「下校電車で聞いたある学生二人の会話」
(初出 note、2023年9月12日)
「お前さ、今日誕生日じゃね?」
「あれ、お前に教えたっけ?」
「いや、LINEのプロフィールで設定してるだろ? 俺、LINE交換すると真っ先にそこが目に入るんだよね」
「それで今まで覚えてるの、すげえな」
「とりま、おめでとう」
「サンキュー。いや、設定してはいるんだけどさ、何か年々お祝いのメッセージ貰う件数が減ってんだよな。中学校時代は友達と、一部の女子からだけは毎年言われていたんだけど」
「しれっとモテアピール乙。過去の栄光に縋るのは浅ましいぜ」
「そういう訳じゃねえけどさ。でも、高校入ったら同中の友達全然居ねえからさ。それに俺、中学の頃はスマホ持ってなかったし。……で、何の話だっけ?」
「お前の誕生日な」
「そうそう。年々たんおめ減って、今年は無事ゼロ件でした。対戦ありがとうございました」
「何か悲しい奴だな……っていうか、お前もう十八かよ?」
「そうだな。お前、早生まれだっけ?」
「ああ。だからさあ、何かお前が成人したって聞いてもいまいちピンと来ねえんだよな。どうよ、感想としては?」
「感想?」
「成人した気分ってどんなもんよ?」
「別に何とも。まだ受験すら終わっていないし、アルバイトもしていない。彼女も居ない。酒も煙草も二十歳までは駄目。おまけに成人式の扱いがどうなるかだって、まだ市町村によってバラバラだろ?」
「まあねえ。でも、十八で成人だから成人式も十八歳の一月八日にします、とか言い出したら公務員の頭腐ってるわ、って思うね。受験期間真っ最中じゃねえか、呑気に偉い人の挨拶なんか聞いていられるかっての」
「酒も飲めないし?」
「お前、飲みたいの?」
「別に。一回飲んだらさ、依存性があるんだろ? 酒税は掛かるわ色々健康に関わるって小学校から言われるわ、悪い事ばっかじゃん。最初の一回を飲まなけりゃいいのにさ」
「でも、場の空気とかあるじゃん? 会社とかで宴会に誘われたりとかさ」
「それで断っても飲まされたらパワハラだぜ?」
「そうだろうよ。でもそれは法律の話でさ、実際断りづらくね?」
「……俺、一回そういう席で飲んだらわざと罵詈雑言でも吐いてみようかな。そうして翌日に記憶ない振りすれば、皆『あいつには酒飲ましたらいけねえんだ』って自然に分かるだろうし」
「すげえ嫌がってんじゃん。俺は飲みたいかな、合コンとかで」
「やっぱ酒飲める男じゃねえと彼女出来ないのかな?」
「それは知らんけど。っていうか、『酒飲めたら大人』ってイメージが強すぎるんだよな。だからお前、十八歳成人って言われてもよく分かんねえ。お前としては、いつ自分が大人になると思う?」
「場合によりけりだな。自分が今子供だとは思わねえけど、やっぱり親と一緒の家に居ると『大人ではねえな』って思うかな。一人で色々契約出来るっていっても、スマホも当分買い替えねえし。習い事とかにも興味ねえし」
「選挙は? 今丁度、市議会議員選挙やってるだろ?」
「ああ、あれは駄目だよ」
「駄目?」
「行く気にならねえ。阿呆じゃねえかって思う」
「俗に言う『若者の政治離れ』?」
「違げえよ。うちの祖母ちゃんもニュースで投票率が出る度に近頃の若者は無責任だ無責任だって言うけど、誰のせいだと思ってやがる、って話。俺は現実の政治についてちゃんとニュース見て、世間も見た上で胸を張って『選挙には行かねえ』って言いたい」
「何でさ?」
「文句だけ言って一丁前に”国民の政治”とやらに参加した気になっている馬鹿どもと同じフィールドに立っていると思われたくねえ。お前さ、SNSやってる? たまに政治垢からフォローされるけどさ、汚ねえ言葉で文句を言っている奴とか、たまたまテレビで齧った知識でわあわあぎゃあぎゃあ騒ぎ立ててる奴以外に見た事ねえよ、その界隈」
