…これなら木の上に寝るのも良いかもね。火を使ったりするときは気をつけないといけないけれど)


 洞窟は見当たらなかったものの木々は葉が多く、村の方からは隠れるところが多いようだった。

 いくつか良さそうな地点を見つけておき、リオは山を下りた。


 次に山と反対側の森である。

 こちらは山とは異なり隠れるところが少ないように思えた。


(こちら側からの襲撃が多いということかな? …となると、魔物と出会う可能性が高いのはこちら側になるわけだね)


 リオはそれが魔物の襲撃を早く察知するために切り開かれたものだと推測し、それは正解であった。

 村の方を見やると物見櫓のようなものが見えたのだ。

 幸いというべきかそれとも無用心というべきか、現在はそこに誰もいなかった。


(…こちらは隠れる場所はなさそうだね。地面に穴を掘ってもこんなに開けてると見つかりそうだしね)


 木々が生い茂る森を求めると村からだいぶ離れることになり、魔物に出会う可能性があるとは言ってもラヴィルの住人に気付かれずにとなると山の側にいるのと大して変わらないように思えた。

 それを踏まえて考えた末、やはり山の側にした。

 リオは先ほど目をつけた場所を見て回り、村からの見つかりにくさや水の確保のしやすさ、そしてリオが見た資料から考える限り最も魔物との遭遇確率が高い場所という条件から2点に絞り、最後に村がよく見える方を選んだ。

 村から見つかりにくく、しかしこちらからは村がよく見えるという一見矛盾しているように思える場所は、自然が生み出した隠れ家だった。

 周りよりも少しなだらかになった傾斜と葉の多い木々、さらにその木々の枝が複雑に絡み合ってできていた。


 それから本日の食料となる獣を探して狩り、日が暮れる前に食事を済ませてから寝床に横になった。

 リオは魔物が現れた時に見逃さないように起きてようと思ったのだが、連日夜更かしをするには体が追いつかなかったようでいつの間にか寝てしまっていた。


 リオが目を覚ました時、ラヴィルの村から煙が上がっていた。


(魔物の襲撃? いや、それにしては柵が壊れた様子もないね。…となると、盗賊か村の中での勢力争いかな?)


 村を囲む柵に欠けた部分は見られず煙の発生源が村の中心あたりだったことから、リオはそう判断した。

 しかしリオが目を凝らして現場を見たところ、そこには獣の姿があった。

 その獣こそがリオの会いたがっていた魔物である。


(…どこから入ったのかな? あの周辺以外に壊れた家屋も見当たらないし……穴でも掘ってきたのかな)


 リオがそんなことを考えている間にも、魔物による被害は拡大していた。

 奇襲されたことと中に入り込まれた場合を想定していない構造のせいで対処が間に合っていなかったからだ。


(手助けに入るべき、かな)


 村に入るデメリットと人を見殺しにするのは落ち着かないという気持ちの葛藤に苦しみ、最後にはやはり助けようと思ったリオは魔物に向かっていく人影を見つけた。

 その人影は魔物の前に立つと腰に帯びていた剣を抜いた。

 魔物はその敵意に気づいたのかその人影の方を向くと、身を低くした。

 相手が戦闘態勢に入ったのを見た人影の方も、いつ飛びかかられても対応できるようにと剣を構えた。

 剣士の方はすり足で近づき、魔物の方はじっと動かずにいた。

 あと数歩で剣士の間合いに入ると思われたところで魔物の方が動いた。

 二つの影が交錯し…双方が崩れ落ちた。

 魔物はピクリとも動かず剣士の方は腕を押さえて転げまわっているところを見る限り、剣士が勝ったようだ。


(魔物の右爪を躱して下段に構えていた剣で切り上げた。けれど魔物の方もそれに対して身を捩って致命傷を避けると左爪の方で再び襲いかかり、剣士はそれを避けきれずに片腕に深い傷を負った。剣士は片腕の力だけながらも剣を魔物に向けて再び振るい、魔物の突進の勢いを利用して剣を食い込ませ、なんとか止めを刺した…かな)


 実際には見えなかった部分もあったが、その前後の動きからリオはそう推測した。

 リオが剣士の力量と魔物の強さを評価している間に、村人が地面に倒れる両者の周りに集まり始めた。

 魔物の方には棒を持った男たちが死んだことを確認するために、怪我をした剣士の方には布や水を持った人たちが怪我の手当てのために。


(ボクの手助けは必要なかったみたいだね)


 剣士の力量はアルヴィスで殺した近衛にも劣らないほどで、魔物の強さは捕獲も可能な程度と評価したリオは事態が終息しつつあることを確認すると次の村に向かう準備を始めた。

 今日は例の一本道を跨いで反対側に向かう予定である。

 焚き火で出た灰を埋めて水をかけるなどの後始末を終えると、リオはもうラヴィルに目を向けることなく走り始めた。


 リオが一歩目を前に出すのと、背後から獣の遠吠えのようなものが聞こえてきたのはほぼ同時だった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ラヴィルに出現した魔物は剣士に敗れたあと、自分の体が人間たちによって棒で突かれているのをわずかに感じていた。

 時に慎重に、時に強めに押してくる人間に唸り声を上げて威嚇しようと試みるも、口から漏れるのは「グ……ゥル…ウゥ…」という情けないものだった。

 それによって一度は距離をとったが、すでに起き上がる力がないのだと察したのか先ほどよりも近づいてきた。


 もう動かず感覚もなくなりつつある体が嬲られるのを薄っすらと感じながら、一瞬だけであったが自分を見つめる視線に気づいた。

 その視線は他の人間たちとは違って恐れをあまり感じなかった。

 若干の敵意と興味が籠った眼差し、それが一番合っている評価だろう。

 だからどうしたというわけでもなく、ただ他と異なる視線が気になっただけだった。

 なので視線が切れたのと同時に興味も失せた。


 やがて視界もボンヤリと薄れてきたことで、もう終わるのだと察した。

 そして最後に、片腕を犠牲に自分を討ち取った剣士に目を向けた。

 目を向けたと言っても当然その姿に焦点を合わせることは叶わず、またその剣士を囲むようにして立っている人間たちのせいで実際に見ることもできなかった。


 対峙していた時は恐怖と敵意に満ちていたその目は、交錯したその時にはただ殺意のみを孕んでいた。

 左爪で腕を切り裂いた時、その殺意が薄れていれば自分に軍配が上がっていたはずだ。

 だが実際にはその殺意が消えずに、むしろ一層強くなった気がして、それに怯んでしまったことで自分が負けた。

 それを知るものは恐らく自分だけである。

 戦った剣士も気付いていないだろう。


 歴史上初めてラヴィルの村の中に侵入した魔物は、最期の気力を振り絞って高らかに吠えると息を引き取った。

 その吠え声は、まるで月夜に物悲しく響く遠吠えのように孤独さを感じさせるものだった。

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