第49話【刻限迫る救済】
月光邸へと辿り着いた車が屋敷前に停車する。壱月は運転席から降り立つと、後部座席のドアを開けてくれた。
「……藤鷹様をしっかりとお支えしたままゆっくりとお降り下さい、羽闇様。」
すると只ならぬ雰囲気を察したのか、使用人達が次々と邸から姿を現した。
「羽闇お嬢様!藤鷹様!これは…!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、月光邸に古くから仕えているという老執事だった。
「壱月様!一体何が…!」
「藤鷹様!?」
「きゃああああ!!」
続いて、若いメイド達も意識のない華弦の姿を見た瞬間、青ざめた表情で声を上げた。
「皆さん、すみません!今は一刻を争います!早く華弦を…!」
すると、壱月が冷静かつ迅速に指示を飛ばし始めた。
「説明は後程致します。手の空いている者はすぐに藤鷹様を医務室へお連れしなさい!それと医者と薬剤師を呼ぶのです!治療の準備と必要な器具の用意も忘れずに!急ぎなさい!」
「畏まりました、壱月様!」
「お嬢様、藤鷹様を此方へ。」
屈強な体格の男性の使用人が華弦を容易く抱き上げ、安定した足取りで邸の中へと進んでいく。気掛かりな色を浮かべながらも、他の使用人達もそれぞれの持ち場へと散っていった。
華弦が運び込まれるのを見届けると、壱月が心配そうな眼差しを向けた。
「羽闇様はご自身の着替えを済ませて一旦休んでいて下さい。」
「休まなくていいよ!私も手伝える事があるなら協力したいもん!」
「お気持ちは重々承知しておりますが、今は私共が動くべき時。それに藤鷹様の事でもしかしたら貴方様のお力が必要になるやもしれません。恐れ入りますが、お部屋でお待ち頂けますでしょうか?…ダリア、羽闇様を頼みます。」
そばに控えていたダリアが心配そうに私の肩に手を添えた。
「お任せ下さい、壱月様。…お嬢様、お部屋に参りましょうか。お顔も酷い事になっていますよ?お召し替えが済みましたら、温かいお茶でもお飲みになって落ち着きましょう?」
「そうね…」
私に出来る事は今は何もない。むしろ足手まといにしかならないだろう。押し潰されそうな懸念を抱えながら、導かれるまま自室へと向かった。
自室に戻ると、ダリアが慣れた手つきで私の背中のホックを外し始めた。華弦に贈って貰ったドレスは今は重苦しく感じられる。
「こんな素敵なドレスが血で汚れてしまって…本当に酷い目に遭いましたね。」
素早く着替えを済ませ、テーブルの上に落ち着きなく置かれていた小さいクラッチバッグを手に取った。中には月のペンダントが入っている。それを取り出し、ひんやりとした感触を手のひらに感じながらしっかりと強く握りしめる。
その時、部屋の扉から静かにノックの音が響いた。
「…羽闇様、壱月で御座います。入っても宜しいでしょうか?」
「壱月、どうぞ…!」
扉が開き、壱月が部屋へ入ってきた。
「失礼致します。」
「壱月…!華弦は…華弦の容態はどうなの?」
祈りと絶望が胸の内でぐちゃぐちゃに混ざり合って、息が苦しい。
「落ち着いて下さい。その前にダリア…申し訳ありませんが、少々席を外して頂いても?」
「畏まりました、壱月様。ではお嬢様、私はこれで失礼致します。」
壱月と交代するようにダリアが頭を下げて部屋を出ていった。
「…藤鷹様の容態ですが、今のところ変化は見られません。むしろ…僅かではありますが、悪化している兆候が見られます。」
「そんな…!お医者さんは?薬剤師さんは何て言ってるのよ!?」
「邸に保管されている様々な解毒剤を注意深く調べた結果…残念ながら、藤鷹様が受けた毒に直接的に効果のあるものは発見されませんでした。」
じゃあもう、手はないっていうの…?
希望の光がゆっくりと消えていくのを感じる。
「ですが、羽闇様。最悪の事態ばかりでは御座いませんよ。幸いな事に専門の分析家のおかげで藤鷹様の体内に侵入した毒の主要な成分を特定する事が出来ました。」
「本当!?じゃあ、その解毒剤は…!」
成分が特定出来たのなら、きっと解毒剤も作れる筈だ。
「はい。只今、月光家専属の薬剤師がその特定された成分に基づき、至急解毒剤を調合しております。彼の腕は確かですので、最良の結果が出る事を期待しております。」
第49話お読み頂きありがとう御座います!
華弦を救うべく皆が力を合わせる、緊迫感のある展開でした。羽闇の不安とそれでも諦めない強い気持ちを印象に残して頂けたら嬉しいです。
刻一刻と迫るタイムリミットの中、華弦の命運は果たしてどうなるのか!?
次回もお楽しみに!