「キッショいなあ」
「『現政権に文句を言える奴は選挙でちゃんと一票入れた奴だ』とか宣った奴が居たけどさ、俺から言わせて貰えば『選挙に行ってちゃんとこの人以外にねえ、って政治家に投票して、それでもその人が当選しなかった奴』だけが文句を言う権利があると思う。俺が見ているような奴ら、誰が大臣になったところで揚げ足取る事しかしねえと思うな。そういう奴に限って選挙に行け行け、若者が政治に無関心だ、日本の未来は真っ暗だ、こんな国嫌だ、海外にとんずらしてやる、とか言うけど、『じゃあお前誰に投票してんだよ?』って話。ああいう事言う奴らが誰かを支持している姿、俺には想像がつかねえ」
「そういう奴らだって、どうせ日本以外で暮らせるような一端の技能も持っていねえ癖にな。確かに俺も、『てめえが国動かしてみろや』って思うわ」
「被選挙者の候補もまるで推す気になれねえ。自分の政党の謳い文句については、国民の皆様を笑顔にしたいだの、苦しい生活に終止符をだの、使い古されたキャッチコピーしか言わねえ癖に、他政党の不平不満ばっかり論いやがる。選挙車来る度に中指立てたくなるんだが」
「まあ、俺も否定はしねえけどさ。この点に関しては『それはどうかな』って思う事もあるかな。選挙車が選挙活動の全てじゃねえだろ?」
「って言うと?」
「例えば、サイトがある。これもまあ、偉い人たちがいわゆる『若者の政治離れ』をどうにかする為に作ったものらしいんだけど、幾つかアンケートに答えるんだ。回答者が今の暮らしについてどう思うか、何か生活していて不便を感じるような事はないか、政治についてどう思っているか、みたいな質問があって、それに答えていくと今の自分の考えにいちばん近い候補者を教えてくれる」
「だけどそれ、凄く危うくね?」
「そうかな?」
「その政権のデメリットについて分からねえじゃん。あっちが立てばこっちが立たずみたいな事も、実際はあるだろうし」
「確かに、メリットしか分からねえって事もある。そもそも俺たちがして欲しい事の為にどんな法律が要るのか、素人からすりゃちょっとな。分かりやすくするにも、ただ短慮を増長させるようなものであっちゃ駄目だ」
「消費税を軽くします、とか言っている人が、その代わり、国家予算に於ける社会保障関係費を大きく切り捨てます、とか言い出したらどうする? それに、そういう金銭に関わる事で負担軽減するのって、必ずどっかで埋め合わせねえといけなくなるんだからな」
「教育無償化とかも、その予算の為に増税とかになっちゃ本末転倒だべな」
「具体的に何をするのか、それをする為にどんな方針を組んでいるのか、そこまでちゃんと口頭で説明された事があったか?」
「まあ、そういう面もきちんと調べなきゃだよな」
「だったらさ、もっと分かりやすい宣伝はねえのかよ、って思わん? 白昼堂々パラリラパラリラ、町内を怒鳴りながら練り歩いてさ、受験生の邪魔をしたり神経を逆撫でしたり、そういうの要らなくね? もっと国民に、政治に関心を向けさせたいんだったら、そういうキャンペーンをもっと目に付くようにしろって言いたいね。あれじゃどんなご立派なスローガンを掲げていたところで、俺含め馬鹿な奴らに投票する気を起こさせようなんて、土台無理だね」
「お前はそこまで分かっているんだろうけど、関心ねえ奴は本当に感心ねえからな。知る機会を作ってやらねえでやいのやいの喚いているのは、まあ言えてるっちゃ言えてる」
「生半可な知識だけ、分かりやすく入るんだよ」
「確かになあ。今じゃ選挙っていえば『うるさい』だもんな。GoogleとかYahoo!の検索ボックスで『選挙』まで入れると検索候補に『うるさい』が出てくる世の中になっちまってるし」
