最終話「らくえん」
俺はとある人物を訪ねた
マッカート・リンディ
彼女は霊能者で超能力者でもある
空中浮遊をしたことで有名だ
彼女は神の声が聞こえるという
「こんにちは、マッカートさん」
「あら、こんにちわ」
彼女は俺を手厚くもてなしてくれた
俺は早速彼女に自分の疑問をぶつけることにした
「あなたは神の声が聞こえるといいますが本当ですか?」
「ええ、本当です」
「なら神は私たちに一体何を望んでいるのでしょうか?」
「当たり前のことを望んでいます」
「当たり前のこと?」
「動物やお互いを愛し慈しむことです」
「なるほど」
俺はさらに疑問をぶつける
「私はグリフ教の信者です」
「……」
「今現在グリフ教とエリナ教が戦争をしているのですが正しいのはどちらですか?」
「どちらも間違ってはいませんよ、ただ」
「ただ……?」
「信じる人々が間違っているのです」
「ですがグリフ教は」
俺は彼女にグリフ教の素晴らしさを伝えた
グリフ教にはエリナ教にはない盛大な儀式があり
教えもエリナ教と比べて豊富で進化しているということ
「そういう面でグリフ教はエリナ教に比べて優れていると思うのです」
「それはあなたの価値観です、どちらにも優劣はありません」
「ですからグリフ教が」
「元々世界は単純だったのです」
彼女は説明してくれた
世界は最初、幸福に包まれていたこと
しかし、人間の愚かな行為で不幸が広がっていったことなど
「エリナ様は動物を大事にしなさいと基本的なことを教えてくださいました」
「……」
「後に現れたグリフ様は私たちに互いに愛し慈しみあいなさいとおっしゃっていました」
「……」
「どちらにも優劣はありません、どちらも当たり前のことを説いているに過ぎないのです」
「ですがグリフ教の方が」
「だから何度も言っているではありませんか」
彼女が俺の言葉を遮る
「人間とは愚かなものです」
「……」
「些細なことで殺し合い憎み合う」
「……」
「グリフ様はそれをやめなさいとおっしゃっているのです」
「……」
「ですが見てごらんなさい」
「……」
「あなたがたは教えを蔑ろにしどちらかが優れているかについて優劣をつけている」
「……」
「そんなことをエリナ様もグリフ様も望んだでしょうか?」
俺は言葉が出なかった
グリフ様が優れている
その価値観がぶち壊されてしまった
「戦争はエリナ教やグリフ教に限りません」
「……」
「今では国までもがお互いの利益を優先して戦争をしているのです」
「……」
「私たち霊能者はそれを止めるために神から啓示を受けてこの世に産み落とされました」
「……」
「ですが残念なことにそれを利用し利益を得ようとする人々も出てきました」
「……」
「人々がその愚かな行為をやめない限り世界は不幸のどん底に突き落とされるでしょう」
「……」
「人々が皆、エリナ様やグリフ様の教えを真摯に実践することによってのみ世界は幸福へと包まれます」
「……」
「あなたもエリナ教やグリフ教の優劣にこだわらずその教えを大事にしてもらいたいです」
「……分かりました」
こうしてマッカート・リンディとの対談は終わった
すっかり言いくるめられてしまったな
俺は彼女のもとへ訪れて良かったと思う
自分の間違いに気づいたのだから
俺はグリフ教の信者として
人々を愛し慈しむ行為を実践していこうと思う
たくさんの時が過ぎた
初めの世界はたくさんの霊能者たちの教えのおかげで
自分たちの愚かさに気づき
お互いに助け合うようになった
初めの頃の楽園が実現したのだ
この時をどれだけ待ったことか
今現在他の世界はまだ発展途中で争いが絶えない
しかし、いづれ初めの世界のように楽園が実現することが目に見えるように分かる
私はこれからも世界の行く末を見守る
いつか全ての世界がエデンの園になる頃を夢見て……