「関心がないとか言われている連中にとって、選挙といえばパラリラパラリラの印象しかないんだろうな。子供たちだってそうだよ、それこそあの子たちは、イキッてる政治への文句界隈がいう将来を担う世代なのに、間違った印象を大人の方で植え付けてどうすんだよ、って話」
「そうなの?」
「ああ。俺の親戚の知り合い……って最早他人で、俺にもどういう関係なのか分からねえんだけど、被選挙権使った人が居るんだよ。だけど見事落選したらしくってさ。この間俺ん家に来た時にその親戚が面白おかしく喋っててさ」
「おう」
「俺それ聞いて、へえって思って家の近くで中学校時代の友達と話してたらさ、裏の家の息子、小学校低学年くらいの子がさ。たまたまそこを通り掛かって、聞いてきたんだよ。『選挙の車から落ちたの?』って」
「ははは! 落ちたって、そういう事かよ!」
「笑えるけど、よくよく考えたら大変だぜ? まだ社会科を習う以前だから仕方ないかもしれねえけど、選挙何それ美味しいの、みたいな人たちからすればさ、選挙って聞いた時に真っ先にあのパラリラパラリラが頭に浮かぶって事だよ。無知な子供の第一印象として、それ。ヤバくね?」
「まあ俺も、確かに選挙権のねえ身分からすれば、街頭演説以外に何してんの? って思う事はあるべな」
「仮に何かやってたとしても、台なしだよ。何でいちばん、問答無用で他人の耳に叩き込める広報活動でああいう綺麗事五割、他人の悪口五割みたいな事しか言わねえんだろう」
「あと、図々しいのは無理」
「分かるわー! 駅から帰る時、バスがもう一分あるかないかで言っちまうって時にチラシ配られて、マジで怒鳴りたくなった」
「それな。俺はこの前、家に一人で居て夕方親が妹を病院に連れて行っていた時、自分で夕飯作ってたんだけどさ。急に電話が掛かってきて何事だって思ったら、何とか党の誰々です、って言う訳よ」
「ふむふむ」
「で、今父さんや母さんが在宅か、って聞くから、居ません、って言ったのさ。そしたら今度は、誰に投票するか決まっているようですか、って聞いてくるのよ。俺は、分かりません、って答える。そしたら……おっと!」
「ちょ、凭れ掛かんなよ」
「悪い悪い、ってか、いつでもこの駅通過すると派手に揺れるよな。……で、何処まで話したっけ?」
「家に電話が掛かってきて、誰に投票しますか、って」
「それだ。俺が分かりませんって答えたら、もし決まっていないようなら何とか党の誰々に投票して下さい、とか言う訳よ」
「それお前ん家の向こう三軒両隣、町内で一軒一軒全部やってんなら大した努力だって思うね。TwitterとかInstagramの無差別フォローと同じ。数撃ちゃ当たるから、承認の為なら無駄な努力は惜しまない」
「でさ、結局鍋を吹き零れさせて、もう少し遅れていたら鍋燃やして火事になってるところだったわ。お前、考えてもみろよ、六時半過ぎだぜ? 家庭じゃ絶賛夕飯の準備中じゃん。国民の為の政治とかいうなら、そんなちょっと考えりゃ分かる事くらい弁えろっての」
「俺もこういう話聴いた事あるんだけどさ、選挙カーって八時頃まで回れる事になってんじゃん? だけど、赤ちゃんとかってその時間帯からもう寝る訳よ」
「あの放送で起きちゃったとか?」
「その子の親が、泣き止まないその子を一時間近くあやして、ようやく眠ったからベッドに寝かせようとした時に、家の前であの大声よ」
「酷っでえ話だな」
「しかもその候補者の言っている内容がさ、『私は親御さんが安心して子育てを行える社会環境の構築に努めます!』だったってお話」
「何の茶番だよ、それ……」
「何で人って、あそこまで図々しくなれるんだろうな」
「全くだ。……ってか、俺たち一体何の話をしているんだ?」
「高校生の会話じゃねえな。この会話聴いて政治家にそうだそうだって抗議したり、俺たちの事を何にも分かっていない世間知らずのガキだとか思っている人が居たら、そいつらも視野が狭いと思うね」
「どうしてさ?」
「俺は確かに選挙のやり方は萎えるけどさ、それだけ見て批判を垂れ流すんじゃアンチ政治界隈の奴らと同じだろ。随分脱線しちまったけど、俺は選挙でちゃんと投票したって得意げな奴らも無責任だと思う」
「てめえらで投票した癖に、文句しか言わねえのは何だ、って?」
「勝手にやってりゃいいと思うよ。でもさ、俺もそういう奴らと同列に扱われて、引っ括られて見られるのは勘弁」
「第一さ、間違えたところが微塵もねえ政治家なんて出るはずがねえんだから。それをもっと、知った顔してる連中は知るべきだと思わん?」
「というより、人はずっと同じだと耐えられなくなるんだよ。現社のビデオで見せられただろ、消費増税の時も国債発行についても、最初はそれこそ大騒ぎして、二回目以降は『はいはい、またですか』みたいな。政権だって、二回連続で同じ人が来れば萎える。そうすると叩きたくなる連中が出てくる。人なんだから、叩けば何かしら埃っぽいものは出てくる」
「アンチどもに便乗する訳じゃねえけど、ずっと同じ政党の政権が続くのは駄目だっていうしな」
「世論調査でさ、内閣を支持するって答えた人の理由を見た事あるか? 理由の中にさ、『他の内閣よりも良さそうだから』ってあったんだぜ? 何だよ、『良さそう』って。こいつら絶対選挙行かねえか、言っても同じ人に投票してんじゃん。で、選挙行った自分に酔ってるアンチども、誰も彼も揚げ足取って叩く奴は、『停滞は駄目だ』っていうなけなしの指針で誰か彼かに投票する」
「仮にさ、それであるアンチ、まあAとしよう」
「アンチだけに?」
「Bでもいいんだけど。そのAだかBだかが投票した政治家が当選して、最終的に内閣総理大臣に選ばれたとしよう、その大臣が、在任中に奇跡的に何もやらかさなかったとしよう。次の選挙の時、Aは何か理由を付けて別の候補者を選んだとする。その時、こいつの投票にこいつの意志は働いているか?」
「いや、機械的だって俺は思うね。その『停滞は駄目だ』っていう事を、自分自身で法則から見つけ出してでもいねえ限り」
「誰かの理論を齧っただけで、自分のものみたいに語る奴も居るからなあ」
「理論自体には一理あってもね」
「だけどさ、それじゃ選挙はもう形ばかりって事だよな。何だかよく分からないから現政権の指導者に投票した奴、何だかよく分からないけど同じ政権だと駄目だって思うから別の候補者に投票した奴、何だかよく分からないから棄権した奴。その割合が微妙に動くだけで、結果が変わる。国民が『この人がいい』って選んだ訳でもねえ人が国のトップに行く」
「じゃあさ、もう毎度違う人でローテーションすれば良くね? って話になるわな。それでなって困るような議員は居ねえ訳だろ? 国民の意志で選ばれたって事なんだから」
「誰か彼かには投票されている訳だもんな。投票して悦に入っている奴含め。だけどそれで叩きたがる奴も居る」
「それで何で、叩いていい権利があると思ってんだろう、そいつに投票した奴?」
「いい人だと思ったのに、くらいは後から幾らでも言えるからな」
「責任放棄だ」
「幻滅って、最低な言い訳だよな」
「ああ。誰だって、停滞すれば悪く見えてくる。果物を放置しておくと腐っていくのと同じだよ。もしそれで、本当にアンチどもがぐうの音も出ねえような政治家が現れるとしたら……」
「としたら?」
「そいつは、独裁者になってもいいな」
「問題発言だよ、それは」
「誰がどう見ても正しくて、誰にとっても最善で、何処まで引き延ばした将来に行っても絶対に選択が間違ってなんかいなかったって言えるような人が現れたらだよ。しかも結果論じゃなくて、過程でも誰かに不満を抱かれる事がないような。一人にも、一瞬たりとも文句を言わせねえような」
「そんな人、居る訳ねえじゃん。社会保険にしたって、税金を納めるのは若い世代、年金を受け取るのは老人なんだから。若い世代の負担を軽くしようとしたら年寄りへのサービスが緩くなって不満が出るし、逆に年寄りにちゃんと尽くそうとしたら、超少子高齢社会だ、若者が文句を言う」
「いい奴かどうかなんて、そいつを見る奴がどんな立場に居るのかでも変わってくるだろうしな」
「だから、そんな独裁者になっても許される偉人なんか出ねえよ」
「世間的に許される偉人、な。正確には」
「罪を憎んで人を憎まず、じゃなくて、最近じゃ何か一つ問題行動を起こせばそいつはクズ、みたいな風潮になってきてるからなあ」
「政権が代わってさ、何か目に見えるような変化が起こった事あったか?」
「知らんけど、代わったところでアンチは変わんねえよ」
「分かったよ、俺」
「何が?」
「叩きたいから叩いている奴らが多いんだ。自分のストレスとか、不安とか、そういうのをもっと大きい、社会とか世界に直結するような事に押し付けちまいたい奴ばっかりなんだ。自己中だよ」
「気持ちは分からんでもないけどさ、俺掲示板サイトとか大嫌いなんだよな。掲示板とYouTubeコメント欄の返信だけは見ちゃ駄目だ、って思ってる。何で自制出来ずに喋るんだろうな? 誰の目にも留まるような場所に」
「俺あいつら見てると、『こいつらは何かに感動出来るような心を持ち合わせているのかな?』って不安になるもん。しかも圧倒的に多いしどいつもこいつも同一人物じゃねえだろうし、そいつらが道で擦れ違っているかもしれないとか考えるだけでぞっとするんだよな」
「税金納めているだけまだマシだけど」
「納めていないかもしれねえよ?」
「そしたら、そういうサイトで呟く事も出来ねえじゃん」
「ははは、確かに。とにかくさ、そういう馬鹿の過剰な攻撃は無視するにしても、誰が見ても間違っているような……例えば感染症対策だったりとか、制度改革だったりとかで失敗したり、そういうので叩かれる場合もあるじゃん? そこではしっかり誤って、潔く失策は取りやめる。そうすりゃアンチも、そう春夏秋冬四六時中、相手を叩き続ける訳には行かねえよな」
「それもそうだなあ。最近じゃやるなって言われている事は反対を押し切って『ちゃんと説明するから』って言ってやって、逆に『これをして欲しい』って時には『前向きに検討します』ばっかりだもんな。その上失敗したらその都度謝罪して、下劣な記者とかが煽りに煽って、当事者はのらりくらり言い訳して、って、また『中身が伴っていない』とか叩いて、その繰り返しだ。アンチも湧く訳だ」
「鶏と卵みたいだな。失政が先かアンチが先か、分からねえ」
「最悪な形での偶然の一致だよ。むしゃくしゃして誰かに八つ当たりしたい奴と、失敗して反省する気がねえ奴と」
「言われた奴がムカつかねえなら、それでいいのかもしれないけど」
「見てる方がムカつくんだよ。ガキっぽくて、滑稽だって笑えればいいんだろうけどさ、俺たちだってストレス溜まる事くらいあるよな?」
「あるあるだ。それに、将来についての不安も」
「進路?」
「いや、さっき社会保障の話をしたらまた思い出しちゃってさ」
「増税? それとも、社会保障関係費の削減?」
「お前は祖父ちゃん祖母ちゃんと同居しているんだもんな。そりゃ心配にもなるだろうよ。……俺は、どっちもかな。これから、日本の少子高齢化はもう解消されないと思う。だから個人の負担がどんどん重くなって、消費税五十パーセントとか、とんでもねえ事になる。そして、俺たちが丁度定年を迎える頃に、二進も三進も行かなくなって、仕方ねえから社会保障制度を大きく削るべってなるんだ。こういう事を雑談で親とかに言うと、だからあんたたち今の時代の若者は可哀想だと思う、とか言われるけどさ、その言葉に何か、自分が一世代上で良かった、みたいな安心が感じ取れちまって。……さすがにそこまで考えが行くと、俺の方が捻くれているって事になるのかな?」
「税金で払った保険料、返って来ねえじゃん!」
「ワンチャンどころか思いっきし有り得るぞ。はあ……年取るって嫌だな」
「若者の声を届けましょう、とか、やんわり『若者の政治離れ』とか批判する奴は言うけどさ。選挙に投票しろって」
「少子高齢社会なんだから、有権者全員で投票したら老人に有利な人が当選するに決まってんじゃん」
「現社の先生も先生だ、どうしてこう、将来に対して気が重くなるような、萎えるような事ばっか言うんだろう。こうなるから覚悟しとけ、って事なのかな? 中学校の文部科学省が出している教科書にもそういう事が載ってたけど、それが国の言う事かよ、って」
「国を変えるのは若い力だとか、ツケ払いを俺たちに支払わせたい奴らが何言ってんだ、みたいなとは思うよ。まずは選挙の一票を、とか」
「その選挙が、グダグダなんだからなあ」
「まずはこの市議会議員選挙が終わってくれって願うばかりだな。将来の力にしたいなら、まず受験勉強に集中させてくれ! 頼むから!」
「俺、十八歳になったけど今日誕生日だから今回の選挙の投票権ねえし」
「行かねえって言っただろ、お前は」
「ああ。権利を使うかどうかはそれぞれなんだろ? 綺麗事言った上で『強制はしないけど行った方がいいよ』とか圧掛けてくる大人ばっかりだけどさ、俺は知らねえとか、面倒臭せえとかで行きたくないんじゃなくて、ちゃんと考えて投票しねえって決めたんだから」
「そういう圧掛けてくる連中に限って、説得に『誰にでもいいから入れて来な』とか言うんだよな。はいダウト、本心出ました、って感じ」
「ワクチン出来た時と同じだろ。権利であって、意志の決定は究極的には当事者個人なんですよ、って。それで打たなかった人だって結構居るんだし、他人の決定について勿体ないとか怠慢だとか無責任だとか、そういう自分勝手な事は言っちゃいけないと思うよ」
「いやあ、お前があと一週間くらい早く生まれてたら、『あいつの誕生日プレゼントは選挙権でした』とか笑えるジョークを皆に言えたのになあ。どうでもいいけど、何か残念」
「ははっ、要らねえよ」
「でも、客観的に見ればすげえ価値があるもんなんだってよ、選挙権? 衆議院選挙だと、国の年間予算×政治家の任期÷有権者数で、四百万円とか五百万円とかなんだってさ」
「何だよ、その計算。国の予算が全部選挙権に使われているよ、みたいに見えちまうのは俺が馬鹿だから?」
「意図的に誤解させるように書いてるんじゃねえの?」
「結局何なのよ、そのソース? ブルドッグ?」
「俺もよく分からん。どっかのニュース記事に書いてあった。どれもただ数式だけ提示して根拠を言わないから、へえとも思えんわ」
「高校生の資金力じゃ、金額もさっぱりだな」
「牛丼何百杯とか、タピオカ何千杯とか、そんな言い換えされても、って感じ」
「一杯で結構、ってか」
「そういえばお前さ、本当は誕プレ何が欲しい?」
「ええー、考えてなかったな……」
「ファミレスで選挙権分何か食うとか?」
「奢ってくれるならいいけど、それならもっと高いとこにする」
「いいけど、俺の財布にも限界があるんだからちょっとは遠慮しろよ」
「冗談だって。でもまあ、俺たち最近ずっと受験対策ばっかりだから、たまには息抜きに打ち上げでもするのも悪くねえかもな」
「打ち上げ兼ねてやるか。場所は……って、俺次の駅で降りなきゃ。もうすぐ着いちまうわ」
「あー、じゃあ、また明日詳しい事は決めよう。日程だけど、土日なら俺全然空いてるからいいよ」
「オッケー、俺も色々調べておくわ」
「頼んだ。……そろそろ、お前出口に近い方に立ってた方がいいな。もう駅だ」
「ああ」
「………」
「………」
「着いたな。じゃあ、また」
「じゃあな、また明日。喋りすぎて喉渇いたから、ジュース買って帰ろ」
(下校電車で聞いたある学生二人の会話・終)




